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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その7 ~ドラゴン・リップクリーム~

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~ドラゴン・リップクリーム~ 12

 大精霊ウンディーネとサラディーナ、魔女レナンシュを召喚したリルナは、続けてホワイトドラゴンであるリーンを召喚した。


「ふぁ~……なぁに、勢ぞろいだね」


 欠伸を噛み殺しもせず、牙をこれでもかと魔女と火の大精霊に見せ付けた。サラディーナはカカカと笑ったが、レナンシュは少しだけビックリしたようで、メロディの後ろに隠れた。


「リーン君、ちょっとルルちゃん守っててよ」

「守るだけ?」

「うんうん」

「ボクの使い方、下手なんじゃない……」


 うるさいなぁ、とリルナはドラゴンの鼻先を叩こうとしたが避けられた。


「修行よ修行っ! いつもリーン君に頼ってたら、冒険者として成長できないでしょ」

「正しい召喚士の姿だと思うけど?」


 召喚士自ら戦うのであれば、その職業の意味はない。本末転倒もいいところだ。


「ん~、でもさ……倭刀が私の手にあるんだから、そういう意味なんだと思うんだけどね」

「ボクがあそこで寝ていたのは偶然だけどね」


 再び、くわぁっと欠伸をするリーンの口を無理やり閉じて、リルナはお願いした。


「とにかく、ルルちゃんをお願いねっ!」


 ふぁいふぁいと欠伸交じりで答えたホワイトドラゴンはルルの襟首を咥えると、音も無く飛び上がり近くの木の枝に乗る。

 不思議なことに枝はしなりもせず、リーンとルルの体重を支えた。木が優れているのではなく、ドラゴンの能力なのだろう。


「ハーベルクは良いのかの?」

「帰ったら文句言ってやる」


 コボルトの料理人は召喚に応えなかった。都合が悪ければ召喚を拒否することもできる。召喚獣にとっては都合が良いが、召喚者にとっては、難儀な魔法だ。その点、大精霊は本来の姿ではなく力を分散させた一体、という形で召喚される為に必ず応えてくれる。召喚士が大精霊と契約するのは、そういう理由もあった。


「サラディーナはメロディと組んでね。ウンディーネはレナちゃんとお願い。レナちゃんは、補助魔法をお願いするね」


 それぞれ了解の意を表すように頷く。サラディーナはメロディの頭に乗り、ウンディーネはレナンシュの肩に乗った。魔女の帽子は大きくて視界の邪魔になるのかもしれない。


「ふぅ……」


 続けて、リルナは左手首のアクセルの腕輪を確認する。防御と持久力が少しあがり、速度があがるマジックアイテムだ。常時発動している効果だが万が一にも外れないように再確認した。


「大丈夫か、リルナ」

「大丈夫じゃないけど、がんばるっ」


 腰のベルトにぶら下げた倭刀を引き抜く。その銘はキオウマル。サクラ曰く、鬼が造った剣であり、その効果は『丈夫さ』らしい。だが倭刀自体はマジックアイテムではなく、それそのものの在り方が頑丈という訳だ。素人であるリルナやメロディが使用しても刃こぼれしないのはそういう理由があったからだ。ちなみにサクラの持つ倭刀の銘は『クジカネサダ』。魔法や結界などを絶つ能力があるらしい。

 そのキオウマル特有の頑丈さに期待するように、刃をみつめ息を吐く。深呼吸をくり返し、覚悟を決めたかのようにメロディに視線を送った。


「よし、行くよ」

「うむ」


 頷き、木の上にいるリーンとルルに手をあげる。ホワイトドラゴンは何もせず、ただ視線を送り返すだけ。ルルはにっこりと笑って手を振った。


「相変わらずルルは緊張感が無いのぅ」

「……そうかも」


 苦笑してから小屋の方角へ向き直る。リルナは倭刀を構えながらジリジリとゆっくり歩いた。メロディも同じくロングソードを構える。リルナより少し前を進みながら、小屋へと近づいていった。二人の後ろをレナンシュが着いてくる。目深にかぶった魔女の帽子のせいで、その表情は伺うことは出来なかった。

 やわらかい地面は足音を消してくれる。代わりに雑草が少しばかり音を立てた。場所によっては枯葉が落ちており、それも音となる。足元ばかりに気を回す訳にもいかず、多少の音が出てしまうのは覚悟の上で歩いていった。

 やがて小屋のそばまでたどり着いた。肉を焼いていた盾がそのままに火の上に置かれている。焚き火は消えてしまったのか、少しばかり煙が漂っている程度だった。


「――……」


 声なき、音も無いため息。緊張をはらんだ胸の中の空気をいったん全て吐き出す。小屋の入り口である扉の横に二人と魔女と大精霊たちはピッタリと体をくっつけた。

 中からは蛮族の物と思われる物音と声が聞こえた。何を言っているかは分からないが、どうやらバレている様子は無さそうだ。


「第一段階、クリア」


 と、声に出さずリルナは言った。この時点でバレた場合、作戦名『いきあたりバッタリ臨機応変』が発動されるのだが、それは避けられた。


「準備はいい?」


 リルナの声なき言葉に、メロディとレナンシュ、ウンディーネとサラディーナは頷く。それを確認してから、リルナは森の奥へ向けて腕を振った。

 到底は見通せない距離。

 だが、ホワイトドラゴンにしてみれば、造作もない距離なんだろう。合図はリーンからルルに通された。


「×××××~!」


 謎の叫び声が聞こえた。リルナやメロディには聞き取れない単語であり、意味は分からない。それは蛮族が使う言語であり、蛮族語と呼ばれているものだ。

 小屋の中の物音がピタリと止み、その後に二人分の声がする。そして慌しくドタドタと響いたかと思うと、小屋の入り口である扉が勢い良く開いた。

 緊張感が跳ね上がる中、最初に出てきたのはトロルだった。のっしりとした一歩を踏み出すその視線は前方に向いている。扉の横にいる冒険者には気づいていない。


「――ダーク・ショット」


 呟く魔女の一言。闇魔法発動の合図となるそれは、レナンシュの持つ木の杖に魔力が集まった。

 トロルの視線がこちらを向く。

 警告の言葉か、それとも単純に驚いたのか。トロルの言葉が発せられる前に、レナンシュの闇魔法がトロルへと届く。単純な魔力をぶつけるだけの魔法だ。それでも、相手を不意打つには充分な一撃であり、追撃とばかりにメロディがその巨体に向かって全体重をかけて体当たりを喰らわせた。


「うりゃっ!」


 魔法と物理攻撃、その両方の勢いでトロルがバランスを崩し倒れる。なにが起こっているのか理解できずパニックになったトロルは追撃を防ぐように無茶苦茶に手足を動かした。メロディも転んでおり、慌てて立ち上がるとトロルの向こう側へと周り長剣を構える。

 小屋から遅れて出てきたフォモールに向かってリルナは大上段から倭刀を振り下ろした。一撃で終わらせるつもりの不意打ちだ。


「こんのぉ!」


 技も何もない、ただただ単純な打ち下ろし。料理人にすら劣るその一撃は、果たしてフォモールの持つダガーに受け止められた。が、ダガーの刃を半ばまで倭刀の一撃が食い込んだ。

 その斬れ味にギョっとしてかフォモールは追撃せずゴロゴロと転がっているトロルのところへと飛び退った。


「正々堂々真正面から不意打つ作戦、失敗!」


 最初に小屋から出てきた相手を吹っ飛ばし、後から出てきた方を倭刀でもって一撃の内に戦闘不能に追い込もうという単純な作戦だ。

 成功確立は低いと思っていたので、動揺は無い。


「挟撃作戦に移行っ!」


 メロディがトロルの向こう側移動したのはこの為だ。トロルとフォモールを挟む形で戦闘開始となる。

 リルナの声に合わせるようにサラディーナがロングソードに火属性を付与した。ウンディーネはレナンシュの魔力に水属性を相生させた。『水は木を生ず』つまり『水生木』により、レナンシュの持つ木属性の力がアップする。


「ギャギャ!」


 と、声をあげたのはフォモールだった。奇妙なことにその腕がぐにゃりと曲がる。まるで骨がないような形になったかと思ったら鞭のようにしなり、ダガーを斬りつけてきた。伸びる腕。そのダガーを弾くようにリルナは倭刀を持つ手を動かし、攻撃を防いだ。


「ふぅ」


 リルナは身体制御呪文『マキナ』を使用していた。体を意識的に動かせるその魔法は、一切のブレを生じさせない。加えて、リルナにとっては重く振り回すことの出来ない倭刀を強制的に持つことができる。

 ただし、筋力は元のままだ。使いすぎれば、恐ろしいほどの筋肉痛に襲われてしまう。今の一撃を防いだ行為ですら、リルナの握力を奪うには充分だった。


「明日が怖い。でも今が大事っ」


 刃こぼれしたダガーを見て、なにごとかを呟いたフォモールがジリジリとリルナとレナンシュに向かって歩き出した。


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