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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その1 ~冒険者の店『イフリートキッス』~

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~冒険者の店『イフリートキッス』~ 5

 断崖絶壁、とは言い切れないながらも、それなりに切り立った山肌を進んでいくと、やがて少し開けた平らな場所に出た。

 どうやらそこに洞窟があるらしく、またもや見張りのゴブリンが立っている。


「また同じ方法で倒しますか?」


 ルルの言葉に、リルナはう~んと考えを巡らす。

 現在、リルナ達の居る場所からではゴブリンは一体のみしか見えない。しかし、そのゴブリンのすぐ後ろには洞窟があるので、もしかするとそこに何体かゴブリンがいるかもしれない。


「洞窟の中に、仲間がいるかもしれないから危ないよね」

「あ~、確かにそうですねぇ」


 どうしたものか、と考えていても仕方がない。リルナはそう呟くと、岩肌をよじのぼっていく。


「どうするんですか~?」

「ちょっと見てくる」


 静かな声で伝えたあと、リルナは岩肌を足がかりに進んでいく。じっくりと時間をかけて洞窟の上に辿り付くと、そこから下を伺った。

 真下にいるゴブリンに気付かれない様に洞窟の中を見る。すぐそばには松明があり、炎がユラユラと揺らめいている。生意気にも、火を扱う程度の知能があるみたいだ。

 情報はそれきりで、他は何も見当たらない。耳をすましてみるが、真下のゴブリンが時折呟く蛮族語以外は聞こえない様だ。


「よぅし……」


 リルナは意を決すると、再び倭刀を構える。真下にいるゴブリンの頭めがけて、そのまま飛び降りた。


「うりゃ!」

「ぐぇっ!」


 という短い声が響いた。慌ててリルナは洞窟の方へ倭刀を構えるが、増援は来ず。突発的な作戦は成功した様だ。


「ふぅ……」


 緊張感から解放された様に、リルナは大きくため息を吐いた。落ち着いた所でルルを手招きして、ゴブリンから戦利品を強奪。2ギルも持っていたので半分づつ分け合った。


「すごいすごい。もう1ギルも稼いじゃった~」

「アルバイト料金っていくらなの?」

「一日働いて、300ガメルです」

「そ、そう……大変ね、アルバイトって」


 ルルでも出来る皿洗いとなると、がっちり稼ぐのはなかなか難しそうだった。


「さて、ここからが本番ね。いきなりダンジョン攻略かしら」

「中に入るんですか?」

「できれば入りたくないよね」


 少女二人の意見は合致しているらしく、お互いにうんうんと頷きあう。


「こんな時のセオリーは、煙で燻して中のモンスターを追い出すんだけどね。もしくは、待ち構えて不意打ち」

「煙ですか~。火と何か燃える物がいりますけど~……」


 二人の手持ちに、燃える物はおろか火打石ひとつ無い。普通の山ならば枯れ枝や枯葉を集めればいいが、岩山にはそんな都合の良い物は無かった。


「リルナさんの召喚術で煙とか出せないんですか?」

「煙と契約なんかしてないって。煙の精霊なんているの?」

「聞いた事ありません。じゃぁ、サラマンダーは?」


 炎の大精霊サラマンダー。荒れくれ者で豪胆で有名な炎を司る大精霊だ。


「ううん、契約してない。わたしが契約してるのはたったの二人。大精霊はウンディーネだけよ」

「そうですか~。う~ん、ウンディーネさんに洞窟の中を水でいっぱいにしてもらうとか?」

「あぁ、なるほど。全部洗ってしまって、あとから回収すればいいよね。でも、そこまで水を出してくれるかなぁ」


 とりあえず、とばかりにリルナは召喚術を試行する。体がビンと固まり指に光が灯った。そこから描かれるのは三重円。複雑な神代文字が記されていく。最後は、一番内側の円に『精霊』を現す文字が描かれた。これで精霊召喚の魔方陣の完成である。


「大精霊ウンディーネ召喚っ」


 ポンと指で魔方陣を叩いた瞬間、光が文字をなぞり、そして掌サイズの妖精が現れた。水色の長い髪に白のローブ。背中には透き通った6枚の羽根。優しそうな青い瞳に、特徴的な耳をしており、エルフ族の様に尖っていた。


「あら、リルナちゃん。こんにちは」

「こんにちは、ウンディーネ」


 周囲を確認したウンディーネはヒュルリと浮かび上がると、リルナの頭の上に着地した。


「大精霊ウンディーネ様ってこんな小さかったんですか」

「おや、お友達ですか?」

「え~っと、はい。お友達のルルちゃんです。学士を目指しているそうです」

「よろしくお願いします~、ウンディーネ様」

「ウンディーネでいいよ、ルルちゃん。普段はもっと大きい姿だけど、召喚士に呼ばれた時は負担を減らす為に小さい姿で出てくるわ」

「そうなんですか~。でも、水の神殿はいいんですか? 信者の方たちが引っ切り無しに訪れていると聞きますが」

「う~ん、簡単に説明すると、今の私は意識をちょっとだけ分離させているだけみたいな形です。本体は今も水の神殿にありますよ。精霊はどこにでもいますから、召喚士に呼ばれても大丈夫なのです」

「ほへ~」


 ひとつ賢くなりました、とルルが喜んだところで自己紹介は終了。さっそく、リルナはウンディーネにお願いをしてみる事にした。


「という訳で、洞窟内を洗い流して欲しいんだけど……いいですか?」

「えぇ、大丈夫です。そのかわり、もっと大きな魔方陣を描いて頂かなくてはなりませんよ。具体的には、洞窟の入口と同じ位の大きさです」

「なるほど~。頑張ってみるっ」


 大精霊ウンディーネの許可が出たところで、リルナは再び召喚術の準備をする。ウンディーネはヒラリと舞い上がると、今度はルルの頭の上に止まった。


「大精霊を頭の上に乗せる日がくるなんて、思ってもみませんでした~」

「ルルちゃんの学士の帽子。乗りやすいわね。寝床にしようかしら」

「あぁ、ごめんなさい。パパとママにペット禁止と言われてるんですよぅ」

「ペット扱い!?」


 ルルと大精霊の微笑ましいやりとりに苦笑しながらも、リルナは体を硬直させる。身体制御魔法『マキナ』の効果である。これは自分の体を完全に操るという魔法の為、正確な動きが出来る。魔方陣の真円を描けるのも、この魔法のお陰となっていた。

 またマキナは戦闘にしようする事も出来る。人間の体では知らず知らずにリミッターをかけられているが、このマキナによって限界値やそれ以上を出す事も出来る。ただし、その後に体がどうなってもしらないが。

 この魔法のお陰で、召喚士くずれ、と呼ばれる人も存在する。本来、召喚士専用の魔法ではあるが、これを利用すれば戦士であろうが剣士であろうが、通常よりも戦闘力を増す事が出来るからだ。

 まるで機械仕掛けの様に正確に指を動かしていくリルナ。岩壁を蹴り飛び、洞窟の入口にすっぽりと収まる様な巨大円を描いた。複雑怪奇に神代文字を記し、最後の円に記されたのは『水』という意味の文字だ。


「出来たっ!」

「おぉ~」


 感嘆の声と拍手を送るルルににっこりと笑顔を送ってから、リルナはウンディーネに合図を送る。


「いくよ、ウンディーネ!」

「はい。いつでもいいですよ」


 リルナは拳を握り締めると、拳が淡く光る。召喚術を発動させるキーの役割だ。


「大精霊ウンディーネのぉ、水っ!」


 魔法名もないので、とりあえず単純明快な事実を叫びながらリルナは魔方陣の中心に拳を叩き込んだ。光が魔方陣を走り、文字を伝い、そして発動する。

 轟音と共に魔方陣から水が流れ出た。それも激流だ。嵐の中の河を思わせる勢いに、リルナとルルは思わずその場から離れる。


「う、ウンディーネさん。ちょっとやり過ぎでは……」

「うふふ。召喚士に呼ばれるのなんて久しぶりなんですもの。気合いが入りすぎちゃったかな」


 頬に手を当て、にっこりと笑う大精霊に、若干引いてしまったリルナとルルだった。


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