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*20*始まりの場所

 トマス・グロスター公邸へは、予定通り夕刻前には到着した。

 白い煉瓦造りの邸宅は、当然リーリエたちの(いえ)に比べれば規模は劣る。それでも、十分な気品に溢れた美しさがあった。そこかしこに長方形の窓が備え付けられ、暖かな日差しが射しこまれているし、庭園には赤や橙の雛罌粟(ポピー)が、特に際立って美しく咲き誇っていた。


「ようこそ。お待ちしてましたよ、殿下」


 大仰な木造の玄関(エントランス)の前で、老齢の男性が待ち構えていた。

 白髪交じりの彼の顔や手には、これまでの年輪が深く刻み込まれている。背中はいくらか曲がってしまっていて、(ステッキ)を使い立っていた。丸い老眼鏡を掛け、黒色のフロックコートに身を包み、首元には蝶ネクタイが巻かれている。


「ええ。明日まで宜しく頼みます」


 リオンが、トマスの正面に立ち挨拶をする。

 当然トマスの方が身分は低いが、父の叔父であるし、自らの大叔父でもある為、リオンは敬語を使って話していた。


「お久しぶりですわ。大叔父様」

「こんにちは」


 リーリエとローザリカも彼に続く。

 彼らの周りには、クライドやミリアを筆頭とした30程度の近衛兵も控えていた。そこはまるで、リオンを中心とした合唱隊のようだ。


「ああ。リーリエとローザリカもよく来たね。……で、そちらに居るのがもしかして……?」


 トマスは、彼女らの傍にいた青年(カレ)を覗い見た。


「お初にお目に掛かります。オチェアーノの第三皇子、クリスティアンと申します。この度は、ご招待を頂きまして誠にありがとうございました」

「いえ、そのようにご謙遜されないで下さいませ。こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します」


 右手を胸に添え、丁重な挨拶をしたクリスティアンに対し、トマスは慌てて頭を下げた。


「いえ、本当にそう思っているのですよ。アルダンへ来て、まさか領地にまで足を運ばせて頂けるとは思っておりませんでしたから」

「そうですか。このような辺鄙な所ですが、どうぞお寛ぎ下さいませ」

「ありがとうございます。とても木々が多くて、美しい場所ですね。自然を堪能させて頂きます」


 ここは馬車で数刻の場所ではあるが、王都から外れた郊外に位置していた。

 彼らは笑顔を浮かべ話していたが、ふとトマスが何か思い出したようにローザリカへと顔を向ける。


「ああ、それからローザリカ。この御方との婚姻が決まったそうだね?寂しくはなるが、元気でやるんだぞ」

「はい……。けれど、まだそんな言い方をしないで下さいませ。明後日の宴でも、お会いするではありませんか」


 2日後の夜は、城で婚約披露パーティーが開かれるのだ。

 そして、次の日に出立する事となる。


「ああ、そうだな。アレクシスたちもいるし、楽しみにしているよ」

「ええ……」


 ローザリカは、寂しさをうかがわせながら笑った。


「……」

 

 その場は、暫し静寂に包まれる。

 2日後のパーティーでは、嫌でもこのような場面に出くわす事になる。リーリエは、それを想像して暗鬱とした気持ちになった。


 ――本当にお別れなのですわね……。


「さて、夕食の時間までもう暫くある。ゆっくりしていっておくれ」

「はい。ありがとうございます」


 リオンが代表をして礼を述べる。

 そして、こちら側を向いた。


「では、お言葉に甘えるとしようか」







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