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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その7 ~ドラゴン・リップクリーム~

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~ドラゴン・リップクリーム~ 5

 3人対3匹。

 人数の上では互角だったがルルは冒険者でも無く、戦闘力も持っていない。その為、彼女を守らなければならない、というハンデがリルナたちには有った。

 だからこその対策だろう。


「召喚『ハーベルク・リキッドリア・13世』!」


 前線でゴブリンと打ち合うメロディの後ろでリルナは手早く召喚陣を完成させた。呼び出されたのは蛮族の最下種であるコボルトのハーベルクだった。

 初めて見る魔法にゴブリンも警戒していたが、召喚されたのがコボルトと分かるとギャギャギャと笑い声をあげた。


「なんだと思ったらコボルトかよ、あっはっは。だそうです」


 ルルの蛮族語翻訳にリルナは苦笑する。ハーベルクは蛮族ではあるが、人間社会育ちなので蛮族語は理解していなかった。その為、多少は頭にきたらしく、前線へ行こうとするが、それをリルナは止める。


「ハー君はルルちゃんを守ってて」

「む、う、う~ん。分かったよ、リルナ」


 よろしい、とリルナは頷くと次の召喚陣の為にマキナとペイントを発動させた。


「うりゃぁ!」

「ぎゃぎゃ!」


 前線ではメロディがゴブリンと刃を打ち合っている。ゴブリンの武器は小ぶりと斧だ。長く使いこまれているらしく、少々くたびれて見える。だが、それは歴戦の証ともいえた。

 対するメロディのロングソードもそこそこ使い込まれている。武器の性能さはそこまで無いようだ。

 しかし、経験の差は大きいものがある。歴戦を勝ち抜いたゴブリンと、レベル90に育てられたお姫様とではやはり実力差が出来てくる。

 熱湯を染み込ませた真綿で首をしめるような修行、とメイド長が評したサヤマ女王の修行はおままごとでは無く、実戦にも通用する。

 振り下ろされた小斧を左手のバックラーで弾く。ゴブリンの体が泳いだところをメロディはロングソードを振り下ろし――


「おっと」


 袈裟に振り下ろす剣は途中で止めざるを得なかった。

 ゴブリンアーチャーの矢だ。正確にメロディの額を狙ってきた為に、反射的に剣でガードしてしまった。無視してヴァルキュリア。メイルのオートガードを発動させても良いのだが、メロディはあまり防具の性能に頼りたくなかった。


「防御が出来ないとあらば、母上には勝てまい」


 二本目の矢を屈んで避けると、バックステップで距離をとった。相手の前衛であるゴブリンを倒すことが出来れば後衛に接近できる。しかし、後衛のバックアップがそれを阻止していた。


「ならば期待するのは……」


 こちらの後衛の力。

 そう呟く前に、メロディへと火球が迫った。ゴブリンメイジの魔法だ。

 七曜魔法と呼ばれる自らの魔力を属性に変換させる魔法だ。一番ポピュラーな魔法であり、訓練次第で誰でも使用できる。だが、その強さは魔力に比例する為に強い魔法を使う為にはきちんと練習と修行を重ねなければならない。

 ゴブリンメイジの使った火の魔法は、それほど大きくはない。しかし、メロディの頭を炎で包んでしまうには充分な大きさだ。

 メロディは思わず剣で顔を覆う。剣で魔法は防げない。剣が発動拠点となり、その周囲が燃え上がる。ただの反射的な行動だった。

 しかし、火球は青白い光の壁に当たり消失した。


「間に合った! ありがとうウンディーネ」

「どういたしまして」


 その声はメロディの頭の上から聞こえた。


「ウンディーネ殿か。助力、感謝するぞ」


 えぇ、とウンディーネは頷き、小さな指を動かした。水属性の付与。メロディのロングソードがマジックアイテム化する。

 青の軌跡を浮かべながらメロディは再びゴブリンへと迫った。


「次だ」


 リルナは3つ目の召喚陣を描く。先にウンディーネを召喚したのは賭けだった。もし、ゴブリンメイジの使う魔法が土属性ならば水を打ち消し意味を成していなかっただろう。

 身体制御呪文マキナが体を不動にする。決してブレない指は3つの真円を描いた。間に刻まれる文字は神代文字。最後の中心に刻まれた文字の意味は『魔女』。

「召喚『レナンシュ・ファイ・ウッドフィールド』!」

 光が魔法陣を伝い、そして収束する。そこに現れたのは魔女の帽子を目深に被った少女だった。


「喚んだ?」

「うんうん! という訳であっちの後衛をお願い」


 理解したとばかりにレナンシュは闇魔法を発動させる。魔女専用の魔法であり、レナンシュのそれは木属性に特化している。ゴブリンアーチャーの足元から生えたツタはみるみる成長し弓兵の体を縛り上げた。


「ぎゃぎゃ」


 アーチャーが縛られたこともあり、ゴブリンメイジが慌ててツタの解除に動く。後衛が崩れた瞬間だ。


「ハー君、いくよ! レナちゃんはルルちゃん守ってて!」


 リルナはベルトから鞘ごと倭刀を引き抜いた。そのまま前線へと向かう。ハー君も少し遅れてリルナを追いかけた。

 前衛が一気に三人となる。それに驚いたのはメロディと剣を交えるゴブリンだった。彼には後ろが見えていない。しかし相手の後衛が突っ込んできたとなると、ピンチは明らかだ。

 その動揺が伝わったのだろう。


「もらったぞ」


 メロディはロングソードを素早く引いた。打ち払う予定だったゴブリンの小斧は宙を泳ぐ。そのままメロディは長剣を振り上げ、袈裟に振り下ろした。


「ぎぎゃっ!」


 悲鳴と共にゴブリンの肩口から刃が侵入する。青の軌跡は輝き、瞬時にゴブリンの体に魔法ダメージを送り込んだ。絶命に到るその一撃を受けて、ゴブリンはその場で倒れ、のたうちまわるが、次第に動かなくなっていった。

 その間に前衛を追い越し、後衛にまで到達したリルナはゴブリンメイジに向かって思いっきり鞘ごと倭刀を振り下ろした。


「おりゃあぁっ!」


 パカン、というそれなりの音が聞こえゴブリンメイジは思わず頭を押さえる。


「もう一回っ!」


 今度は相手がしゃがんでたこともあり、重く鈍い音が響いた。気絶に近い攻撃を与えることが出来たようだ。リルナは素早く倭刀を鞘から抜くと、ゴブリンメイジの首へ振り下ろす。

 あっけないほど軽く、蛮族の魔法使いの首は落ちた。


「う、うわぁ」


 グロテクスな風景とその異常なまでの斬れ味に若干引きながらも隣のハーベルクを確認する。ツタに絡まったゴブリンアーチャーの首を正確に果物ナイフで刺したようだ。

 なにやら蛮族語で会話しているが、死ぬ寸前のアーチャーに向けての一方的な会話。雰囲気から察するに嘲笑でもしているようだ。


「ねぇ、ハー君なんて言ってたの?」


 レナンシュと共にやってきたルルに翻訳を頼んでみる。


「ねぇいまどんな気持ち? 蛮族最弱のコボルトにやられるのってどんな気持ち? って、ハー君は言っていますよ~」


 ルルはあっけらかんと事実を語った。


「うわぁ……気持ちは分からなくもないけど。コボルトって根が深そうな種族だよね」


 リルナの言葉に、魔女のレナンシュは肩をすくめた。


「はぁ~、良かった~、勝てた~」


 一息吐くと、リルナはその場にぺたんと座った。初めてのパーティ戦で緊張が強かったのだろう。張っていた糸がようやく緩んたという訳だ。


「うむ、見事な采配であったぞ。さすがは召喚士。世界に忘れられただけある」


 ウンディーネに水を出してもらいロングソードを洗いながらメロディはにこやかに冗談をふるまう。


「おてんばなお姫様に褒められても嬉しくないっ」

「では、ウンディーネ殿に水に流してもらおう」


 メロディがパチンと指を鳴らすと、ウンディーネは大きな丸い水の塊を顕現させる。そして、それぞれのゴブリンの上で弾けるとその血を洗い流した。


「ちょっとちょっと、召喚したのわたしっ!」


 メロディとウンディーネにリルナが文句を言う。

 その間に、ルルはちゃっかりとゴブリンの戦利品を集めるのだった。


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