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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その7 ~ドラゴン・リップクリーム~

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~ドラゴン・リップクリーム~ 4

 ワーカーから前金とは別に道中の携帯保存食を受け取ったリルナたちは、冒険者の宿に一旦もどる。というのも、遠出するにはそれなりの準備がいるからだ。

 前回の遠征はほぼ船の上なので必要なかったが、本来は簡易テントや色々な道具がいる。依頼が無い日を利用して買っておいた冒険者セットをリルナとメロディは背負った。


「よいしょっ……と。お、重い」

「そうじゃのぅ」


 ちなみにメロディのほうが少ない荷物だ。理由は前衛ということもあり、素早く動けるようにするため。尤も、リルナの背負っているバッグも、すぐに下ろせるようになっている。背負ったままモンスターから逃げるなど愚の骨頂。また、動物などの場合は荷物の中にある食料が目的な場合もあり、すぐに下ろせる造りにはそれぞれ理由があった。

 冒険者ではないルルは冒険者セットを持っていないが、代わりに少し大きめのバッグを持ってもらった。収穫したドラゴン・リップクリームを持って帰る必要があるからだ。

 リルナはひとまずその場でジャンプしてみる。重くはあり、動きは鈍くなるが潰れてしまうことは無い。

 メロディも同じようにジャンプしてみせるが、リルナよりはるかに高く飛び上がる。前衛との筋力の差に、思わずリルナからため息がこぼれ出た。

 準備が整ったので、カーラに改めて挨拶をしてから冒険者の宿を出た。そのまま北門を目指し、衛視に挨拶をしてから外に出る。

 時刻は朝と昼のちょうど中間あたり。天気は良好であり、絶好の冒険日和だ。


「メジヒの森めざして、しゅっぱーつ」

「おー」


 なんてやっていると、商人のおじさんたちが応援してくれたので、手を振ってから歩き出す。

 目指すメジヒの森はハオガ山を回りこむようにして東へ向かい、キュート国方面へ向かった先にある。途中に村や集落はなく、通り過ぎた先にある為に野宿は必須。尤も、キュート国へ向かう商人も多く通る道なので、未開ということは無い。レベル1でも充分に行動が出来る範囲だ。

 リルナたちは急ぐことなく歩いていく。時間制限のある任務ではないし、急ぐメリットはあまり無い。リルナは何度か経験しているが、メロディにとっては歩きで行く野宿は経験が無い上に、全くの冒険者素人のルルも一緒ということもあって、体力は温存気味に行くことにした。

 ハオガ山の手前の道を東へと折れる。

 ゴツゴツした岩肌を横目に歩いていると、ハーピーらしき声が遠くより聞こえてきた。どこかの冒険者が戦っているのかもしれない。


「サクラがいたらなぁ~」

「いや、おらぬ方が良いかもしれぬ」

「どうして?」

「サクラは熟練者じゃ。頼り切ってはしまっては、妾たちの経験にならん」


 そうかも、とリルナは頷いた。

 尤も、メロディの装備している防具も、頼りきってはいけない類の物なのだが、言わないことにする。

 放任主義の過保護な女王が飛んでくるかもしれないので。

 大人の世界を堪能しているサクラを記憶から追いやった三人は、楽しくおしゃべりをしながら歩いていく。話題は色々だ。昨晩の夕食からさっき見かけた衛視のお兄さんの容姿まで、次々に話題は変わっていく。

 馬車の轍によって出来た二本の線を歩いていけば、そろそろと太陽は真上に近づいてきた。小川と橋を越えたところで休憩となった。

 メロディはさっそく冒険者セットから鍋を取り出し、小川の水をすくう。お湯を沸かすために炭を用意し、網をセットした。


「誰が火を熾す?」


 火打石で火を熾すのは大変な作業のために、敬遠されがちだ。しかし、リルナは颯爽と手をあげて、そのまま召喚陣を描く。


「召喚、大精霊サラディーナ!」


 光が収束し、現れたのは掌に乗るほどの大きさになった火を司る大精霊。三頭身になった姿はどこかイタズラ好きの妖精を思わせる姿だ。


「おう、もうあたいの出番か。なに燃やす? 街か? 森か? 死体の証拠隠滅なら任せとけ!」

「いやいやいやいや」


 サラディーナの言葉に、三人は全力で首と手を横に振る。


「お湯を沸かすから、火を熾してよ」

「初仕事としてはつまらんなぁ。だが、召喚士様の願いは聞き入れてやるぜ」


 少しばかりテンションが高めなのは、久しぶりの外だからだろうか。なんだか一抹の不安を覚えるリルナだったが、サラディーナはちゃんと炭に火をつけてくれた。というか、炭なんか関係ないくらいに炎を顕現させてお湯を沸かせてくれた。


「すごいのぅ、もうお湯が沸いてしまったぞ」

「スープ作りますね~」


 ルルが固形スープを入れて、ぐるぐる混ぜるとすぐに一品できあがった。残念ながら具は無いので、飲み物と変わらないが。


「サラディーナも食べてく?」


 リルナの言葉に、キョトンとサラディーナはするが、すぐに表情を改める。


「せっかくだから食べていくか」


 人間三人と大精霊一人は、いただきます、と挨拶してから干し肉とスープを楽しむ。といってもそこまで美味しいメニューでもないので、すぐに食べ終わった。

 食べ終わったあとは片付け。しっかりと火を消して、鍋や食器を洗ってからバッグにしまい込む。その際、ルルはサラディーナにいろいろと質問していたようだ。

 さすがは学士見習い。と、リルナが感心したところで冒険再開となる。ハオガ山が見えなくなった頃、まばらに生えている林を右手に歩いていく。左手には平原が広がっており、ところどころに木が生えている程度だった。


「むっ」


 と、先頭を行くメロディが何かに気づいたように立ち止まる。それに合わせてリルナも立ち止まった。


「どうしたの?」

「モンスターじゃ」


 メロディは素早く背中のバッグを落とすと、ロングソードを引き抜いた。合わせてリルナもバッグを落として、身構える。

 そんな彼女たちを値踏みするかのように林からモンスターが現れた。赤黒い皮膚をした、子供ほどの身長の亜人。蛮族に位置する代表的なモンスター、ゴブリン。


「いえ、それだけじゃないです~」


 ルルがゴブリンという言葉を否定する。


「ゴブリンアーチャーと、ゴブリンメイジもいます」


 前衛に一匹はダガーを持ったゴブリンがいるのだが、その後方には弓を構えたゴブリンと杖を持ったゴブリンがいた。同じ種族だが、その武器や魔法に特化した存在を別名で呼んでいる。

 蛮族もまた人と同じようにパーティを組む。


「前衛一人と後衛二人、同じようなパーティ構成じゃのぅ」


 メロディはロングソードを構える。


「ルルちゃんを後衛に入れていいの?」

「知識担当じゃろ。おっと、準備をさせてもらうヒマは無さそうじゃのっ!」


 ぎゃぎゃぎゃ、と声をあげてゴブリンが斬りかかってくる。応対するようにメロディは前に出た。

 それを合図に戦闘開始となった。


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