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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その1 ~冒険者の店『イフリートキッス』~

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~冒険者の店『イフリートキッス』~ 4

 結局のところ、頑張って来い、の一言で押し切られてしまったリルナとルルは、カウンター席の男に昼食という名の慰めを奢ってもらい、トボトボとイフリートキッスを後にした。

 一先ず、二人は街の入口である門を目指す事にする。店の前で留まったところでカーラは助けてくれる気配は無かったのだ。


「ごめんね、ルルちゃん。こんな事に巻き込んで。私のせいじゃないけど。あ、でも私が悪いのか」

「いえ~、リルナさんは悪くないですよ。お金稼ぎがしたいって言ってたのは私ですから」

「そうなの?」

「はい~。アカデミー入学には、お金が凄く沢山いるんですよ。パパもママもアカデミーの人で、私も二人に負けない様にとアカデミーを目指しています」

「ほへ~、頭いいんだね。私なんて召喚術に必要な神代文字を覚えるのに必至だったよ」

「召喚士……なんですよね」

「うん、そうだよ。変かな?」

「いえいえ、変だなんて。ただ、あまり聞いた事がなくって。調べてもいいですか?」

「調べる? いいけど?」


 意味は分からなかったが、リルナは頷いた。了承を得た、という事でルルは肩から提げていた鞄から一冊の分厚い本を取り出す。

 タイトルは『森羅万象図鑑』。少しばかり草臥れた印象の本だが、装丁も豪華であり、高そうな本だ、とリルナは思った。


「質問です。『召喚士』」


 ルルが本に向かって呟いた瞬間、図鑑が仄かに光る。パタン、と分厚い表紙が開いたかと思うと、自動的にページが開いていった。そして、すぐに止まる。


「うわ、凄い。なにこれ、マジックアイテム?」

「えへへ~。去年の誕生日にもらったんです。色んな事がすぐに調べられて便利なんですよ」


 図鑑のページは『召喚士』というタイトルで始まる文章が載っていた。ルルはそれを読み上げていく。


「召喚士。冒険者の職業の一つ。神代文字を魔方陣に描き、契約者を召喚する魔法を使役する。習得に最も困難な職業。そうなんですか?」

「そうなのよ。めちゃくちゃ苦労したんだから」

「召喚術を行使するには正確に魔方陣を描く必要がある為、身体制御呪文『マキナ』、描写呪文『ペイント』の二種を同時に行使しなくてはならず、習得が大変に困難。また召喚術を覚えても、契約者がいない限り行使する事が出来ず、最も不人気の職業となっている」

「不人気……」


 リルナはがっくりと肩を落とした。

 不人気とは言うが、現役の冒険者の中ではたった一人しかいない。すでに絶滅危惧種を越えて、絶滅確実職業だった。


「基本的には職業訓練学校での行事、『ウンディーネ巡礼』にて大精霊ウンディーネと契約する事が多い。その為、水を自由に召喚できるので重宝される場合もある。以上です」

「不人気とか酷い図鑑ね」

「あはは、そうですね~」


 笑われてしまった、とリルナは大きくため息。


「ルルちゃん、他に何かアイテム持ってたりしない?」

「いいえ、これだけです。今日はお財布も持ってきてないので……」

「そっか~。どうしよう……」

「とりあえず、外に出てみませんか? もしかしたら、ゴブリンが捨ててるかもしれませんよ」


 そう言ってルルは再び図鑑に向かって『ゴブリン』と唱える。パラパラとページが捲れていき、ゴブリンが記載されているページが開いた。ご丁寧に挿絵付きだった。


「ゴブリン。亜人間、蛮族の一種。使用言語は蛮族語。え~っと、ほらここです」

「どれどれ?」

「ゴブリンには収集癖があり、人間の銅貨や銀貨を狙う修正がある。商人に襲い掛かるのはこの為。食料とコイン以外にはさほど興味を示さず、奪われたとしても取り返せるチャンスがあるかもしれない。だって」

「じゃぁ、最悪でもオキュペイションカードは取り戻せるかも!」


 とりあえずの希望は持てたらしく、リルナは拳を握り締める。1ギルで雇った学士見習いはどうやら当たりだった様だ。


「ルルちゃんは私の後ろにいてね。あ、危なかったら逃げてね! 絶対に!」

「あ、はい~。でも逃げ切れるかな」

「その時は私が何とかするから。任せといて、これでも冒険者だから」

「はい~、期待してますね」


 とりあえずの陣形と作戦が決まったところで、二人は門にたどり着いた。城壁いっぱいまで開く門は商隊用であり、普段は隣の小さなサイズから出入りする。

 門は西以外の方角に三箇所ある。リルナがやってきたのは北の門であり、こちらは余り人通りが無いらしく、閑散としていた。活気があるのは南側であり、次いで東となる。ちなみに西にはサヤマ城があり、その先は断崖絶壁の崖。街中を抜けるしか城には到達できない地形になっていた。


「よし、行くよルルちゃん!」

「はい~、リルナさん」


 二人は大きく深呼吸してから、小さな門を押し開ける。12歳の少女の力ではそれなりに重いらしく、後半は見張りの兵士に手伝ってもらった。


「さっきの嬢ちゃんじゃないか。さっそくリベンジかい?」


 助けてくれた青年兵士が今は仕事中の様だ。お爺ちゃん兵士はお昼休みなのかもしれない。


「はいっ。ちょっとお金とか色々と取り返してきます」

「持ち場を離れる訳にはいかないから、手伝えないけど……頑張ってな。死ぬんじゃないぞ」

「はいっ」

「ありがとうございます~」


 青年兵士に手を振り、二人は平原へと立った。

 相変わらず空は高く天気が良い。リルナとルルは思わず深呼吸して、草原を流れてくる風の匂いを感じた。


「あ~、ひなたぼっこしたくなっちゃいますね」

「街の外でそんな事してたら、ゴブリンに首をはねられるわよ。知ってる? 首をはねられた死体は蘇生できないんだって」

「ゾンビになって生きるのはちょっと遠慮したいですよ~」

「いやいや生き返っても人間だってば」


 冒険者の中には、蘇生を受けて生きる者も多い。しかし、普通の人から見れば、それはリビングデッドも同然。ルルの言うとおり、ゾンビと忌み嫌う人も多かった。


「さぁ、いきましょ。夕方になったら別のモンスターが出ちゃうかも」

「それは困ります~」


 一先ず、リルナを先頭に二人は進む。お昼前にここをダッシュしていたリルナは景色を見る余裕がなかったが、今度は周囲を見渡す事が出来た。

 リルナがやってきた北側には岩山があり、恐らくゴブリンの住処もそこにあるだろう。平原は少しずつ坂道になっていて、やがて山道となっている。自然とできた道を二人は歩きながら岩山を目指した。


「この山は名前あるの?」

「ハオガ山って言いますよ。岩山なので作物が取れません。モンスターの住処となっていて、山を越えるのは注意と言われています」

「その情報、もっと早く知りたかったわ……」


 肩を落としながらも、二人はハオガ山へと差し掛かる。ここからは要注意とばかりに、二人の顔も緊張の色を見せた。

 一先ず、最初の曲がった道を警戒するように、リルナは岩壁から覗き込んだ。


「ゴブリンは……いないわね」

「あ、なんか落ちてますよ」


 リルナの横から顔を出したルルは、地面に落ちている物を見つけた。

 二人がそれに近づくと、どうやらリルナの荷物の一部であったらしい。リルナは慌てて拾い上げると、慌ててバックパックに押し込んだ。


「なんだったんです? 布?」

「ぱんつよ、ぱんつ。帰ったら綺麗に洗ってやる!」


 さすがのゴブリンも少女の下着にまで興味はもたない様だ。

 その後も、色々と細かい衣服等が落ちており、それを拾いながら山道を辿っていく。肝心のお金とカードはまだ見つからず、二人は慎重に山道を進んでいった。


「ストップ」


 リルナが静かに言うと、ルルはピタっと足を止めた。二人はそっと岩壁から覗き込むと、一匹のゴブリンが立っており、なにやら退屈そうにしていた。


「見張り、でしょうか?」

「そうかも。ほら、ゴブリンの後ろに道っぽいのがある」


 山道から外れる様に、別の道が続いていた。尤も、道というよりかはスキマに近い。ゴブリンだからこそ見つけられたのかもしれない。


「どうしましょう? 倒せます?」

「う~ん……仲間を呼ばれると厄介よね。何か音を鳴らして誘い込めないかな」


 リルナは倭刀を取り出し、振り下ろすジェスチャーをした。どうやら斬るのではなく、殴る様だ。ヘタに刃で斬るより安全かもしれない。


「じゃ、蛮族語で呼んでみましょうか?」

「ほへ? 蛮族語なんて喋れるの?」

「一応、喋れますよ~」


 ルルは場違いの様ににっこりと話す。モンスターを目の前にしても余り動揺していない様だ。なかなかのメンタルの持ち主。リルナは1ギルで雇った人材の優秀さに感動するのだった。


「じゃ、いきますよ」

「あんまり大きいと他のも呼び寄せちゃうから、慎重にね」


 ルルは、こくん、と頷いてから声を出した。


「×××~」


 なにやら聞き取れない言葉。それでもってルルが物陰から言葉を発する。チラリと岩陰からリルナが覗くと、見張りゴブリンが気付いた様で、こちらに近づいてくる。

 リルナはルルにアイコンタクトを送った。即席パーティでも通じたらしく、ルルはリルナの後ろへと下がる。

 リルナは耳を澄ましならが倭刀を思いっきり振りかぶる。鞘が付いたままなので、鈍器を振るイメージだろう。

 ベタンベタンと近づいてくる足音。いやがおうにも緊張感が高まってくる。それと同時にゴブリンの言葉も聞こえる。リルナには何と言っているのかサッパリと分からなかったが、位置の特定には役立つ。

 岩壁からジックリと待つ。

 そして、ゴブリンの赤い肌が見えた瞬間――


「おりゃぁ!」


 勢いよくリルナは鞘を振り下ろした。ガヂン、といった感触だろうか。鞘は見事にゴブリンの頭にクリーンヒットした!


「ぎゃぎゃ!」


 それでも一撃で倒すとはいかなかったらしい。叫び始めたゴブリンにもう一度鞘を振り下ろして、大人しくさせた。


「おぉ~、凄いですリルナさん。ゴブリンをやっつけましたね」

「えへへ~。やったね」


 二人はハイタッチで勝利を祝った。

 どうやらリルナの力でも、二発叩き込めば倒せる事は分かった。尤も、不意打ちで相手が一人に限っての話だが。

 とりあえず、ゴブリンの持っていた石斧を奪う。倭刀を振り回すより、よっぽど使い易そうだ。ついでにゴブリンの着ている服を剥ぎ取って持ち物を確認。ポケットからは数枚の銅貨が出てきた。


「へそくりね。私達が使ってあげるわ」


 たったの10ガメルだったが、初めての報酬という事もあり、ルルと山分け。倒れたゴブリンを見つからない様に山道の脇へとやると、まぬけゴブリンが見張っていた小径へと二人は進むのだった。


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