今日も世界は愛で満ちている
あぁ!世界って美しい!
今日も空は青いし、花は咲き乱れているし、恋人達は愛を囁いているし、世界は素晴らしく幸せに満ちている!
そんなことを鼻歌交じりに宣う女は間違いなく頭がいかれている。
そんな様子で手には鉈が握られ、豚の胴体をぶつ切りにしているのだから、これはもう精神がおかしくなってしまったと言わざるを得ない。
「あれ、センチョー随分早起きですね。まさか、私に会いたくて早起きしちゃったんですか?」
やっぱりこいつはもう駄目だ。
仕方が無いが海に投げ込んで魚たちの餌にしちまおう。
「センチョーってば何か不穏なこと考えてるでしょー。
そーゆーの、わかっちゃうんですからね☆
何でかって?そりゃ、私がセンチョーの愛するお嫁さんだからです!キャッ、言っちゃった!」
「両手で頬を押さえているが、その手には豚の血がこびりついてっからな。
そんな血まみれの顔でキャッとか言われても寧ろ恐怖しか感じねえわ」
「もー素直じゃないんだから。
でもそんなところもす、き、だ、ぞ」
本気でイラッとして近くにあった果物ナイフを渾身の力で投げる。
無駄口をたたく口を狙ったつもりだったが、起き抜けで微妙にコントロールが外れてすぐ横の壁に刺さった。
「……っち、外した」
「外したって!外したって言った!
可愛い彼女にナイフ投げるなんて酷すぎですよー。
もし万が一当たってこの可愛い顔に傷でもついちゃったらどう責任とってくれるんですか!
はっ!まさか責任とって結婚しようっていう遠回しなプロポーズ!?
やだなぁ、それならそうと言ってくださいよ。私の答えは何時だってイエスなんですから」
顔の真横に刺さったナイフを引き抜いて何事もなかったようにふざける様にため息が漏れる。
「あれ?センチョー聞いてます?」
「出来ることなら10年まえからやり直してぇ」
まさかここまで規格外の化物を育てちまうなんて思わなかった。
10年前の今頃、こいつは木片に掴まって海を漂っていた。
その時まだ自らの海賊を立ち上げたばかり、船長成り立ての俺はついつい仏心を出し、そんなこいつを引き上げ世話をしてしまった。
今にも死にそうだったこいつは3日3晩熱を出したが、その後見事に回復し、今ではこんな生意気な餓鬼に育ってしまった。
「センチョー?どしたんですか?
物思いに耽るなんてジジ臭いですよ」
「今すぐ俺に殺されるか魚たちの餌にされるか、好きな方を選べ」
「それって結局どっちも同じじゃないですかー。
まぁでも……どーせ死ぬんならセンチョーの腕の中で死にたいかな」
本気とも冗談ともつかない笑顔でそう言い放ったかと思うと、また豚肉を切断する作業に戻る。
いつだってふざけた事しか言わないくせに時折本音を混じえるから腹が立つ。
そしてそんなことに気づいてしまう自分にも腹が立つ。
きっと今こいつを殺してしまっても笑顔でそれを受け入れるのだろう。
肉の焼ける香ばしい匂いが意識を浮上させる。
先ほど血まみれになりながら切断していた豚は今やフライパンの上でこんがりと焼かれている。
大して船員も多くないが、毎日3食10数人の男どもの胃袋を満たす食事を作るのは大変だろう。
疲労なんておクビにも出さないからついつい忘れがちだが、こいつはまだ10代の娘だ。
「何か……手伝うことはあるか?」
フライパン片手に寸胴の中をかき混ぜる背中にそう声をかければ、抱きしめて愛情パワーを注入してください、なんて言いやがったので結局殴ってしまった。俺は悪くない。
海賊船の1日なんて暇なもんだ。
襲う商船がそう毎日あらわれるわけもなく、海軍だって俺らみたいな弱小海賊を毎日追っかけてるわけじゃない。
だから日々の雑事を終えてしまえば後はも何をしても自由なわけで、俺は専ら剣の鍛錬に時間を費やす。
大体暇そうな船員を掴まえて相手をさせるのだが、そこに2日にいっぺんの割合でやってくるのがくそ生意気な餓鬼にして我が海賊船唯一の女であるローズだ。
拾ったばかりの頃は俺達の訓練風景を眺めていただけだが、いつの頃か自分もやりたいと強請るようになった。
そんな細腕で剣が振るえる訳がないと追い返せば、数日後にはどこから持ってきたのか短剣を振り回してこれなら持てると宣った。
そこでボコボコにしてやったら懲りるだろうと随分手酷く扱ったのに、また2日もすれば短剣を振り回してやってきた。
正直女の戦闘員なんて足でまとい以外の何者でもなかったので毎回心が折れるように相手をしていたのに、それでもあいつは俺との訓練にやってくる。
そうして3年も経つ頃には俺に引けを取らない程の剣の腕前になっていた。
「嬢ちゃんは今日もいい動きをするなぁ」
いつの間に居たのか、樽の上に座りながら俺達を眺めるズジィが楽しそうに呟く。
そう、3年の修行と言う名の虐めを耐え抜いたローズは俺と同等の腕前になり、更に7年の月日が流れた今、こいつは船で一番の剣の使い手と成長した。
初めて膝をつかされた日の屈辱は今でも忘れない。
爛々とした瞳でこっちを見据えるその顔にあまりにも腹が立ったので、ついつい足払いをしてしまったほどだ。
とにかく今日も食事の仕込みを終えたローズはどこからともなく俺に切りかかってきてそれから随分長いこと剣の打ち合いを続けている。
「センチョー、動きが悪いですよ!考え事ですかっ!」
真上からの重い斬撃を受け止めた瞬間腹に蹴りをもらって吹っ飛ばされる。
畳み掛けるように心臓を狙った一突きを転がってかわし、無防備な喉元に剣を突き出す。
しかしそれも既のところでかわされてしまったので素早く距離を空ける。
「お前今本気で殺りにきただろ」
「センチョーこそ私の動脈狙ったの気づいてますからね!
未来の妻になんて仕打ちですかっ!」
「誰が妻だ」
そこで言葉が途切れて、互いに軸足に力を込める。
瞬間12時を告げる鐘が鳴り、剣が触れ合う直前で止まる。
食事の時間は守る。これがこの船唯一のルールだ。
何をしていても食事時は全員でテーブルを囲まなければならない。
「わっ!もうお昼!
センチョー、私急いで準備してきますね」
バタバタと走っていく姿は既に年相応の顔に戻っていて、先ほどまで殺気を全身から漲らせていた奴と同一人物とは思えない。
その姿を見送くると甲板に勢い良く寝そべる。
蹴られた腹は恐らく肋骨が折れているし、斬撃を受け止めた腕は未だジンジンと痺れている。
「船長大丈夫ですか?」
ニヤニヤ笑うその顔は明らかに心配などしていないだろうが、今は突っ込む力さえない。
「あいつは一体何を目指しているんだろうな」
「そりゃ船長のお嫁さん兼ナイトでしょうよ」
ニヤニヤしながらも差し伸べてくれたズジィの手を有り難く掴んで立ち上がる。
「どっちも願い下げだけどな」
「そんなこと言って、嬢ちゃんが船長の為に剣を取ったこと知ってるくせに」
その言葉に眉根を寄せるが、今日のズジィは追求の手を緩めるつもりはないらしい。
「船長が言ったんでしょ?剣の修行をするのは死なない為だって。
純粋なあの子はセンチョーが死んじゃう!って俺のとこに泣きながら来たんですから」
その翌日から俺に鍛錬を願ってきたのだから昔から思ったら一直線なところは変わらない。
「船長の為に自分の命を犠牲にするような子、これから一生探したって見つかりゃしませんって。
いい加減覚悟決めたらどうですか?」
「…………俺が死んだらどうする」
いい加減立っているのが辛くなって、近くの手すりに身体を預ける。
「今だって俺のために生きてるあいつを受け入れて、それでもし俺が死んだら、あいつはどうすると思う?」
もうずっと考えていた仮説だった。
「唯でさえ明日のことなんてわからない海賊稼業だ。俺はいつ死ぬかわからない。
でも自分で決めた道だからな、文句なんてねぇよ。
でもあいつは…俺らが勝手に引きずり込んだ。
それなのに俺のために命張って、それで俺が死んだらあいつも後を追うんだよ。
そんなことがわかりきってるのに、受け入れらるわけねぇだろ」
その時センチョーと俺を呼ぶ声がした。
「今のは内緒な」
今にも泣きそうなズジィの肩に手を置いて俺は食堂に向かう。
今日も相変わらず我が船は暇を持て余していて、俺は愛用の剣を丁寧に磨いた。
昨日ローズに蹴られた腹は船医に見てもらえばやはり肋骨が数本折れていて、数日は絶対安静を言い渡されてしまったからだ。
愛用している剣は1本だけなので、いくら丁寧に磨いても対した時間はかからなかった。
先程昼食を食べたばかりなので夕食まではまだまだ時間がある。
ちょっくら昼寝でもしようかとベッドに横になったちょうどその時、敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。
慌てて甲板へ飛び出せば、船員たちも続々と集まってくる。
「3時の方角!海賊船です!」
見張り台からの声に、腰に挿していた望遠鏡でそちらを見やれば今巷を騒がせている新興海賊団の船が見えた。
こちらにまっすぐ向かってきている様子からすると俺らと一戦交える気らしい。
「お前ら!すぐに配置につけ!」
その一声で一斉に船員たちは持ち場へと向かう。
久しぶりの戦闘だ。
みんな顔には出さないが戦いたくてうずうずしているに違いねぇ。
しかしこんなときに限って怪我をしているなんて情けない。
思わず腹をさすれば、それを見とがめた船医が怖い顔をしてこちらへと近づいてくる。
「船長。貴方は部屋にいてください」
「は?何言ってんだお前は」
「絶対安静だと言い渡したばかりなんですよ」
「俺がこのくらいの傷でどうにかなると本気で思ってんのか?
それに船長の俺が1人敵にしっぽ巻いて逃げられるか」
「しかし…」
「しつけぇぞ」
「…わかりました!しかしくれぐれも無茶はしないでくださいね!」
俺が何を言っても聞かないとわかったのか、船医は不安そうな顔をしつつも自らの持ち場へ走って行った。
「センチョー…?どうかしたんですか?」
背後から聞こえた声に振り返ればそこには今の会話を聞いていたのだろう、ローズが不安げに瞳を揺らめかせながら立っていた。
「何でもねぇよ。それよりお前こそ今から戦うってときにそんなしけた面してんな。
お前はいつもみたく軽口叩きながら暴れてればいいんだ」
乱暴に小さな背中を叩けば、いつもよりは不自然ながらも笑みを浮かべ持ち場に走っていった。
向こうの砲台の射程距離に入ったのか、爆音と共に砲弾が打ち込まれる。
すんでのところで船には当たらなかったものの、大きく揺れる。
こちらも対抗して打ち込むが相手は素早く距離を詰めてきて互いの顔が見えるまでに近づいた。
木の板をかけられ続々と船に敵が乗り込んでくる。
こっちへ向かってくる輩をばっさばっさと切り倒していきながら相手の船へと飛び移る。
そこには敵の頭であろう男が不敵な笑みを浮かべて待っていた。
「お前が船長のブルーか?手配書よりも男前だな」
「俺を知ってんのか。だったら俺の強さも知ってんだろーな!」
言葉と同時に男の懐へと切り込むが、大柄な体格に見合わず素早い動きで避けられた俺の刃は空を切る。
真横から振り下ろされた斧を剣で受け流してそのまま十分な距離を取る。
思ったよりも男の反応は素早いがあいつ程ではない。
このまま一気に勝負を決めようと短剣を男へ飛ばし、相手がそれに気を取られた一瞬の隙をついて間合いを詰める。
俺の頭の中ではしっかり敵の頚動脈に剣を突き立てるイメージが出来上がっていた。
実際何事もなければその通りになってただろう。
しかし奴に斬りかかる瞬間、脇腹の傷が痛み俺は動きを止めてしまった。
その一瞬を見逃してくれる程甘い相手ではなかったようで、俺は逆に首筋に剣先を押し当てられている。
「俺の勝ちだな。
大人しく金品をよこせば命だけは助けてやるぜ?ブルー船長さん」
ニヤニヤと笑うこの男が約束を守るとは到底思えない。
何よりこんな取引に屈しちまったらブルー海賊団船長の名折れだ。
「んな取引に乗るかよ。
言っとくが、俺を殺したぐらいで崩れるような船員はうちにはいねぇ。
せいぜい頑張って強奪することだな」
精一杯不敵に笑ってみせれば、男は口元を盛大に歪めて剣を振り上げた。
来るべき痛みに備えて目を閉じれば、浮かぶのはローズのことばかりで今更どれだけあいつのことを好きだったのか思い知らされる。
俺が死んだら泣くのかな。
今まであいつが泣いてるのは見たことねぇが、きっと大泣きすんだろうな。
しばらくは落ち込むだろうが、あいつは強い女だからきっと立ち直れるはずだ。
それで毎日毎日俺に向けてきた笑顔をいつか俺以外のどっかの野郎に向けるのか。
「それは、嫌だな」
完全に勝利を確信した男の顔面に渾身の頭突きをかます。
勢いをつけすぎた反動で身体が傾ぐがなんとか踏ん張り、剣を持っていた男の腕をねじ上げる。
ボキッという嫌な音がして次いで男の汚い叫び声。
腕の可動域を大きく外れた方向に曲がっている腕では恐らく剣は持てないだろう。
近くにあったロープで念のためきつく縛って甲板に転がしておく。
「悪ぃな。1人にしたくねぇ奴がいるんだ」
顔を赤くしてこちらを睨む男にそう告げて痛む腹を押さえながら俺の船に戻れば、そこには満面の笑みで俺を出迎える船員達とボロボロになった敵の海賊がいた。
その中には心配そうに俺を見つめるローズもいて、安心させるようにその小さな頭を乱暴に撫でた。
「お前ら、さっさとそいつらをあちらに返してこい」
縛り上げた奴らを船長の隣りに転がし、ついでに宝物庫から金品をいただいて、敵船のいかりを下ろす。
これで2、3日もしたら海軍が見つけてくれることだろう。
船では久しぶりの戦闘に興奮冷めやらない奴らが既に宴会を始めていて、俺はしばらくぶりの日常に小さく息を吐いた。
せっかく治りかけていた傷が先の戦闘で悪化しちまって、俺はそれから1週間ベッドから動くことを禁じられた。
あれほど怖い顔の船医も久々に見たな。
「センチョー、お食事持ってきましたよ」
自ら立候補して俺のお世話係に就任したローズは、こうして毎食俺の部屋に持ってきてはなぜか自分も一緒にここで食っていく。
「食べられますか?今起こしますから動かないでくださいね」
こいつは俺が絶対安静だと船医から聞くやいなや腕の上げ下げさえさせたくはないようで、ベッドから上半身を起こす作業さえ今や完全にローズ任せにしちまってる。
テーブルに並べられた料理は明らかに奴らに出すような大味のものとは手の込みようが違っていて、どれも消化によさそうなものばかりだ。
わざわざ別の料理なんて用意しなくていいと1度言ったのだが、自分がしたいだけだからと一蹴されちまった。
「悪ぃな。さっき船医に診てもらったら腫れも引いて骨もくっついてきたようだから、もう動いてもいいってよ」
「えーもう治っちゃったんですか?
もっとセンチョーのお世話して、センチョーが私なしじゃいられない身体にしたかったのに」
つまらなそうに頬を膨らませてはいるものの、その瞳は心底安心したように垂れ下がっていて全く感情が隠しきれていない。
そんな仕草が無性に可愛くて、膨らんだ頬をそっとつまむ。
「もうとっくにお前なしじゃいられねぇ身体だから心配すんな」
「ですよねー………え、センチョー?」
「だから、お前のことが好きだっつってんだよ。
いいからさっさと食わせろ。俺は腹が減ってんだ」
もう今日から動いてもいいのだが、つい口を開ければローズが口元にスプーンを運んでくる。
野菜たっぷりのスープはいい具合の塩加減でめちゃくちゃうまい。
「大体この10年でがっつり胃袋は掴まれてんだ。
もうお前が作ったもんじゃなきゃ食った気しねぇよ」
「え、え……と、センチョー?
何を言ってるのかイマイチわからないんですけど」
「あ?だからもう心も身体もお前なしじゃいられねぇって話だよ」
ローズの手に握られていたパンがぐちゃりと潰れる。
あぁ、せっかくのふわふわが台無しだ。
「つまり、センチョーはもしかして、もしかしなくても、私を好きだってことでしょうか」
ぐちゃぐちゃのパンを何故か細かくちぎってスープ皿の中に入れいてくローズ。
いつも相手をおちょくるような態度のこいつがこんなに混乱してるのは初めて見た。
「もしかしなくても好きだよ。
普段あんだけ可愛い彼女とか未来の妻とか言ってるくせに嬉しくねーのかよ」
俺の言葉に最早原形をとどめていないパンだったものをほおり投げ、ローズは一気に間合いを詰めてくる。
「嬉しいですよ!!
毎日毎日好きが溢れちゃって言わずにはいられないくらいにセンチョーのこと大好きなんですから!
でも、今まであんだけ邪険にされて突然の告白ですよ!?
疑うでしょ!!むしろ疑わないとかどんだけの楽天家なんですか!!」
一息に言い切った為か、若干息が荒れて涙目のローズは可愛い。
元々容姿は整っている方で、そこに好きのフィルターがかかったもんだから、そりゃもうかなり可愛い。
「色々吹っ切れたんだよ。
いいからお前はさっさと俺の言葉を信じとけ」
本能の赴くままに小さな唇に噛み付けば、散々さ迷った後やっとローズの手が俺の背中に回された。
あぁ!世界って美しい!
今日も空は青いし、花は咲き乱れているし、恋人達は愛を囁いているし、世界は素晴らしく幸せに満ちている!
そんなことを朝っぱらから宣う女は相変わらず頭がおかしいと割と本気で思っている。
「センチョー!
そんな憐れむような目で見ないでくださいよー。
どうせなら、今日も俺のローズは最高に美しい、とか思っててください」
鉈で豚肉をぶった切る手つきは今日も鮮やかで、ふざけながらも確実に肉を細かくしている。
「今日も俺のローズは最高に頭がいかれちまってる」
「やだなぁ。そんなこと言ったってほんとは私のこと大好きななんですよね?
照れちゃうセンチョーも可愛いぞ☆」
「だからお前の手血まみれだからな。
べったり豚の血つけて鉈振り回してるとか、子供が見たら確実に大泣きすんだろ。
それのどこを美しいと言えばいいんだよ。」
「愛しい恋人は何時だって美しく見えるもんですよ!
はっ、まさか付き合って1ヶ月でもう浮気ですか!
私からセンチョーを奪おうなんていい度胸ですね一体どこの雌豚ですか見つけ出してこんな風に鉈で細切れにしてやろうか」
瞳孔が開いて戦闘時のような顔になったので、慌てて鉈を取り上げる。
「お前しか女がいないこの船で一体誰と浮気すんだよ。
大体俺はお前がいなきゃ生きてけねぇって言っただろうが」
両手の指を絡ませて額と瞼にキスを落とせば、落ち着いたのかいつものように満面の笑みで俺を見上げる。
「ですよね!
センチョーはずっとずーっと私のものですもんね!」
「お前が頭がおかしかろうが俺より強かろうが独占欲強すぎだろうが、ずっとお前だけのもんだから心配すんな。
そんで早く飯を作ってくれ」
はーい、とまた鼻歌交じりに鉈を振るうローズは最高に可愛い。
付き合い始めは俺の真意を探ろうと疑心暗鬼になっていたようだが、最近じゃすっかり俺の恋人という枠にもなれたようで以前のように軽口を叩き合えるようになった。
たまに独占欲と妄想が行き過ぎてさっきのようになっちまうが、長年あいつの気持ちを流してきた俺が悪いし、そんなところも可愛いと思ってしまうから俺も大概頭がおかしい。
「なぁ、ローズ」
「なんですかー?」
「愛してるぞ」
振り向いた満面の笑みはこれ以上ないってくらい幸せそうで、今日も世界は愛で満ちていると柄にも無くそんなことを思った。