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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  14

 まるで感情を感じられない姿の人形から、演劇がかった言葉が発せられるのは、ちょっとした恐怖でもあった。


「こ、これはどうしたことじゃ?」


 しかも自分の体が動かない。感覚はそのままにあるのに、メロディは自分の体が意思に反応しないことに焦るような声を出した。


「こ、これって」


 その感覚に覚えのあるリルナは焦ることなく人形を見る。

 そう、彼女には覚えがあった。それは、初めて依頼を受けて隣街へ行った時のこと。意図しない姿で走り回ることになった事件。


「パペットマスター」

「えぇ、その通りですよリルナさん」


 人形は口を大きく開き笑う。ニヤリとしてみせたようだが、いかんせん造りが荒っぽいので表情は作れていない。

 尤も、そのせいで不気味さは格段と上がっているが。


「リルナ!」


 先に吊り石橋を渡ったリーンが声をあげる。


「おっと、動かないでくださいよ」


 だが、人形はくるりとその場で振り返ると、無謀にもホワイトドラゴンを牽制した。


「やはりあなた方には効かないようですのでねぇ。尤も、ドラゴンを操れるようになれたなら、私は名実ともに敵なしとなってしまいますが」


 カタカタカタと人形は揺れる。不気味に笑っているという表現だろうか。少なからずともそれは成功していた。


「リルナ、これはどういうことじゃ」

「なんかめっちゃ賞金かけられてるパペットマスターっていうのがいてね。召喚士クズレの犯罪者よ」

「賞金首とは穏やかな話じゃないの。って、うわわわ!?」


 メロディがぎこちない足取りで歩き出す。それは吊り石橋の方角ではなく、何もない崖へ向かっていた。

 もちろん、その先に待っているのは死だ。


「な、なんじゃ!? 妾はまだ自殺志願を申し出た覚えはないぞ!」

「メロディ!?」


 リルナは慌てて身体制御呪文である『マキナ』を発動させる。バチリとまるで雷の魔法が流れたように紫の光が疾る。その瞬間、リルナを拘束したいたものは無くなり、自然体へと戻った。

 慌ててメロディの元へと駆け寄るが。彼女の身体を抑えるので精一杯だった。


「た、助かったぞリルナ。妾も自由に動けるようにならんのか?」

「他人にマキナを使う方法なんてあたし知らないっ! ちょっとヘンタイ人形使い、メロディを止めなさいよっ!」

「誰がヘンタイですか誰が。私はただの人形のご主人様なだけですよ?」


 それがヘンタイだって言ってんのよ、というリルナの言葉は無視して人形は器用に短い手足で歩いていく。

 その方向はリルナたちではなくリーンの方だった。


「ボクに用があるの? パペマスさん」

「いえいえ、忠告です。 余計な手出しは遠慮して頂きたい。あぁ、大精霊様も」

「困りましたねぇ」


 リーンの頭に乗ったままの大精霊は頬に手を当てる。つまり、メロディを人質に取った様相だ。


「手を出しちゃダメ?」


 リーンはその鼻先を人形へと近づけた。道端でじゃれつく子犬のように少しばかり小首を傾げてみせる。ちょっと媚びるようなポーズだ。


「えぇ、できれば静観願いたいものです」

「そりゃ無理だ。だってボクはドラゴンだからね」


 くわっ、と口を開く。そこに並ぶ鋭い牙が赤黒く光ったかと思うとガチリと噛み鳴らした。

 まるで口から溢れるように炎があふれ、リーンはもう一度、その顎を開いた。

 ドラゴン族が持つ特技の代表格といえばブレスだろう。その息は属性となり相手へと襲い掛かる。レッドドラゴンならば炎属性。ブルードラゴンならば水属性という具合に、彼らの体の色が属性を表している。

 ホワイトドラゴンが他のドラゴンよりも優れているのは、その属性からだ。白とはつまり、何色にでもなれることを表す。つまり、あらゆる属性を使いこなせるのがホワイトドラゴンという種族だ。


「おや、これは酷い。交渉は決裂ですねぇ」


 人形は軽口をたたきながらも、その炎の息を避ける。ぴょんと跳ねたかと思うと、大きく後ろへと跳び退った。


「さよなら、リルナさんのお友達」

「なんじゃと!? 慈悲はないのか!? お主、少し妾とお話してみるつも、ああぁぁぁ!?」

「うええぇぇぇぇ!?」


 メロディの言葉を最後まで聞く事なく彼女の足は中空へと踏み出した。それを止めようとしたリルナも一緒に。

 だが、ドロドロの溶岩に落ちて十年ちょっとの人生は終わらなかった。空中でリルナの襟首をリーンが咥え、落下を防いだ。


「あ、ありがとシロちゃん……死ぬかと思った」

「まだボクのことをそう呼ぶんだ」


 リーンは遠慮なくメロディもろともリルナの襟首から口を離した。


「すいませんでしたああぁぁぁ! リーンさまあぁぁぁ!」


 と、リルナが叫んだところでリーンは再びキャッチ。今度は素直に上へと引き上げた。


「うん、ようやくボクのありがたさが分かったようだね」

「ぜぇぜぇ……いつかもう一度、ぶっ飛ばしてやるっ」

「なぜ妾がそれに巻き込まれる……」


 未だ〝気をつけ〟のままなメロディの周囲をリーンがバチンと顎を打ち鳴らす。


「お、動けるようになった」


 ようやく解放されたメロディは素早く立ち上がりロングソードを引き抜く。


「リーン殿、感謝する。良ければ金縛りのカラクリを教えてくれぬか?」

「魔力の糸だよ。マキナ・エクスとか名付けてるみたいだけど、結局は魔力の糸で操っているだけ」

「ヴァルキュリアの効果が出ていないようじゃが?」


 彼女の装備しているヴァルキュリアシリーズには、相手の攻撃に対して自動で発動する防御魔法があるのだが、パペットマスターのエクス・マキナには反応していなかった。


「それは攻撃じゃないですからね。本来、召喚士が利用するエクスは補助呪文。攻撃の類ではありません」


 なるほどのぅ、とメロディは頷き、そのまま人形へと斬りかかった。


「おやおや、リルナさんのお友達はなんとも血気盛んだ」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねる、まるで馬鹿にしたような動きでメロディの剣を避ける人形。その人形に絡んでいるはずの魔力の糸は、どうやらただのロングソードでは切れないようだ。


「素早いのぅ。ならば、名乗っておこう。妾の名はメローディア・サヤマ。近しい者からはメロディと呼ばれておる。尤も、お主にそう呼ばせる覚えはないので、気をつけるのじゃよ」


「なるほど、王族でしたか」

「偽者じゃがな」


 メロディは、少しばかり複雑な笑顔をみせてから下がる。偽者とは、血の繋がりが無いという意味なのだろう。


「それではこちらもきっちりと相手せねばなりませんね」


 そういうと人形は再びぴょんぴょんと飛び跳ねながら崖まで移動する。そして、そのまま溶岩へと身投げした。


「あれ? 逃げた?」


 リルナが警戒を解こうとした瞬間、人形が落ちた位置に真っ赤に燃える手がかけられる。


「え?」


 流れるように燃える手。それは溶岩でできていた。ズワリと崖から現れたその身体もまた溶岩でできており、身体は零れるように燃えてる。

 その大きさは成人男性よりも高いくらいだろうか。まるで歴戦の戦士を思わせる身体の分厚さだった。尤も、燃えている上にドロドロと流れる溶岩が渦巻いており、正確な大きさは分からない。


「どうですリルナさん? ただただ普通の召喚士ではここまでの魔法は使えないでしょう? 召喚士なんて職業は、ただの役立たずです。たとえ、大精霊を味方につけようと」

「……そんなことあるもんかっ!」


 リルナはマキナとペイントを発動させる。まるで固定されるかのような身体は、正確な軌跡を辿り、同時に2つの魔法陣を描いた。


「総力戦だ!」


 リルナが魔法陣を発動させると、そこに現れたのは一匹のコボルトと小さな魔女。ハーベルク・フォン・リキッドリア13世とレナンシュ・ファイ・ウッドフィールドだ。


「ハー君、レナちゃん、よろしく!」

「「いやいや、無理だから」」


 蛮族最弱種族のコックと、木属性の魔女に溶岩人形は荷が重すぎたようだ。と、そこへ溶岩人形が殴りかかる。皆は飛び退くように散開した。


「はやり召喚士とは役立たずですよねぇ~」

「そんなことないってば! 行くよハー君、レナちゃん、ウンディーネ、リーン君!」


 召喚者に頼りにされたのでは、活躍せざるを得ない。

 まるでそう言うかのように、リルナの周囲にみんなは集まる。少しばかり頼りないメンバーだが、それを補うようにメロディが前衛へと立った。


「うむ。これでこそ冒険じゃの!」


 ロングソードを構え、お姫様は笑う。

 それを表情の無い溶岩人形が、不気味にもパペットマスターの声で挑発的に笑うのだった。


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