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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その8 ~にんげんになりたかったモノ~

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~にんげんになりたかったモノ~ 5

 ダサンの街には用意された馬車で向かうことになった。どうにもパーティ内にお姫様がいることが露見しているのか、御者が偉くビクビクと怯えていたのだが、メロディはそれを笑い飛ばす。


「なに緊張することはない。妾はあの化け物から生まれた訳ではないのだから。言ってしまえお主と変わらぬ人間じゃぞ」

「は、はぁ……そうですか?」

「それにほれ。これが妾たちのリーダーじゃ」


 メロディはリルナの肩をガッシリと掴むと御者の前へと移動させた。


「パっとせんじゃろう?」

「いえ、まぁ、はい」

「他人の緊張を静めるのに、わたしを利用しないでっ!」


 お姫様に向かって暴言を吐く少女にびっくりしながらも御者は苦笑する。ガッチガチに緊張していたのは解れたようだ。


「ほれ、いくで」

「中は凄いですよ~」


 先に乗り込んだサクラとリリアーナがうながす。メロディは意気揚々と乗り込み、リルナはなんだか納得いかない気がしながら、馬車へと乗り込んだ。

 商人たちが利用する幌のついたものではなく、貴族連中が利用する部屋型になっている馬車で、四頭の馬が引っ張る豪奢なものだった。


「うわ、すごっ」


 お姫様のベッドには劣るものの、負けないくらいにフカフカの椅子は、中に液体が入っているのでは、と疑うほどだった。


「さて、しばらくヒマやし……ウチはすこし寝させてもらうわ」


 と、サクラはリリアーナの膝の上に頭を乗せた。


「あらあら~」

「ちょっとちょっと、サクラ。周囲の警戒とかしなくていいの?」

「リーダーの役目やろ。のぅ、お姫様?」

「あとで交代するのじゃぞ、サクラ。妾もその枕で寝てみたい」

「ええで~。この世で一番高い枕かもしれへんしな」


 と、サクラはリリアーナの太ももの内側をスリスリと撫で回した。


「いやん」


 リリアーナの声が漏れるのと同時に、リルナのチョップがサクラの側頭部に直撃するのだった。

 馬車の中でわずかな振動を感じること三時間。

 特に蛮族の襲撃やモンスターと遭遇することなくダサンの街へと到着する。城壁にも似た高い防護壁にある門をくぐり、少しばかり街道をそれた場所に馬車は止まった。

 御者は無事に辿り着いたことに胸を撫で下ろしたが、それとは逆にリルナたちの緊張感が少しばかり高まった。

 本番はここからだ。といっても、まだスタートにも立っていない。

 御者にお礼を言ってから自警団の本部へと移動する。馬車から少しだけ歩いたところにある防護壁の中。すでに名前と特徴を通してあるのだろう、入り口前の自警団の男はリルナたちを笑顔で迎え入れてくれた。

 そのまま通される団長室。ノックのあとに耳を澄ますと、どうぞ、との声が聞こえたのでリルナは遠慮なくドアを開けた。

 室内には大量の書類で、相変わらず埃っぽい。そんな中で机に向かって書類の山と格闘していたローウェンに到着の挨拶を済ませた。


「相変わらず忙しそうですね」

「イケメンが台無しじゃの。どうして副団長がここで仕事しておるのじゃ?」

「あぁ、団長は頭ではなく筋肉で動くタイプですので」


 真っ先に現場に向かいました、とローウェンはボサボサになった銀髪をなでる。目の下のクマは濃くなっており、それこそメロディの言うとおりイケメンが台無しになっていた。


「少しは休んだほうがいいですよ~」

「いえ、そういう訳にも……えっと、彼女は?」

「手伝ってもらえることになった、リリアーナ・レモンフィールドさんですっ」


 リルナの紹介にリリアーナはにっこりと笑ってローウェンに手を取った。よろしくお願いしますと、笑顔を向ける。


「よろしくお願いします。えっと、リリアーナ・レモンフィールドさん……どこかで名前を聞いた覚えがあるのですが、何か有名な方でしたよね? すいません、良く思い出せなくて」


 ローウェンが思い出せないのも無理はないだろう。冒険者の仲間にまさか娼婦がいるとは思えない。加えて、リリアーナの名声は遥か南のシューキュ島に住むドワーフも知っている程だ。神官の姿をしているので、その名声と相まって上手く記憶の引き出しが機能しなかった。

 よって――


「娼婦をやらせてもらってます~。是非とも、ローウェンさんにも買って欲しいです~」

「はぁ、ショウフですか。神官の新しい役職でしょうか? あれですか、祝福されたポーションは効き目がいいそうですから」

「ふふ、違いますよ~。娼婦は娼婦ですよ」


 リリアーナはローウェンの手を取り、そのまま自分の胸へと押し当てる。は? というマヌケな声はイケメンから聞こえてきた。


「え、あ、へ?」

「ふふふ、副団長さんみたいな人もゆっくり休めるお店ですよ」


 うろたえるローウェンをそのまま抱き寄せる。彼の頭をゆっくりと撫でながら、その豊かな胸の間に彼の顔をうずめた。

 なんとも淫靡な行為なのだが、リリアーナの姿は神官服。加えて、彼女の有翼種たる背中の白い翼が相まって、まるで天使に抱きかかえられる勇者、みたいな光景になっていた。


「ちょっとちょっと、リリアーナさん。営業は後にしてください……」


 真っ赤になったローウェンだが、負けずとリルナも真っ赤になっている。男女の逢瀬的雰囲気を目の前で繰り広げられては12歳には少しばかり毒だった。隣の10歳姫は目を輝かせているが。

 ちなみに200歳越えの元爺はローウェンを笑っていた。三者三様ではある。


「あらあら、ごめんなさ~い」

「……ハッ!?」


 リリアーナの胸から開放されたローウェンはしばらく夢の中にいたが、すぐに戻ってきた。相当疲れているので、酷なことをしたのかもしれない。あらゆる意味で。少し前屈み的な意味も加えて。ヒョコヒョコと移動する彼をはてなマークを浮かべながらみているリルナだったが、彼が椅子に座って一息ついたところで表情を引き締める。

 ここからは任務の話だ。


「リルナさんには召喚術を行使してもらいます。聞くところによると、まずは地面に魔方陣を描き、その上に荷物を乗せる――でしたね?」

「はい。物体を召喚するには二つの方法がありまして。ひとつは召喚したい物に召喚陣を描く。もうひとつは、地面に召喚陣を描き、その上に物を乗せる。大規模な方法でしたら、後者が有効です」

「分かりました。倉庫をひとつ借りてあります。まずは、そこに召喚陣を描いて頂けますでしょうか。 それからリルナさん達は補給場所へと移動を開始してもらいます。その間に、我々で補給物資を倉庫の中に運び込みます。もし、そこに人間がいた場合はどうなります?」

「どうにもならないです。人間は召喚術の対象にはなりません。人間を召喚術で移動させようと思ったら、それは人間が人間じゃなくなった時です」


 つまり、死体しか運べない。

 と、リルナは語る。


「分かりました。次にですが、連続使用はできるのでしょうか?」


 その質問にリルナは首を横に振った。


「移動する召喚術は、一度使うと消えてしまいます。二度、物資を送るんだったら、一度こっちに帰らないといけないです」

「なるほど……」


 ローウェンは少しばかり考える。


「状況次第では往復を頼むかもしれませんが、よろしいでしょうか?」


 問題ない、とリルナたちは頷いた。


「あと、リルナさん。大精霊を召喚できると伺ったのですが……」

「ウンディーネとサラディーナの二人? を召喚できます。大精霊って二人って数えていいんだっけ?」

「いいんやないか?」


 そもそも大精霊がひとつの場所で二人存在することが有り得ない。その為、大精霊の単位は曖昧だった。


「でしたら、水と火は確保できる訳ですよね。ずっと召喚し続けていることは失礼には当たらないでしょうか?」

「う~ん……聞いてみよう!」


 分かんないんだったら、本人に聞けばいい。と、リルナは部屋の中で小さく召喚陣を起動させる。二つの魔方陣が完成し、大精霊ウンディーネとサラディーナが召喚された。


「これはこれは大精霊様。こんな汚い場所で失礼します」

「いえいえ、お気遣いなく」

「紙が多いな~。燃えそうだぜ」


 ちっちゃい手のひらサイズの大精霊に少しだけ驚きつつ、ローウェンは現状と先ほどの質問を二人にした。


「いいですよ。私は問題ないです。多くの人間に必要とされるのであれば、何よりの喜びですわ」

「あたいもいいぜ。人間は面白いからな」


 意外にもすんなりと許可を得られたのと、意外すぎるほど大精霊が気さくだったのでローウェンは少しばかり目を白黒とさせた。


「それではリルナさん、よろしくお願いします。メロディ様、サクラさん、えぇっと、リリアーナさんもよろしくお願いします」

「はい」

「うむ。あと、様はいらぬよ」

「了解や」

「は~い」


 それぞれ思い思いの返事をして、作戦決行となった。


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