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*27*リオンのregret Ⅰ

リオン視点になります。

 ぱさりと、再び同じ場所へ彼女を横たえた。

 そして、近くにあった簡素な椅子へと腰掛ける。


 もう心の中でしか、おまえの事を「ローズ」と呼ぶことが出来ないんだな……。


 そして、そっと彼女の頬に手を添えた。


「……っ……」 


 何故、こんな事になってしまったんだ……――――








 ――――「おぎゃぁぁぁぁ……」

 オレの一番初めの記憶は、母上がいなくなった頃。

 そして、腕の中で泣きじゃくるリーリエの声。

 

 叔母上や侍女たちが必死にあやしても、リーリエが泣き止む気配はなかった。ローズも心配そうにしてた。



 それに何より、父上や母上が傍にいない事が、とても不安で悲しかった……。


 幼かったオレは、まだ「死」というものを良く理解出来ていなかった。

 けど、周りの大人たちが慌ただしく動いているのを見ていたし、父上や叔父上、叔母上、それに家臣たちもがひどく悲しんでいる姿を見て、「ああ、母上はもういないんだ」と、何となく気付いていたんだと思う。

 

 今でも目に焼き付いている。

 棺に入れられ、眠ったように動かない母上の姿。



 でも、そんな時、ローズがぽつりとオレに言ったんだ。


「ねえ、リオンのお父さまにたのんでみたら?」

「ちちうえに……?」


 オレは、少し躊躇した。自分にとって父上は、大きすぎて何となく近寄り難い存在だったから。


「きっと、だいじょうぶよ! お父さまだもん!」


 そんなオレの様子に気付いたのか、ローズは笑ってそう言ってくれた。その笑顔に勇気をもらったオレは、エスポワールの間に向かった。



「お前たちは私の宝だ。希望だ」

 


 そう言って父上が抱きしめてくれた時、オレは本当に安心したんだ……。


 


「リーリエ」

「おとうさまっ!!」


 だから、リーリエが、父上に強く抱きしめられているのを見ていても……


「わたくし、苺のほうがいいですわ!!」

「そうか。じゃあリオンは、こっちの方でいいな」

「はい……」


 苺のケーキが食べたくても……



「おまえは”兄”なのだからな」



 我慢してた。

 本当は、「抱きしめてほしい」「苺のケーキが食べたい」って、そんな事が素直に言えなくて……。



 こんな時は、決まってアイツに会いたくなった。



「あっ、リオン!! いらっしゃい!どうしたの?」


 ローズは、オレを見付けると直ぐに駆け寄って来てくれて……


「リオン……」


 涙をそっと拭ってくれて……


「大丈夫。リオンは、お兄ちゃんとして頑張ってる」


 ぎゅっと抱きしめてくれて……


「ね?だから、またあそこ行こ!」


 それから微笑んでくれて、手を繋いでくれて、オレたちの大切な場所まで……。

 

 


 でも、オレはいつしか気付くようになる。

 自分が「王太子」で「次期国王」で、「普通の子供ではない」のだということに。


 自分にとって大きすぎる父の存在。

 そもそも、「国王」というモノがどんなモノなのか、どんな意味を持つのか……。幼かった自分には、よく分からなかった。


 だから、余計に恐ろしかったんだ。


 「父上のような(ヒト)になれるのか?」、「いや、ならなきゃいけない」――そんな自問自答を常に繰り返してた。


 不安で怖くて……。

 でも、ローズがいつも傍にいてくれたから頑張れた。

 ずっと一緒にいられると思ってた。



 それが、あんな事になるだなんて――――




 


――――あれは、父上と叔父上の執務を手伝っていた時だった。と言っても、子供だった自分に出来る事などほとんど無かった。

 


「リオン。お前、最近目が悪くなってきたんじゃないか? 目を細めてる事が多いぞ」

「え……?」


 突然、父上がそんな事を言い出した。


「ああ、そうだな。私もそう思ってた」


 叔父上にも、同じ事を言われる。

 確かに、それは自分でも感じてはいたのだ。けど、何となく眼鏡を掛ける事に抵抗があったから特に父たちに知らせてはいなかった。

 だが、気付かれてしまったのならば仕方が無い。オレは素直に話した。


「そうですね……。確かに少し見づらいです」

「そうだろう? ……よし、決めたぞ!」


 父は「良い提案(アイデア)を思い付いた」という風に、パッと表情を明るくさせる。


「え……? 決めたというのは?」


 オレは意味が分からず、父上に尋ねた。


「明日、おまえの10歳の誕生日だろう? これから眼鏡を買いに行くぞ」


 そう言って、父はニッと笑ったのだ。


「え?これから、ですか……?」


 オレは戸惑ってしまった。

 これまで急に城下へ行くだなんてあり得なかったし、何より父からのそんな申し出をされた事さえ無かったからだ。それに欲しい物があれば、こちらから出向かずとも商人の方から来てくれる。


 でも、素直に嬉しかった。


 ――父上からのプレゼント――


 そんな響きが、くすぐったくて心地良くって……。


「ああ。嫌か?」

「え……? いいえ、欲しいです!!」

「良かったな、リオン」

「はい!」


 多分オレは、とびきりの笑顔になっていただろう。叔父上からの受け答えにも力が入ってしまった。自己申告せずにいて良かったとも思う。


「何を言ってるんだ? アレクシス、お前も行くんだ」

「え……?」


 叔父は、目を丸くして驚いていた。


「わ、私もですか……?」

「ああ。偶には男三人で、というのもいいだろう?」

「……まぁ、そうですね。確かに、今までそんな事ありませんでしたし」


 父上と叔父上と外出かぁ……。


「ふっ……」


 オレは、ちょっとした旅行(ピクニック)にでも行くような気分になり、胸が弾んでいた――





――そうしてオレたちは、たくさんの兵士を伴って城下にある眼鏡店へと向かった。そこは、上質な物が揃っている事で有名な店だった。

 けれど、さすがに店主も驚いたのだろう。右往左往と慌ただしく動きながら、冷や汗を垂らしていた。

 突然、国王に王太子、王弟が現れたのだから当然だろうとは思う。


 様々な眼鏡を試してみては、ああでもない、こうでもないと父や叔父と相談し、最終的にはオレが一番気に入った「縁なし眼鏡」を父上にプレゼントしてもらったのだ。

 


 店を出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 その時には、オレはすっかり上機嫌だった。

 その上、叔父上にも「良かったな」と言って頭をくしゃりと撫でられた。叔父にそんな風にされる事など数える程しか無かったから、それもまた嬉しかった。




 けど、城に戻って来てから何か様子がおかしかった。「何が?」と聞かれれば答えられないが、城の空気がいつもと違っているような気がしたのだ。

 

 その折、向こうの方から大きな体をした兵士が近寄って来るのに気付いた。それは、大勢の男たちを束ねる程の実力を持つ兵士、ダインだった。

 彼は、父上を目にした途端に一目散に駆け寄ってきて、何かこそこそと耳打ちしていた。

 それを聞いた父上は「なんだと……」と、顔色を一変させたのだ。


 何だ……?


「リオン、お前は先に部屋に戻れ」

「……? 分かりました……」


 そう言われて、オレは訳も分からないまま兵士を伴って私室に戻り、幸せな気持ちのまま眠りについた。

 「明日の誕生日は、どんな風に祝ってもらえるのだろう」――そんな事を考えながら……。

 


 

 その時、オレはまだ知らなかった。

 この日が、オレたちの道を分けてしまう事になるだなんて……。

 

 

 



 


regret=後悔、悔恨、悲嘆、落胆


この小説を書いている時、偶々You-Tubeを流し聞きしていたら、これまんまリオンのテーマソングだ!という曲がありまして、それからすっかりその曲をエンドレスリピートしてます。


その曲のなかに「リグレット」というフレーズが入っているんです。

ヒント:90年代JーPOPのグループ(3人〔女・男・男〕→2人〔女・男〕→1人〔女〕とメンバーが減ってます)


リオンの過去話が終わったら答えを教えます!よほど暇だったら考えてみて下さい!

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