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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  11

「それで、炎の大精霊とはどこにおるのじゃ?」


 カーゴ国はガーラント城下街を歩きながら、メロディはリルナに聞いた。相変わらず気温は高く、じんわりと汗が滲んでくる。

 装飾具のマントを外したリルナはそれをカバンに入れながら、うぐ、と動きを止める。


「ぼ、冒険の基本は聞き込みよ」

「素直に知らぬと言わぬか」

「は、はい」


 年下のお姫様に窘められるという稀有な経験をしながらも、リルナは周囲を見渡す。現在地はどうやら商業区域らしく、人間にしてみれば少しばかり低い建物が多く見られた。ドワーフの街らしく、普通の建物の天井は低いらしい。高身長なエルフには住み難そうな街だった。

 ひとまず手近な屋台へリルナとメロディは移動する。ドワーフのお兄さんが串にブロック状の肉を刺して炭火で焼くという単純ながら胃袋を刺激する一品だ。


「いらっしゃい、何本だい?」

「2本くださいな」


 あいよ、とお兄さんは焼きたてを渡してくれる。代金を払いながら二人はそれを受け取ると、さっそくとばかりに1個目の肉にかぶりついた。

 じゅわっとあふれる肉汁が熱かったが、それに耐えると香ばしい香りが鼻に抜け、それと共に肉の味が口内に広がる。味付けは香辛料だろうか、ピリリとした刺激が丁度良い具合だった。


「おいしい!」

「ほぅ、うまいのぅ。我が街の肉屋も負けるかもしれぬ」

「はっはっは、かわいいお嬢さん方にほめられると嬉しいもんだ」


 お兄さんはご機嫌に笑う。それに対して謙遜をしながら、リルナは聞いた。


「ねぇねぇ、炎の大精霊ってどこにいるか知ってる?」

「炎の大精霊? そりゃ炎の神殿に決まっているじゃないか。ここから東の方向へ馬車で三日ぐらいのスヴァー火山の麓にあるぜ」

「ふむ、遠いのぅ」


 メロディは少しばかり表情を曇らせるが、リルナは問題なさそうにお礼を言う。そして、ついでとばかりにもうひとつ質問をした。


「あと、この街で一番の武器屋さんってどこ?」

「それは一番大きな店っていう意味かい? それとも、一番腕の良い店かい?」

「う~ん……腕の方で」

「だったら『銀色の法』だ」

「銀色の法……っていうお店?」


 変わった名前だったので、思わずリルナは聞き返す。そうだ、というお兄さんにその場所を聞き、改めて美味しさとお礼を伝えた後、二人はその場を後にした。


「武器屋で何をするんじゃ? 何か買うつもりか?」

「買うんじゃなくて、売る」

「何を」

「これ」


 リルナは腰に横向けにぶら下げている倭刀を持ち上げる。文字通り、無用の長物であり、リルナには扱いきれないものだった。


「売ってしまうのか、もったいない」

「じゃ、メロディが使う?」


 その言葉に、お姫様はブンブンと首をふった。前衛の剣士職である彼女でさえも、使いこなせる自身は無く、また所有する気にもなれなかった。


「妾にはまだ早い。というか、鎧でさえも貰い物で妾の実力ではまだロングソードとバックラーのみじゃ。階段はゆっくりと登るほうがいい」


 二人はお兄さんに言われた道を辿り、一軒の店へと着いた。こじんまりとした店だが、しっかりとした造りで、年季を感じさせた。扉の上に出ている小さな看板には『銀色の法』と店の名前が記してあり間違いは無さそうだ。

 リルナが扉を開けると、熱風が吹き出してきた。


「うわぁ!?」


 それと共にガンガンと何か金属を打つ音。どうやら工房がそのまま店になっている様で、一人のドワーフの老人がハンマーを振り下ろしていた。

 まるで店では無いが、その工房内には様々な武器が並べられている。どれもこれも一級品の輝きを放っており、老人の腕の良さを一目で表していた。


「ん? おう、客か」


 少しばかりの空気の流れを感じて、ドワーフ老人はハンマーを打つ手を止めた。


「さ、作業中にごめんなさい」

「はっはっは、気にするな。ちょうどキリが良いわ」


 そう言って老人が持ち上げたのは刃の腹が広い特徴的な剣だった。まだ柄は付いていないので無骨な姿だが、見るからに切れ味は高そうだ。


「ほぅ、さすがこの国で一番の腕前じゃのぅ」

「はっは、見る目があるじゃないか、お前さん。ほれ」


 ドワーフ老人が何気なくその剣をメロディに投げてよこす。メロディは慌ててそれを受け取るが、なにやら悲鳴をあげてひっくり返ってしまった。ご丁寧にヴァルキリー・メイルのオートリフレクまで発動させて。


「お、重い……」

「がははははは! お前さんではまだ扱えそうにないな」


 リルナはメロディを助け起こそうとしたが、剣はビクともしないぐらいに重かった。ドワーフ老人に助けられて、ようやくメロディは起き上がる事が出来た。


「それで、何のようだ? 武器が欲しいならもう少し経験を積んでくるほうがいいとワシは思うが?」

「実は、これを買い取って欲しいんです」


 リルナは倭刀を鞘ごと手渡した。


「これは……倭刀ではないか。お前さんが持ち主なのか?」

「はい……残念ながら」


 ドワーフ老人は鞘から刃を引き抜き、しげしげと観察する。


「盗んだ訳ではないな。こんな金に換えられない物を盗むのもオカシイしな」

「それで、買い取ってもらえます?」

「無理だ。ワシの工房と全ての武器をお前さんに譲っても、まだ足りぬ」

「じゃ、じゃぁ、もらってくれない?」

「嫌だ。こんな物をタダで手に入れた日には、悪夢にうなされかねん」


 やっぱりダメか~、とリルナはガックリと肩を落とした。


「店主殿、倭刀はそんなに貴重な物なのか?」

「お前さんがいま装備しているそれよりも、もっと優れておる。倭刀は、今では失われた技術で作られた刃だ。その昔はニホントウと呼ばれておったこれはな、折れることも曲がることもない、マジックアイテムでもないくせに、技術だけで魔法の域まで高められた武器だ。そして、決して朽ちる事もなく、無限に存在できる。古から伝わる、まさに伝説級の武器だよ」


 ほれ、と倭刀をメロディに手渡すと、ドワーフ老人は鉄の塊を彼女の前に置いた。


「斬ってごらん」

「ざ、斬鉄など妾の技術では無理じゃ」


 そう気負うな、とドワーフ老人はメロディを促す。その倭刀の重さにメロディは戸惑いながらも振り下ろした。

 抵抗もなく、鉄は真っ二つとなる。


「う、うわぁ」


 メロディは思わず倭刀を投げ出した。


「きもちわるっ」

「め、メロディ……ひどい」

「あぁ、べつにリルナのことを気持ち悪いと言った訳では」


 そんな二人を見て、がはははは、とドワーフ老人は笑う。


「多少、腕の覚えがあれば鉄を斬るのも容易い訳よ。そんなものをおいそれと手に入れたら何か呪われそうだろ?」

「あぁ、確かにのぅ。装備から外れないみたいなものじゃな」


 と、メロディとドワーフ老人は笑った。


「諦めて剣術でも習ったらどうだ? お前さん、職業はなんだ?」

「召喚士です」

「しょ? なんだって?」


 やはりカーゴ国でも召喚士という職業の記憶は残っていない様だった。リルナは召喚士の説明をする。それと同時に、みんなの記憶からも消えていることを語った。


「妙な話だな。だが、後衛職が剣を扱ってはダメというルールもないだろ。お前さんの手に渡ったのも何かの運命かもしれぬ。手放せないのなら、使いこなせ」


 そうではないと倭刀も泣いとるかもしれない、とドワーフ老人は苦笑した。


「前向きに考えます……」

「うむ、これからは妾と一緒にお母様に訓練をしてもらおう」

「えぇ!?」


 前途が多難すぎて、リルナは思わず天を見上げようと思ったのだが、低い天井がそこにあったので、がっくしと下を向いたのだった。


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