~ドラゴン・リップクリーム~ 1
●リルナ・ファーレンス(12歳)♀
召喚士:レベル3 剣士:レベル0(見習い以下)
心:普通 技:多い 体:少ない
装備・旅人の服 ポイントアーマー アクセルの腕輪 倭刀『キオウマル』
召喚獣:4体
●メローディア・サヤマ(10歳)♀
剣士:レベル3
心:多い 技:少ない 体:少ない
装備:ヴァルキュリアシリーズ・リメイク ロングソード バックラー
●ルル・リーフワークス(12歳)♀
学士見習い:レベル2
心:多い 技:少ない 体:少ない
装備・学士の帽子 学士の服 森羅万象図鑑
冒険者の宿『イフリート・キッス』。
女性専用の宿であり、綺麗に掃除された宿内はいつも清潔に保たれている。唯一……いや、唯二の不満があるとすれば、シャワーが無い事と1階の酒場のアルコールの香りだろうか。
だが、その酒場での売り上げが物凄い金額となるため、所属する冒険者は格安を越えた激安で泊まることができた。
一概に文句が言えるものでもないので、アルコールのにおいには我慢するしかない。しばらく住んでしまえば、慣れで気にもなくなり、大したことではない。
イフリート・キッス一番の新人組であるリルナもそろそろアルコールのにおいが気にならなくなってきた。遠征のお陰で少しばかり時間がかかったが。
「う~ん……ふぎゃっ」
そんなリルナは夜明けと共にベッドから落ちる。彼女の部屋は一人部屋なのだが、なぜかお姫様であるメローディア姫がしょっちゅうお泊りに来ていた。
一人用のベッドに二人で寝るから、片方が落ちるのは当然――と、思いきやそうでもない。小柄なリルナと二歳も年下のメロディでは、大人用のベッドで充分の大きさだ。
「いたた……むぅ、育ちの違いかなぁ」
落ちた右側面をさすりながらベッドの上を見る。スヤスヤとメロディは気持ち良さそうに寝ていて、自分の寝相の悪さを痛感するリルナだった。
「むぅ」
唇を尖らせたところで寝相はなおるものではない。仕方がないと窓の外を見る。サヤマ城下街を取り囲む壁の向こうにうっすらと光が見える。空も紫から青へと変わる頃合だ。
朝だ、と呟いてリルナは身支度を整えることにした。現在は下着姿。そんな格好でウロウロする訳にもいかないので、いつもの上着とスカートをはく。きっちりとブーツの紐を結び、そのまま廊下へと出る。
石造りのイフリート・キッスであるが、内側は木材が使用されており、柱などがところどころに見受けられる。廊下も木材で作られており、歩くとミシミシと音がした。
1階に下りると厨房から朝ごはんを作る音が聞こえてきた。料理人であるコボルト、ハーベルクが仕込みをしているのだろう。
外に出て宿の裏へとまわる。そこには水瓶があり、大きなタライもあって、朝の身支度に利用されている場所だ。
「あら、おはよう」
一番乗りだと思っていたが、どうやら先輩冒険者がリルナよりも先に起きていたようだ。顔を洗いおわり、すっきりとした表情。
「おはようございましゅ」
対してリルナの目はまだ覚めきっておらず、挨拶ぼ語尾も怪しいくらい。そんなリルナの頭をポンポンと撫でてから先輩冒険者は宿へと戻っていった。
「わたしも同じ冒険者なんだけどなぁ。ふあ~ぁ」
どうにも子ども扱いされている気がするが、それは間違いではない。一番年下な上、活躍もあまりしていない、にも関わらず女王のお気に入り。そんなチグハグな印象が、かえって面白おかしく見えているようだ。
尤も、謎の召喚士という職業な上、パーティはお姫様と二百年を生きる元爺という奇妙な集団だ。愛されないほうがオカシイ。
「ぷはぁ」
顔を洗い終え、少し長めの髪を水面の鏡で整える。スカートのポケットから取り出した青のスカーフを右手首に結いつけ、身支度が完了した。
「おはよう、リルナ」
「あ、おはようメロディ」
どうやらメロディも起きてきたようで、顔を洗いにきたらしい。まだまだ眠いらしく、目をグシグシとこすっている。そんな気の抜けた姿だが、長い金髪が風でたなびく姿はエルフかと思えるくらいに綺麗だった。
「育ちの違いだけなのかなぁ」
サヤマ女王の娘、というメロディだが、血はつながっていない。本当の娘ならばこうして冒険者になることも許されなかっただろう。
黙認、もしくは放置されている現状だ。例えメロディが盗賊にさらわれたところで国は動きはしない。ただ、領主が動くだけだ。レベル90の化物を敵にする勇気と実力があるのならば、実行してもいいだろう。
メロディの身支度を待っている間に続々と先輩冒険者たちがやって来る。各々、身支度を整えているようだ。
メロディもすっかり目を覚まし、身支度を整えたあと、二人はイフリート・キッスの1階のいつもの席に着いた。
他の冒険者パーティもいつも使っている席を利用している。1階にいない者は現在遠征中か、もしくは2階の共同スペースで朝食を取るのだろう。
「サクラは?」
いつもなら一番に起きているはずのサクラの姿は無い。
「昨日、リリアーナのところへ行くと言っておったからのぅ。まだ遊んでおるのではないか?」
リリアーナ・レモンフィールドは娼婦である。そこに遊びに行くというのは、つまりそういうことであって、リルナは複雑な息を吐いた。
「大人って……」
「肉欲はあって当然じゃよ。男の本能というではないか」
「だって~」
朝からそんな話題も嫌だ、とばかりにリルナは首をブンブンと振った。ピンクな話題は夜のほうが似合っている。少しばかり酔っていたほうが出来そうな話題だった。
二人は肩をすくめると、やってきたルルに朝食を注文する。リルナはベーコンエッグトーストで、メロディはスクランブルエッグとパンを注文した。
冒険者の一日の始まり。
しっかりと朝食を取る二人であった。




