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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  16

 パペットマスターを退け、石つり橋を渡り、広い空間を抜ける。その先は少しばかり小さな通路になっていた。

 幸いなことに身長の高くないリルナとメロディだが、リーンは少しばかり頭がスレスレ。そんなリーンの頭に乗っていたウンディーネはリルナの肩へと移動する。

 ちょっとしたトンネルを足元に気をつけながら抜けると、再び広い空間に出た。


「うわぁ、すごい……」


 思わずリルナたちは感嘆の声をあげる。

 先程の剥き出しの危険はなく、ちょっとした遺跡のような造りになっており、白く壮大な柱が幾つか天井を支えるようにそびえていた。

 その天井も白く、よく見れば彫刻が施してあり、この空間が神聖なものであると証明していた。

 不思議なことに光源が無いのに、明るい。先ほどの広い場所では溶岩が空間を照らしていたが、ここでは切り立った崖など無い。

 その明かりの正体は、部屋の奥にたたずむ巨大な人影からだった。

 まるで巨人の玉座のような椅子にあぐらをかく少女。もちろん、その大きさは人間の規格を通り越しており、彼女がただならぬ存在だと一目で理解できた。


「こ、これが大精霊なのか……」


 その姿を見て、メロディは言葉を失う。

 大精霊とは、その属性を司る存在であり、自然の王でもある。ここ群島列島タイワにおける『自然現象』は全て精霊の力だ。

 水が流れるのも、火を熾せるのも、大地が動くのも、金属が存在するのも、植物が生えるのも、全て精霊の力が根底にある。

 そんな精霊を束ねる王こそが大精霊であり、その姿は人間にも見える巨大なものだった。


「火の大精霊……サラマンダー」


 リルナの言葉に、巨大な少女がニカリと笑った。


「違うぞ」


 その声は快活なもので、少年ぽさが滲んでいる。まるで悪戯ざかりのような火の大精霊の姿は、少しばかり奇抜だった。

 まず特徴的なのは、その逆立つオレンジの髪だろう。まるで燃えるように揺らめいており、ちょっとした喜劇役者にも見える。黒く体にフィットするような布が胸のあたりに巻かれているだけで、浅黒い肌の露出が多い。スカートもまた黒いが、ところどころ破れているようで、そこから覗く足もまた浅黒い色をしていた。

 全体的なイメージは喜劇役者というよりも踊り子に近かった。


「えっと……火の大精霊じゃないの?」


 おずおずと聞くリルナに対して、巨大な彼女はイヤイヤと手を横に振った。


「確かにあたいは火の大精霊だ。違うのは名前だよ、名前」

「名前?」


 そのやり取りにリルナの肩にいるウンディーネがくすくすと笑った。


「なんだよウンディーネ。お前も違っているなら否定してくれよ」

「いえいえ、懐かしく思って。ねぇ、サラディーナ」

「サラディーナ?」

「おうともさ。あたいの名前はサラマンダーなんて火トカゲの名前じゃなくって、サラディーナっていうの。覚えててくれよ、召喚士」


 サラディーナはそう言うと立ち上がり、リルナたちの前まで歩み出た。そこでまたどっかりと腰を下ろしてあぐらをかく。


「召喚士が来たのなんて何年ぶりだ? いやいや、もう絶滅したのかと思ったぜ。懐かしいなぁ、ウンディーネ。お前と話すのも久しぶりだ」

「ど、どうしたわたしが召喚士だと?」

「ん? 世の中で大精霊を肩に乗せられるような大物は召喚士だけさ。見ればホワイトドラゴンまで仲間にしているじゃないか。これはさぞ名のある召喚士様に違いない!」

「いやいやいやいや」


 サラディーナの言葉を、リルナはおろかメロディとリーン、ウンディーネまでもが首を横に振って否定した。


「あれ、そうなの?」

「か、駆け出しの冒険者です……」

「ん? そうなの? まぁ、普通に考えてあたいと契約もしていないのに名前のある召喚士な訳ないか。あっはっは!」


 バンバンとサラディーナはリルナの頭を叩いた。もちろん、手加減をしていたのだが、リルナは地に伏せるように倒れてしまった。ウンディーネは素早くメロディの肩へ移動したらしく、被害を受けていない。


「い、痛い……」

「あ……ごめんごめん。これぐらいでダメージ受けるって、マジで駆け出しなんだな。そんなんでやっていけるのか?」

「う……」


 なにやらサラディーナの言葉の棘がリルナの小さな胸に刺さるが、なんとか立ち上がる。


「その為にここに来たんですっ!」

「あはは、そりゃそうか。誰だってはじめは駆け出しだもんな。よし、召喚士! あたいはお前に協力してやるぞ。契約しようじゃないか!」

「ほ、ほんと?」

「断る理由もないしな。ケチな神様と違って大精霊は寛大だぜ。なぁ、ウンディーネ」

「えぇ、そうですね」

「やった! ありがとっ、サラディーナ!」

「おう! あっと、そう言えば名前を聞いてなかったな召喚士。あんたの名前を聞かせてくれよ」

「リルナ。リルナ・ファーレンス」


 その名前を聞いたとき、大精霊の表情が驚きに変わる。その逆立つ炎のような髪が、一瞬だけざわめくように動いた気がした。

 仰け反るように背筋を伸ばしたかと思うと、サラディーナはそのまま俯いた。もちろん、巨大な為に、リルナたちからは表情が丸見えだ。

 その顔は、嬉しいような、驚いたような、それでいて泣きそうな、そんな複雑な顔をしていた。


「そうか……お前、あいつの」

「あ、あいつって?」

「いや、何でも無い……いや、何でもない訳なんて無いよな。そうだ、これはお前に、リルナに関係のあることだな」


 その複雑な言い回しにリルナはメロディの顔を見た。もちろん、メロディに理解できるはずもなく、リーンもキョトンとしている。

 ただウンディーネだけは、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。


「お前、キリアス・ファーレンスの娘だな」

「パ――、お、お父さんを知っているの!?」

「知っているとも。いや、知らないほうがおかしい。あいつはこの世で最高で最強の召喚士だったんだ。その召喚獣であるあたいが知らないほうが、おかしいだろ?」

「お父さんは、今どこ!?」


 キリアス・ファーレンス。

 リルナの父にして、世界最高の召喚士と謳われていた。現在は行方不明となっており、この世から召喚士という存在ごと忘れ去られている。


「あたいも知らない。気が付けば召喚されなくなった。そこから伝え聞いた話で、あいつが行方不明になったってのを聞いた。だが、あたいは死んだとは思っていない。キリアスがそう簡単に死んでしまうほど、あいつの召喚獣はヤワじゃない。なんなら、神にでも成ったんじゃないか、って思っているからな」

「お父さんが、神様に……?」

「それぐらいの実力はあったぜ。もしも、神様がいる天界ってところに行けたらなら、案外とそこでノンビリと神様やってるかもしれないな。キリアスはそんなヤツだったよ」


 何かを懐かしむようにサラディーナは微笑む。その視線の先は、リルナを越えて、いつかのキリアスの姿を見ているようだった。

 リルナはウンディーネを見る。彼女と契約した際も、父親の話は聞いた。だが、その情報はサラディーナとそう変わらない。

 結局のところ、召喚獣だったウンディーネもサラディーナも、父親の最後の姿を知ってはいなかった。


「すまぬ、サラディーナ殿」

「お、なんだ、ちびっこ?」

「ちび……妾はメローディアと申す。メロディと呼んで頂きたい」

「おう、そのメロディがどうした?」

「サラディーナ殿は、召喚士という存在を覚えておったのか?」

「ん? 当たり前じゃないか」

「ふむ……実は、世界から召喚士という存在が半ば消えておる。そのことに何か覚えはあるか?」


 メロディの言葉に、本当か、とサラディーナはリルナを見る。リルナは素直に頷き、ウンディーネも同調するように頷いた。


「確かに以前は召喚士が契約に来ていたな。最近はめっきりと人間が来なくなったのは……そのせいか」


 どうやらサラディーナにも、世界から召喚士の記憶が消えている理由に覚えは無いようだ。


「ホワイトドラゴンは、何か知らないのか? 君たちは、ほら。知識の結晶とも呼ばれているじゃないか」


 サラディーナに言われて、リーンは首を横に振る。


「残念ながら、ボクは知らないよ。子供だから。ママにも聞いたことがないね」

「ホワイトドラゴンにも分からないとなると、こりゃ神様しか知らないだろうな」


 サラディーナは肩をすくめた。

 自然の王といえど、知らないものは知らない。

 そんな風に苦笑するのだった。


「それじゃぁリルナ。あたいはお前の為に力を貸そう。キリアスに恥じぬ召喚士になってくれよ」

「――うん!」


 リルナは力強く頷くと、身体制御呪文『マキナ』を発動させる。ピタリと動きを止めるリルナの体は、次に中空に文字を書く魔法『ペイント』を使い、魔法陣を描いていく。

 描かれる円は寸分の狂いなく真円であり、刻まれる文字は歴史書を刻む老人よりも正確だ。

 三重の円に刻まれる神代文字。

 完成した魔法陣の中心に刻まれた文字は『精霊』を表す文字だ。


「サラディーナ」

「おう」


 リルナは掌を魔法陣に当てる。その反対側に、リルナの手に触れるようにサラディーナは拳を当てた。


「契約、火の大精霊サラディーナ」


 呟く声と共に魔法陣が光り、そして収束していく。

 契約は成功した。


「ありがとう、サラディーナ。これから、よろしくっ」

「バンバンあたいを召喚してよ、リルナ!」


 召喚士リルナ・ファーレンス――

 ようやく二人目の大精霊と契約できた瞬間だった。


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