*19*家族の繋がり
「あっ! そういえば……」
突然、クリスティアンが声を上げた。
「僕の曾おじい様の妹と、ローザリカたちの曾おじい様って夫婦だったんだろう?」
ローザリカは、急に意外な話を始めた彼に目を丸くして驚いたようだった。けれど、直ぐに落ち着き払い「ええ、そうよ」と返答する。
リーリエたちが産まれた時、既に彼らは他界していた。けど父から話は聞いているし、王家の家系図にも、はっきりと彼らの名前が載っている。
「殿下のミドルネームである”レオナルド”は、その曾おじい様から頂いたものなのよ」
「えっ!! そうなのかい!?」
「え……? あ、ああ……」
不意にクリスティアンから友達口調で話し掛けられたリオンは、一瞬大きく目を見開いた。彼に応じた事で、こちらを向く形となる。
クリスティアンは、興奮気味に続けた。
「実は、僕の曾おじい様は”クリステン”というんだ! 僕の名前のクリスティアンも、曾おじい様から頂いたのさ! 僕たち同じじゃないか!!」
「同じ……?」
彼は「ははっ」と嬉しそうに笑っているが、リオンは腑に落ちない表情をしていた。
「それにさ、それってもう僕たち”家族”って事じゃないか!」
「家族……?」
彼の発言に最も早く反応したのは、意外にもリオンだった。
――家族?
「あ、あのクリス様? それはどういう事なのでしょうか?」
リーリエも、クリスティアンの言葉に疑問を感じる。
ローザリカとの婚姻が済めば、確かに「家族」と言えるだろう。
けれど、未だ正式な夫婦である訳ではなく、ましてや婚姻自体オチェアーノで行われるのだ。婚儀が終了したとしても、彼らはそのままオチェアーノに留まり、アルダンへと戻ってくる事は無いだろう。
「家族」だと言われても、いまいち理解は出来ない。
「オチェアーノの城には、ものすごく大きな家系図があるんだ。そこには、何百年と続くオチェアーノのご先祖様たちの歴史が綴られてる。当代から遡って、僕の曾おじい様の妹を辿っていけば、リーリエたちの曾おじい様に行き着くんだろう? それをまた当代まで立ち戻ってくれば、そこにリーリエたちが居るんだ。それってさ、もう家族みたいなものじゃないか!」
「あ……」
リーリエは強く胸を突き動かされたような、とてつもない衝撃を受けた。
そんな考え方をした事が無かったのだ。
――わたくしたちとクリス様は、もう既に家族だったのかしら……。
正確に言えば、「遠い親戚関係」という事になるだろう。けれど、それは僅かながらでも血が繋がっているという証でもあるのだ。
これまでアルダンとオチェアーノは隣国同士ではあったが、曽祖父たちの婚姻後は大きな動きもなく、時の流れと共に繋がりは薄れていた。
リーリエは、幾らかではあるがオチェアーノへの親しみを感じる。
これまでは、たとえ隣国ではあっても、とても遠い所のように思っていたのだ。
――オチェアーノ……。どのような国なのかしら。
リーリエは、これまでずっと城の中で生きてきた。
だからリーリエにとって「家族」とは、彼女を含めた王家6人でしかなかった。
「確かに、そう言われればそうね……」
「……」
ローザリカもリーリエ同様、目から鱗が落ちたようにハッとしている。
けれど、リオンは口元に手を当てたまま、何かをじっと考えているようだ。
「そうだろう?」
クリスティアンの一言から始まり、思い掛けずこの場の空気が和やかになった。
――ありがとうございます、クリス様。
リーリエは、心の中でそっと彼に感謝した。




