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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  7

 サークル・オブ・ドラゴット。

 群島列島タイワにおける船の名前には、大抵『サークル』の名前が付けられる。昔からの慣例となっているので、すでに意味は消失してしまったらしい。

 リルナ達の乗り込んだその船は、最新式の魔導機構を備えた船であり、風を帆で受ける事なく海を進めるという。

 豪快な海の男達に扱えるのか心配な程に複雑な機構を動力部に見せていた。もちろん、専門の魔法使いが常駐しており、心配は無いのだが。


「おー、すごいすごい」

「本当じゃのぅ」


 海に出てから2日目。風ひとつ無いという事で動き出した船の動力部であるスクリューを甲板から覗き込むリルナとメロディ。

 シューキュ島まではおよそ2週間。途中、補給の為にユブーチ島のネシマ国に1日停泊する事になっている。しばらくはゆらゆらと揺れる船の上、という訳だ。

 リルナとメロディは好奇心旺盛と言わんばかりに船を楽しんでいた。機構部の見学や、船乗りの男達に混じって帆の折りたたみ等を手伝う。力仕事なので、ほとんど役には立たなかったが。

 サクラとサッチュはあてがわれた部屋で惰眠を貪っていた。


「寝てるだけでお金儲けが出来るなんて、最高の仕事やな」

「うんうん」


 見事なダメっぷりで、食事以外は部屋から出てこない。

 肝心の護衛対象であるリリアーナは――


「あなたは神、いや女神だ。どうぞ私に祝福を!」

「俺、いや私にも、どうか祝福を!」

「いやいや、俺に!」

「俺こそ!」


 と、非番である海の男達に囲まれていた。


「えぇ~、どうしましょう」


 もちろん、リリアーナの招待は隠してある。彼女が娼婦である事は秘密なのだが、その美しさまで隠せる訳ではない。フードを目深に被ったところでミステリアス度が上がるばかり。背中の翼も相まって、神秘的にさえ見せるのだった。

 加えて、現在は神官の服を着ている。こぞって男達が祝福を、というのは文字通り神のご加護を受ける神官魔法の事だ。

 尤も、それはただの方便で、みんなリリアーナにお近づきになりたいだけ。


「この調子じゃと、護衛はあの者に任せた方が良いのぅ」


 とはメロディの言葉。

 本来、お姫様な彼女がリリアーナのポジションに納まっても良いはずだが、十歳という年齢とサヤマ女王の影が邪魔したりしていなかったり。


「あはは……」


 リルナとしては苦笑するしかなかった。

 それぞれがノンキに船旅を楽しむ中、4日目の昼過ぎ。

 カンカンカンと甲高い音が船に響いた。見張り台の男が警鐘を叩く音だ。


「な、なになに?」


 午後のまどろみを楽しんでいたリルナは飛び起きて、部屋を飛び出した。そんなリルナを追い越す様に船員達が甲板へと出て行く。


「リルナ!」

「メロディ。何があったの?」

「まだ分からん」


 メロディと合流し、二人も甲板へと出た。

 そこには、船員達に取り囲まれる様にして一人の女性がいた。だが、その体は半透明であり、向こう側が透けて見える。


「ありゃヒューリーだ」


 リルナの横に船長が口髭を触りながら現れた。


「ヒューリー?」

「死んだ女性が怨念たっぷりにモンスターになった姿だ。恐らく、ここら辺で沈んだ船に乗っていたんだろう。いやぁ、運が良い」

「どうして運が良いのじゃ?」


 船長の奇妙な言葉にメロディは質問した。


「船乗りが会いたくないモンスターの中で下位の下位だからな。がっはっは、あれくらいならお嬢ちゃんとお姫様に任せるとしよう。ほれ」

「うわぁ!?」


 バシバシと背中を叩かれ、二人はヒューリーの前まで飛び出してしまう。


「きしゃー!」

「ひぃ!?」


 そんな二人を威嚇するヒューリーは口を開けて威嚇する。その半透明で青白い顔は恐ろしく捻じ曲がり、ゴーストらしい恐ろしさを見せた。


「うむ、ここは冒険者らしくモンスター退治を任されるとしよう」


 メロディは後ろに隠れたリルナを庇いながらロングソードを引き抜く。その姿に、海の男達は盛り上がった。どうやらそれほど緊急事態ではなく、ちょっとした見世物にされてしまう様だ。


「や、やりにくいのぅ。ところで、こいつは斬れるのか?」

「ちゃんと触れるぞ」


 船長の言葉にメロディは長剣を構える。そして先手必勝とばかりに斬りかかった。


「やぁ!」


 上段から振り下ろしたロングソードは果たして受け止められる。幽霊ながら物理的という奇妙な感覚に、メロディは目を白黒とさせた。


「や、やりにくい。色々な意味で」


 囃し立てる周囲に苦言を漏らしながらメロディはヒューリーの攻撃を受ける。その鋭く伸びた爪は、当たると素直に痛そうだ。更に、ヒューリーは半透明の炎を顕現させた。まるで魔法使いの炎の様にそれをメロディへと射出する。


「うわっと」


 メロディは避けたが、観客の男に当たり燃え上がった。男達はゲラゲラと笑いながらもそいつの炎を消してやる。


「え、え~っと」


 その炎を見たリルナは身体制御呪文マキナと空中に文字を描くペイントの魔法を発動させる。そして二重円を描き神代文字を刻んでいった。


「おぉ~!」 


 という船乗り達の歓声のもと完成した魔法陣の中心の文字に触れる。その召喚陣で召喚されたのは大精霊ウンディーネだった。


「ウンディーネ、メロディを助けられる?」


 召喚陣からフワリと飛んでリルナの頭に乗るウンディーネは、目の前で戦うメロディとその相手を見た。


「あらあら、ヒューリーが相手なのね。私に任せておいて」


 ウンディーネは素早くメロディの傍まで寄ると、その力をメロディに付与する。


「五行相克の内のひとつ。水剋火、水は火を消すわ」

「おぉ。なんじゃこれ」


 メロディのロングソードが少しだけ青く光る。その軌跡には青い光が続き、まるでマジックアイテムになったかの様だ。


「ロングソードに水属性を付与したわ。がんばってメロディちゃん」

「うむ!」


 青い軌跡を残すロングソードをグルングルンと曲芸染みて回すお姫様に一気に周囲が盛り上がる。


「きしゃー!」


 そんなメロディに嫉妬したのか、ヒューリーが再び火球を顕現させ、飛ばしてきた。


「ほい!」


 それをロングソードで全て打ち払うと、そのままヒューリーへと肉薄すると、擦れ違い様に水平に薙ぎ払う。


「ぁぁぁぁぁぁ……」


 小さな断末魔を残し、ヒューリーは消滅した。

 メロディは露払いを行いロングソードを納刀する。そこで青い軌跡は消えた。ウンディーネの加護が終わった様だ。


「助かったぞ、ウンディーネ。ありがとう、リルナ」

「いえいえ、どうしたしまして」


 と、ウンディーネは送還される。そんな様子に、リルナは思うところがあるのか、少しだけ表情を曇らせた。


「どうしたのじゃ?」


 周囲がやいのやいのと盛り上がる中、浮かない顔をしているリルナにメロディが声をかける。


「さっきの力。水属性を与えられるって……」

「うむ、凄いではないか」

「こんなの学校では教わらなかった。召喚士は、召喚する存在が全てみたいな感じだった」

「……それも、世界から召喚士の記憶が抜けておる事に関係するのかのぅ」


 メロディは呟くが、その体が不意に持ち上がる。海の男達がメロディを担ぎ上げたのだ。


「ちょ、おまえら妾の体に気安く触れ、きゃー!?」


 わっしょいわっしょいと胴上げされるメロディにリルナは苦笑した。


「大丈夫ですか~」


 後ろから聞こえてきた声に、リルナは振り返った。そこに居たのはリリアーナで、どうやら見学をしていたらしい。


「私達は大丈夫。でも、さっきまともに火に当たった人が……」


 リルナが周囲を見渡すと、船の隅で座り込む一人の男。どうやら少々の火傷をおって、テンションがガタ落ちしたらしく、深いため息を吐いていた。


「まぁまぁ、大変~」


 リリアーナは彼に近づくと、しゃがみ込み彼の火傷に手をかざした。


「あ、リリアーナさん?」

「そのままジッと」


 リリアーナの手が不意に少しばかり光を放つ。


「ディアーナ・フリデッュ神様、どうか力を……」


 その光は癒しの力となって、彼の火傷をみるみる治していった。数秒も経たない内にすっかりと火傷の後が消えてしまう。


「うお、もう治った! さすが神官様だ」


 ひゃっほーと男はリリアーナにお礼を言って、メロディ神輿に加わりに行った。


「え、ちょ、リリアーナ、そ、それって?」


 そんな彼とは違って、リルナは驚きの声をあげる。


「はい?」

「し、神官魔法使えるの?」

「えぇ」


 なんでもない様に応えるリリアーナに、リルナは叫び声にも似た声をあげるのだった。



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