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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その8 ~にんげんになりたかったモノ~

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~にんげんになりたかったモノ~ 4

 結局のところ。

 全冒険者が参加しているということでリルナは輸送係を引き受けることにした。命を懸ける現場に命を懸けに行く訳ではないが、それでも何らかの手伝いが出来るのならば、という理由だ。

 もちろん、断ったらあとでサヤマ女王に何をされるか分かったものではないから、という恐怖的理由も存在する。


「と、なると……助っ人が必要やな」


 サクラの言葉にリルナとメロディは首を傾げた。


「助っ人って、ただの輸送というか召喚術を使いに行くだけじゃないの?」

「輸送しに行くのは、補給する場所。補給って言ったら、そこには怪我人もおるやろ。たぶん、治療と補給は近い場所で行われるはずや。まぁ念には念を入れて、な。それに、もしウチらが失敗したら、恐ろしい話になるんは分かるよな?」

「うっ」


 大規模な冒険者の集まりに食料等が届かないとなれば、作戦失敗は免れない。その全責任を負うのは女王ではなくリルナである。

 今更ながらの真実に気づき、リルナはプレッシャーで顔を青くした。


「す、助っ人希望!」

「妾も反対する理由は無いな」

「ほな決まりやな」


 と、意気揚々と出発するサクラの後に続くリルナとメロディ。その足の向かう方角に覚えがあるのか、助っ人の存在に合点がいった。


「でも手伝ってくれるかな~?」

「暇やから大丈夫やって」


 なんて会話をしながら辿り着いたのはお子様厳禁の娼館が立ち並ぶ『色通り』。その派手な概観や色とりどりの館も、夜ではなく昼間に見ると少しばかりケバケバしい。また賑やかな夜とは違って、昼間はひっそりと息を潜めているように思えた。


「本番は夜からじゃな」

「でも、サクラは昼間から遊びに来てなかった?」


 何事も何度かこなせば慣れたもの。リルナも色通りの雰囲気にはすっかりと慣れたもので、周囲を見渡す余裕があった。

 娼館は別に営業をしていない訳ではなかった。いわゆる『書き入れ時』が夜なだけで昼間でも営業は行っている。冒険者ではない一般人はこの時間を訪れるのだが、よっぽどのお金持ちでない限り、娼婦を抱こうという概念は存在しない。どこかの好色王は別として。

 そんな娼館の前を従業員と思われる男性や女性が掃除している。中にはリルナとそう年齢が変わらない少女もいて、ギョッとした。深くは関わらないほうが良いのが、この界隈。背負え切れる話は、そうは転がってはいないのが常だ。

 目的地である『女神の微笑亭』に着いた時、従業員らしき男性がこちらを見る。

 その瞬間――、


「おはようございやす、サクラ姐さん!」


 と、腰を90度まで折り曲げて挨拶した。


「おはよぅ。景気はどうや?」

「ボチボチであります!」

「ほんま?」

「いえ! 嘘でした、すいやせん!」

「あっはっはっは!」


 と、サクラは従業員の見えている背中をバシバシと叩いて中に入っていった。


「……え~」

「サクラは何をしたんじゃ?」


 置いてけぼりにされる生粋の少女二人。


「あ、サクラ姐さんのお仲間ですよね。どうぞ、入ってくだせぃ」

「いや、あの、サクラは何かしたの?」

「いえいえ、たびたび利用されているだけです。ただ、迷惑な客を追っ払ってくれるんで、すっかりと店の看板になっちまいまして。客なのか従業員なのか、段々と曖昧になっちまいやした」


 うはは、と笑う男にリルナはガックリと肩を落とす。

 冒険者が娼館の用心棒をやっている訳だ。しかも強いし、そこそこの美人。本当は爺で二百年以上生きているのをバラしてやろうか、とも思ったが止めておいた。


「うむ。レナンシュ殿に報告じゃの」

「そうだね」


 娼館に通っているだけで小さな魔女は怒っていたので、何らかの呪いが増えるかもしれない。いっそのこと性欲も封印されてしまえ、と思ったリルナだった。


「お邪魔します~」

「同じく、お邪魔するぞ」


 薄暗い通路を抜け、突き当たりにある受付を通り、中へと入る。相変わらず雅な場所に圧倒されながら待合室の椅子へと座った。

 サクラの姿はすでに無く、自由気ままに動けるらしい。すっかりと慣れきっているその様子に再び重い息が漏れるのを我慢せず、どんよりと待合室の空気を悪くする。幸い、客はいない。尤も、お得意様である冒険者は全てゴーレム討伐に出かけている。全ての娼館が開店休業中で閑古鳥を相手に商売をしている状態だった。

 前回は余裕のなかったリルナだが、今回は少しばかり娼館の雰囲気に慣れたのか余裕を持って待合室で待っていた。メロディは相変わらず中を歩き回っていたが。


「どうぞ、姐さん」

「姐さん!?」


 突然かけられた声にびっくりしながらも見ると、従業員の男が紅茶を入れてくれたらしく、ありがたく頂戴した。カップが二つあったのでチョロチョロと見学しているメロディを呼び戻す。


「ふむ。客人としてもてなされたのであれば、客人としてふるまわねばならぬ」


 と、メロディはようやく落ち着いた雰囲気で紅茶を飲んだ。このあたりは、お姫様らしいと思ったリルナだったが、良く考えればお姫様が絶対に来ない場所だな、と苦笑するしかない。

 紅茶を飲みながらしばらく待っているとサクラが戻ってきた。後ろにはもちろん、リリアーナ・レモンフィールドを連れて。

 有翼種たる彼女の背中には天使のような白い翼。美人と可愛いが共存する姿は何度みてもため息を零してしまうほど。そんな彼女が娼婦をやっているのが、いまいち謎なのだが、彼女曰く天職だそうな。

 いつもは胸元のがっぱりと開いたドレスなのだが、今は神官の出で立ちをしていた。どうやら着替えてきたらしく、誰がどう見ても天の使いになっており、娼婦とは思えない姿だった。


「リルナさん、メローディアさま、お久しぶりです~」

「お久しぶりです。相変わらず綺麗ですねっ」

「うむ、久しぶりじゃ。妾の名はメロディで良いぞ」


 店主の許可は取り、リリアーナの同行が許された。神様の声を聞くことができる彼女は神官魔法が使える。つまり回復魔法が使えるということだ。残念ながらレベルは低いので全体回復などは出来ないが、それでも個別に怪我を治せるというのは貴重な存在であり、ポーションを大量に買い込む必要が無いので荷物に余裕もできる。


「あ、でも今回は報酬は無いよ?」

「いえいえ~、冒険者の方々がいらっしゃらないのでヒマなんですよ~。それに、補給場所ということは血気盛んな殿方がたくさんいるということ。もしかしたら、そこで仕事ができ――」

「そこで仕事しないで!?」

「えぇ~」

「大変なことになっちゃうよ!?」


 具体的に何が大変なのか、いまいちリルナには分からないが、とにかく大変なことになる気がしたので、そう叫んでおく。

 ともかくとして、輸送係のメンバーが決定した。

 四人はさっそくとばかりに、ダサンの街を目指してサヤマ城下街を後にするのだった。


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