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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  10

 案内された城内は、豪華絢爛というよりも質実剛健というイメージが強く、やはり城というよりも砦に近いイメージを抱かせた。

 ドワーフの王が治める国らしく、城内の種族はドワーフが多め。それでも人間や有翼種や獣耳種、それに加えてエルフやコボルトの姿もあった。尤も、コボルトは料理専門なのか、やたらとお菓子を運んでいる姿しか見なかったが。


「やっぱり実家と違うのぅ」


 遥かに高い天井を見上げながらメロディは呟く。サー・サヤマ城は領地の証であり、国王の城ではないのだから当たり前の話だ。しかしそれでも、その差は大きく、メロディがキョロキョロと周囲を見渡すのも無理はない。


「こちらです、どうぞ」


 と、案内の女性ドワーフが手で示したのは、大きな両開きの扉だった。丁寧に掘り込まれた彫刻は見事なもので、この部屋がいかに重要なのかが一目で理解できる。


「ええか?」


 サクラは一同を見てから、扉に少しばかり力を込める。ゆっくりと開いた扉の向こうには、赤く一直線に続く絨毯。そのフカフカな絨毯の先には、少し小さめの玉座があり、そこには少し困った様な表情を浮かべるドワーフがちょこんと座っていた。

 あれ、とリルナは思うが口に出さない様にした。なにせ、王様の前だ。王様っぽくないなぁ、なんて口が裂けても言える訳がない。


「ようこそ」

「うわっ」


 そんな王様を見ていたせいか、扉の横に立つドワーフ兵士の声にリルナは驚いてしまった。そんなリルナにドワーフ兵士は笑みを漏らす……というよりも笑いを堪えるかの様に俯いてしまった。


「どーした、近くに」


 わちゃわちゃと慌てるリルナ達に対して、王様が言う。その声にリルナは慌てて『気をつけ』をしてから、歩き出した。


「サヤマ女王からのお使いで来たで。こっちがリリアーナ・レモンフィールド。ウチらの街の一番のべっぴんさんや」


 サクラは物怖じする事なく王様へ言う。その横柄な態度というか、いつも通りの態度にリルナはあわあわとするが、王様は気にしていないらしい。


「よろしくおねがいします~」


 リリアーナの言葉に、王様は感嘆の声を漏らした。さすがはドワーフの好色王か、とリルナは思ったのだが……やはり違和感を感じた。

 ドワーフの年齢は、人間にしてみればいまいち分からない。寿命は人間とさほど変わらないのだが、その肉体は若い期間が非常に長いと言われている。またドワーフは身長が低く、背の高い者でもせいぜいがリルナやサクラより大きいぐらいだ。

 目の前の王様、ドワーフ王は初老というイメージだろうか。口髭は白が混ざり、その表情には自信が無い。とても王様という存在には見えなかった。ましてや好色王の異名を持つはずなのに、未だに触手を動かしていない。


「ん~?」


 なんて呟きを漏らした頃に、後ろからくつくつと笑い声が聞こえた。驚いてみると、先程のドワーフ兵士がお腹を抱えて笑いを堪えていた。


「王様、もうここまででいいでしょうか」


 そんな兵士を見て、玉座に座る王様がそんな事を言う。


「え?」

「どういうことじゃ?」


 一同疑問の声をあげると、兵士は笑いながらもこちらに歩いてきた。


「いやぁ、悪い悪い。少しばかりイタズラをさせてもらった。そっちの偉そうにない王は俺の偽者でな。普段は王室の掃除をしてくれる素晴らしい人なのだ。今日はその経緯を払って、王様のフリをしてもらったのだ」


 ドワーフ兵士は兵装を外しながら言う。兵装の下からは少しばかり豪奢な服が見えた。さすがに種族がドワーフなだけあって身長は然程高くないのだが、気品あふれる顔は兵士のそれではなく王族の物だ。

 ドワーフの証であるかの様な髭は無く、また筋肉で覆われた様な肉体でもない。それでも丹精な顔立ちをしており、世のドワーフの女性ならば放っておかないのかもしれない。

 人間を基準に言ってしまえば、彼は間違いなく美少年と呼ばれる顔をしていた。


「なんじゃ、お主が本物か」

「これは失礼を。メローディア姫」


 ドワーフ兵士改め、ドワーフ王ガーラント・ボルドーグはメロディの前で片膝を付き、彼女の手の甲にキスをした。尤も、ヴァルキュリア・アーマーはばっちり手の甲まであり、被害は防ぐことが出来た。


「戯れは心臓に悪いぞ。見ろ、我が友人であるリルナがこの有様だ」


 と、笑う様にリルナを紹介する。


「ほう、メローディア姫の友人ともなると、我が友人も同じ。どうだ、お主も俺と一晩を過ごすか?」


 リルナは思わず首をブンブンと横に振る。しかし、ハっと気づいて、肯定しかけるが、思い直ってやはり断った。


「はははは! 面白いな、リルナ。では、そちらのザンバラ髪の娘はどうだ?」

「私?」


 王様はサッチュを指名した。


「いくらだす?」

「ふ~む、いくらなら応じる?」

「初めてだから10万ギルで」

「安いな。と言いたいところだが、俺の懐にも限界がある。50ギルぐらいにまけてくれんか?」

「やだ。見学だけにしとく」

「手厳しい。今宵は諦めるとしよう。では、そちらのキモノ娘はどうだ?」

「ウチか? ウチは元々男やで」


 それは本当か? と驚くドワーフ王に、サクラは簡単に身の上話をした。


「ふ~む、魔女の呪いか。聞きしに勝る恐ろしさだな。サクラ、お主と致すとその呪いが降りかかる事は無いのか?」

「無いと思うけど経験が無いからなぁ。わからへんわ」

「ならどうだ。女の喜びを覚えてみるというのも、せっかくだと思わんか?」


 さすが好色王、相手が元男だろうと関係ないらしい。


「遠慮するわ。ウチも見学だけにしとく」

「そうか、残念だ。では、リリアーナ」

「はい~」

「うむ、美しい。絶世の美女、いやいや傾国の美女とは正にあなたに相応しい言葉だ。どうだ、俺の嫁にならんか?」

「ん~、せっかくのお誘いですけどぉ、みんなが私を好きだと言ってくれるので」

「ふ~む、あくまでその身は、客の物、という訳か。残念だ。しかし、俺もそのうちの一人だ。存分に愛させてもらうぞ」

「ぜひぜひ~」


 と、ドワーフ王はリリアーナの手を取る。身長はリリアーナの方が高いのだが、なかなかどうして、ドワーフ王とはお似合いに見えた。

 これが王の気品だろうか、とリルナは感心するのだが、その行き先は寝室であり、いまから色々やっちゃうよな状態だと何とも微妙な感じになる。


「さて、サッチュとサクラは見学だったか。メローディア姫とリルナはどうする?」

「では妾も――」


 と、嬉しそうに手をあげたメロディの口をリルナは塞いだ。


「あたし、行きたいところがあるので! メロディも、ね!」

「え~……まぁ、仕方ないのぅ。ガーラント王、妾の相手もそのうち頼む、もがもが」


 なにやら国交的に恐ろしい事になりそうなので、リルナは再び彼女の口を塞いだ。そして、そのままズルズルと引きずる様に退室するのだった。


「はぁ~……緊張した~」

「まったく、リルナも良い機会ではないのか? 冒険者の技術として、色仕掛けは必要じゃと妾は思うのだが」

「どんな状況よ、それ」

「ほら、盗賊につかまった時とか、脱出に必要じゃろ」


 リルナは想像するが……盗賊にお姫様がつかまった時点でお終いじゃないだろうか、なんて考えが浮かんだが、まぁ気にしない事にした。


「ところで、リルナ。行きたい所とはどこじゃ?」

「実は」


 少しばかりリルナは自分の手をみつめる。どこか自信なさそうな雰囲気だが、それでもメロディの瞳を見つめながら言った。


「炎の大精霊に会いに行きたい」


 その言葉に、意思は強く。

 また、その言葉に理由は大きい。


「ほう」


 その決意を秘めたリルナに対して、メロディはニヤリと笑って応えた。


「では向かうとしようか、我が友人よ」


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