~シューキュ遠征と炎の契約~ 9
魔導機構船、サークル・オブ・ドラゴットは途中、ユブーチ島のマシネ国に立ち寄り補給を行う。
「おぉ、地面が揺れているようじゃ」
初めての船旅という事で、メロディが『丘酔い』という経験を済ませた意外は特に何事もなく補給は完了。
順調に船旅は続き、二週間が過ぎた頃。
ようやく目的地であるシューキュ島が見えてきた。正確には、シューキュ島は幾つかの島が集まっており群島となっている。リルナ達が目指していたのはその内のひとつ、ドワーフの王が治めるカーゴ国だ。
「あつい~」
「あ、あついのぅ」
甲板に出ていたリルナとメロディはパタパタと手で顔を仰ぐ。空を見れば雲はひとつも無く、カっとした熱さが頭上から降り注いでる様だった。
「がっはっは! シューキュはバルドル・スバローグ神への信仰が盛んだからな。永遠に夏の国だ」
二人がパタパタと自分を仰いでいると船長がやってきて説明してくれた。
バルドル・スバローグは火と炉の神様であり、武器や防具、道具等を作る事を生涯の喜びとする事が多いドワーフ族にとってはピッタリの神様らしい。
バルドル神の信仰が深いシューキュ群島は、その加護があつく永遠に夏が続いているそうだ。その為、気温が高く、作物も良く育つらしい。
「ほれ、見えてきたぜ」
船長が指差す。その方向を見れば、港が見えてきた。かなり大きな港らしく、幾つもの船が止まっており、大小様々な種類があった。
魔導機構の船があれば帆の船もあり、漁師の船もあれば普通のボートもある。かなりの賑わいがある様で、遠目でもたくさんの人が行き交っているのが見えた。
「すごい。人がいっぱいだ」
「奥に城も見えるぞ。我が実家より立派じゃのぅ」
相変わらずサヤマ城を実家と言うメロディに少しばかり苦笑しつつ、リルナも城を見た。城、というより灰色に近いその城は巨大で、まるで砦を思わせる様な攻撃的なシルエットをしていた。
「ほれ、ここからは俺たちの出番だ。嬢ちゃん達は中で待っててくれ。野郎ども!」
「は~い」
船長の声に船員たちは素早く停泊の準備へと入る。邪魔をしない様にリルナとメロディは船内の部屋へと入る。すっかりと怠惰の極みをむさぼっていたサクラとサッチュはもぞもぞとベッドから這い出で大きく伸びをした。
「ようやく到着ですねぇ」
リリアーナも少しばかり窮屈な部屋に閉じ込めていた羽を、空へと伸ばす様に広げた。
その後、にわかに騒がしくなった甲板の声を聞きながら待つこと少し。少しの衝撃の後、船は完全に停止した。
「着いた!」
「妾が一番乗りじゃ」
「あ、ズルい!」
飛び出すメロディを追いかけてリルナも甲板へと上がる。船員達とハイタッチしながら陸地と船を繋ぐ板まで移動した。
「さぁて、仕事を頑張ってくれよ嬢ちゃん達。帰りはの代金も受け取っているから、気にせず行ってこい」
「ありがとう、船長さん」
「感謝するぞ、船長」
がっはっはと笑う船長に手を振って、メロディとリルナはシューキュ島へと降り立った。もちろん、その足元の感触は変わらない。それでも感慨深いのかメロディは満面の笑みで周囲を見渡した。
「うむ! これぞ冒険者じゃな」
「あ、分かる、メロディ?」
「当たり前じゃ。この感覚を味わえるのは冒険者だけだという。知らない土地、知らない人々、まだ見ぬ光景。その全てが素晴らしいと、我が母は子供の様な笑顔で寝物語を語ってくれたものじゃ」
「うんうん。私のママもお父さんの事を話してくれたよ」
二人の後に追いついてきたサクラとサッチュは、若いねぇ、なんて笑っていた。それでも、旅人であるサクラは充分に知っている事柄だし、サッチュも盗賊ギルドに所属しているが、冒険者ではある。
その醍醐味は、理解できるものだった。
「旅っていうのも悪くないですね~」
一番最後に船を降り立ったリリアーナもキョロキョロと周囲を見渡しながら言った。
「お前さんがその気になれば、いつだって冒険者になれるんやけどな」
「私はあくまで娼婦ですから~」
気は変わらないらしい。ほうか、とサクラは苦笑した。
そして、一同は少しだけ視線を上げる。
視線の先には、少しばかり高い位置に作られた灰色の巨大な白がそびえ立っていた。目標地点であるカーゴ城に、ようやく辿り着いた。
その目的が、王様が美人とえっちしたい、という何ともアレな理由だけれど。
それを思い出し、リルナの足が少しばかり止まる。先頭をサクラに交代して一同は、カーゴ城へと向かうのだった。




