0日目
臼井夏生は新宿駅から特急に乗り父親の実家がある山梨県の
石和温泉駅を目指していた。とても暑い、夏の季節だった。
~1週間彼女~
「夏生、ちゃんと切符は持った?何時の特急に乗るかわかってる?」
ただでさえ夏の暑さでやかましいというのに、それに被さるように
夏生の母親がやかましく聞いてくる。
「大丈夫だって。初めてじゃないんだから。じゃ、行って来るよ。」
そういうと着替えを入れた少し大きめなエナメルバッグの紐を
肩に掛け夏生は家を出ていった。
夏生の家の最寄り駅から新宿までは電車で一本で
行けるのですぐに着く。
ドアが開き夏生は電車から降りた。そして、次に乗る特急電車のホームまで
行くために階段の上り口に向かった。
「うわぁ・・。相変わらず新宿は人が多いな。
まぁ、夏休み真っ只中だからな、そりゃ多いか。。
っと、そうこうしているうちに十時出発の特急が
出ちまう。急ごっと。」
と切符に書いてある番号のホームに急ぐ。
夏生は一昨年の高校一年生の頃からこうして一人で電車に
乗り父親の実家がある山梨県に行っているのだ。
新宿から山梨県にある石和温泉駅までは約一時間弱で
高校生にしてみればなんとも短い一人旅みたいなものだ。
だが、夏生は短くても自分は自立した大人な感じを満喫するのが
好きだった。
夏生は番号に書いている席の足元に肩に掛けていた少し大きなエナメルバッグを
置き席へと座り、少し考え込んだ。
さて、これからどうしようか。
と一時間弱ある時間の使い方に頭を悩ましていた。
夏生は足元にあるエナメルバッグの中から一冊の本を取り出し
それを読むことにした。
本の内容はミステリー小説だった。
夏生が本の冒頭を読もうとしたときにアナウンスが
なった。
これより特急かいじ甲府行き発車いたします。
というアナウンスと同時に電車が動き出した。
この発車するときは何回乗っても興奮するが夏生はそれを
表に出さないように無表情のまま本を読んだ。
しばらく乗っていると、となりに中肉中背のおばさんが
座ってきた。夏生は読んでるミステリー小説の影響か
おばさんの身なり、荷物、乗ってきた時の駅などを
分析しこのおばさんはいったいどこへ何をしにいくのかと
自分の中で仮説でも立ててみようと思った。
まず、夏生はおばさんの身なりについて
分析した。横目でチラっと見ただけだが
おばさんは薄手のカーディガンを羽織っており下は
ひざまでのスカートを履いていた。その次に荷物だが、
基本、新幹線に乗るのであれば旅行、仕事、帰省など
割と荷物が多いものと思っていたが、そのおばさんは
ひざの上に置いてある小さな手提げのかばんだけだった。他に
荷物らしき荷物はなく、このおばさんはあまり遠出しないのだとわかった。
しかし、それらの仮説はすぐに無駄となった。
なぜなら、そのおばさんが乗ってきた駅から一駅したところで
降りてしまったからだ。
このとき夏生は中途半端はままの仮説は放りだした。
無駄な時間だったとは思わなかったが
一人で仮説を立てていた痛い自分を思いだしたくはない。
こういったことは本のなかだけで十分だ、と思い
途中だったミステリー小説の続きを読み始めた。
目的地である石和温泉駅までに
夏生の読んでる本の中では二つの事件が起きていた。