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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  13

 スヴァー火山。

 シューキュ島の数ある火山の中でも大きい部類に入り、いつも噴煙をもくもくとあげている細高い、と表現できる火山である。

 黒の噴煙は周囲を曇らせ、スヴァー火山近辺はいつも薄暗い。また噴火口以外からも常にマグマが噴き出し、川のように流れていた。

 太陽の光が届かないからか、植物は一切として生えていない。マグマが固まった穴のあいたチーズみたいな岩がゴロゴロと転がっている大地となっていた。


「すごい場所じゃのぅ」


 リーンから飛び降りたメロディは周囲を確認する。その初めて見る光景に、心ときめいているようだった。


「だいじょぶ、リルナ?」

「足が、ふるえる……」


 そんなメロディをよそに、リルナは地面へとへたり込んでいた。ようやく辿り着いた地上ではあるが、上空での恐怖に足に力が入らなくなったらしく、四つん這いになっている。

 その足はプルプルと震え、まるで生まれたてのゴブリンを思わせた。多少の責任を感じてかリーンが付き添うこと数分。ようやくとばかりに、リルナは立ち上がる。


「酷い目にあった」

「いやいや、ドラゴンと共に空を飛べるなど貴重な体験じゃぞ」


 マグマの熱気に顔をそらせつつ、二人と一匹はスヴァー火山の麓を目指す。降り立った場所からそう遠くない場所に、なにやら荘厳な装飾物が見えていた。その場所へ近づくと、その正体が分かる。


「ここが入り口?」


 スヴァー火山に向かってぽっかりと開いた大きな空洞。その空洞の入り口に、元は白色であっただろう石の柱が建てられていた。

 残念ながら、今は灰色を通り越して黒色。細かな彫刻も、今ではただの柱の一部となっていた。


「そのようじゃのぅ」


 メロディが見上げながら言う。その視線の先には、天井付近の彫刻。その内の一体は、大きな姿をしており、火の大精霊の姿を模していた。


「水の神殿とは全然違うみたい」


 リルナが訓練学校時代に訪れた水の神殿では、巡礼をする人や冒険者で賑わっており、神殿の外も中も綺麗に保たれていた。また、ウンディーネを崇拝する人も多く、水の神殿近辺は一つの街のようにも成っており、綺麗な水と共に手入れがされていた。

 大精霊にも格差があるのだろうか?

 なんて疑問を口にしながら、リルナとメロディ、そしてリーンは入り口を潜る。その瞬間、また気温が上がった気がして、二人は思わず小さな悲鳴をあげた。


「どうしたの?」

「空気が熱い。シロちゃんは大丈夫なの?」

「ボクたち、もともと炎を吹けるし」

「そうだった……」


 ドラゴンって便利、なんて呟くが……二人の足は止まったままだった。吸い込んだ空気が熱く、これ以上の侵入を本能が止めてくる。

 どうしたものか、と思ったリルナだがすぐに答えを見つける。


「こんな時は、ウンディーネだ」

 

 早速とばかりに召喚陣を描き、ウンディーネを召喚する。

 魔法陣から放たれた光が収束し、そこに小さなウンディーネが現れた。本来、彼女は見上げるほどに大きいのだが、精霊召喚される際は、妖精のような姿となる。大精霊本体が呼び出されたとなると、神殿が留守となり、力の均衡が失われる為だ。また、過去は召喚士がたくさんいたので、同時に呼ばれても召喚できるようになっていた。

 いわゆる限定召喚、だった。


「は~い。あら、ここは――」


 召喚されたウンディーネはキョロキョロと周囲を見渡す。どうやら見覚えがあるらしい。


「懐かしいわ。炎の神殿ね」

「うん。この熱いの、どうにかならない?」

「大丈夫よ」


 と、ウンディーネがリルナとメロディに向けて掌をかざす。すると、彼女たちの周囲に薄く靄のようなものが現れた。


「お、涼しくなったぞ。これはなんじゃ?」

「ただの霧ですよ、お姫様」

「なるほど。じゃが、これだけでも随分と楽になった。あと、ウンディーネ殿に姫と呼ばれると、まことに恐縮なのじゃが……」

「気にしない気にしない。ねぇ、リーンさん」

「うんうん。リルナより立派だからね」


 だからなんでシロちゃんは私の味方じゃないの! と、いう抗議の声をあげつつ、一同は炎の神殿を進む。

 しばらく進むと外の明かりが届かなくなる。荷物の中からランタンを取り出し、明かりを確保しつつ進んでいくと、奥から鈍い光が見えた。

 どこか繋がっているのか、と進むとその先には溢れんばかりにマグマが溜まったとんでもない場所に出た。

 大きく広がった空洞の真ん中に道は続き、その先はつり橋となっている。天井は高く、ゴツゴツとした岩肌が見えた。

 道の幅は5メートルほどだろうか。足を踏み外す心配は無いのだが、その下はマグマ溜まりとなっており、落ちれば骨も残らないような空間だった。


「うわ、すごい」

「まるでこの世の終わりみたいじゃ」


 道の端っこからリルナとメロディは下を覗き込む。好奇心には勝てなかったのか、しばらくそうしてから、先へと進み始めた。


「つり橋だ……」


 道は途中で抜け落ちており、それを繋ぐのはつり橋だった。もちろん、木ではなく石で出来ており、ロープも金属製の針金のようなもので造られたもの。複雑怪奇に張り巡らされた針金は少しばかり頼りなく見え、リルナは思わずその一歩目を躊躇した。


「これ大丈夫かな?」

「錆びてはおらぬが……」


 二人はゆっくりと後ろを見る。そこには、ウンディーネを頭に乗せたリーンがいた。


「なに?」

「シロちゃん、先に渡って」

「え~」

「この中で一番重いのはリーン殿であるし、落ちても飛べるじゃろ?」

「むぅ、ドラゴン使いが荒いんだから」


 リーンはしょうがないな、という雰囲気を体中から発しながらつり橋の前に立つ。


「召喚獣でしょっ。私に負けたんだから、契約したくせに」

「あ~、それは言わないって約束じゃないか~」


 リルナに向かって、がおー、と吼えながら一歩目を踏み出す。ぎしり、とつり橋は揺れるが……どうやら問題は無いようだ。ノシノシとウンディーネを頭に乗せたまま、リーンは無事につり橋を渡りきった。


「ふむ、問題は無いようじゃのぅ」

「良かった。じゃ、次はあたしが渡るねっ」


 と、リルナが一歩目を踏み出そうとした時――小さな何かが彼女たちを追い越した。それはトントントンと飛ぶようにしてつり橋の真ん中までくると、まるで曲芸を踊るように回転し、二人へと振り返る。


「やぁやぁやぁ~」


 そう喋ったのは、人形だった。ずんぐりむっくりとした手足に、毛糸の髪の毛。口は横に切り裂かれたような形で、中は真っ赤。目の部分には黒いボタンが付けられており、その視線は確実にリルナとメロディを捉えていた。


「な、なになにっ?」

「なんじゃ、モンスターか?」


 と、二人が身構えた瞬間――

 体が硬直するように『気をつけ』の体制となった。


「なっ!?」


 そんな二人に満足するように、人形は慇懃に礼をする。

 そして、真横に裂かれた口でこう言った。


「お久しぶりです」


 と。


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