0日目Ⅱ
これからはなるべく書いていきます。
目的地の石和温泉にそろそろ到着するというアナウンスが鳴り
夏生は読んでいたミステリー小説をしまい
エナメルのバッグの紐を肩に掛け席を立った。
〜1週間彼女〜
目的地である石和温泉駅に着いた。
夏生は何回か一人で来ているだけあって、馴れた足取りで駅の改札
まで向かった。改札を出ると夏生は明るい表情を駅の入り口にいる一人の
老人に向けた。それは、夏生の祖父にあたる義吉だった。
おじちゃん!
と夏生は言いながら駅の改札まで出迎えてきた
義吉へと駆け寄った。
「よく来たな」
と義吉はうれしそうに言った。
久々の孫の顔を見れたとあって普段は強面な義吉の顔に少し笑みがこぼれた。
二人は挨拶をかわした後、迎えに来た義吉の軽トラがある
駐車場まで歩いた。
八月の山梨はとても暑く夏生が去年来た時には
40℃もの猛暑だった。義吉は
「どうだ?東京は暑いけぇ?」となまった言葉で夏生に
話かけた。
「まぁ、中々にあついかなぁ・・・。」
と夏生は額に汗を流しながら答えた。
東京も山梨ほどではないが夏は暑く38℃を超えることも
多々あった。
「そーか、そーかなら大丈夫か。お前、去年は熱中症でダウンしちぃまったからな。」
と義吉は笑いながら話した。夏生は去年の山梨の40℃を越える気温に
耐え切れずダウンしてしまい、去年の山梨での思い出といったら
甲子園を見たことぐらいだった。
「今年はバンバン稼ぐから大丈夫、大丈夫。」
と自分に言い聞かせているように夏生が言った。
そして、二人は暑さが充満した義吉の軽トラに乗り込んだ。
軽トラに乗った夏生は、まず窓を開け車の中の充満した熱気を外に出した。
しかし、この軽トラは冷房がないためそれだけではまったくもって
涼しくはならなかった。少しして軽トラが走り出すと涼しい
風が夏生に向かってきた。
はぁ・・やっと風がきた。しかし、この軽トラやっぱりおんぼろ
だよな。いまどき窓を手動で開けるなんて東京では
あんまりないんじゃないか?それに冷房ないし。。。
夏生は山梨についたばかりだというのにすでに
暑さにやられかけていた。しかし、次第に涼しくなり
体温だけでなく、頭も冷やされてきた。そして、それは窓を開けた向こう側に
広がる景色をみたからでもあった。久しぶりに見る山梨の町並みは一見どこにでもある
普通の町並みと変わらないが、その後ろに聳え立つ山々
そして、山梨と静岡の県境にある富士山が見えた。それを見ると
夏生はいつも体の芯がまるで富士山の頭に残っている雪解けが流れ込んでくるかの
ような感じがして一定のあいだ体が涼しくなる。
夏生はこれをジェットコースターに乗ったときにお腹がフワッとする
感覚に似ているため、あまり気にしてはいなかった。
石和温泉の駅から義吉の家までは約15分ぐらいだったが
夏生はそれが1分ぐらいに感じた。
ギギィ。。
おんぼろの軽トラのブレーキを踏む音がした。
夏生はその音の直後に勢いよくドアを開けた。
そこには、お年寄り夫婦二人が住むにしては大きな二階建ての一軒家、
そして、その隣には学校の教室ほどの作業場があった。ここは
義吉とその妻である二代がやっているぶどうの手入れをする場所であった。
ワンワン!!
と夏生を最初に出迎えてくれたのは
義吉の家で飼っている犬のさくらの鳴き声だった。
それにつられたかのように家の裏口のドアが開いた。
そこには夏生に祖母にあたる二葉がいた。
「あらあら、よく来たねぇ。」
二葉はそう言いながら夏生に近寄っていった。
そして、夏生の横に並び
また背が伸びたかい?
とやさしく微笑みながら言った。
夏生は
「婆ちゃんが縮んだんじゃないの?」
などと冗談まじりに言葉を交わして家に入っていった。
こうして、夏生の山梨でも一週間が始まった。