~シューキュ遠征と炎の契約~ 3
お城を顔パス。
なんていうと、何か物凄い特権の様に思えたが、その先に待っているのがサヤマ女王かと思うと、ちょっぴりゲンナリしてしまうリルナだった。
「いやぁ、久しぶりの実家じゃのぅ」
メロディは冗談ぽく言うが、そもそも城が実家だとか言う前に三日ぶりぐらいなので、どこが久しぶりなんだ、とも思った。
しかし、ここはメロディの実家。言わばアウェイ。下手にツッコミを入れようものなら、どこからともなく兵士が飛び出してきそうなので、リルナはグっと堪えるのだった。
リルナ、サクラ、メロディ、サッチュの四人が通されたのは謁見の間、と呼ばれる場所だ。荘厳な雰囲気と白い石壁に囲われて、どこか神聖な雰囲気すら感じる。
中央には王へと続く道を示す様に、赤い絨毯がひかれている。一見、上等とも思える絨毯だったが、どうやらあまり使われていないらしい。その証明の様に、赤い毛先はまだまだ上を向いてピンピンしていた。
高い天井と大きな窓からは光が差し込む。幾つかの装飾品が、その中央にある玉座の人物を称えるかの様に煌いていた。
「ようこそ、我が城へ」
珍しくもサヤマ女王が玉座に座っていた。そして、大げさな手振りでリルナ達を歓迎する。
「何の冗談じゃ、母上」
「うるさいな。ちょっとは王様ごっこを楽しませてくれよ、我が娘」
しっし、と女王は手を振る。
よくよく見れば玉座には埃が付いており、どうやら滅多に使われていない事は明白だった。
「サッチュ。リルナ達を良く連れてきてくれた。感謝する」
「報酬は?」
「ほれ」
サヤマ女王は親指を弾く。放物線を描きながら回転するコインをサッチュはキャッチした。
「……1ガメル」
元冒険者のくせに、相変わらず報酬が渋い女王だった。
もっとよこせ、というサッチュの暴言は無視して、女王はリルナの顔を見た。
「リルナもメロディの友達料がいる?」
「いらないわよっ。もうメロディとは普通の友達なんだから」
「はっはっは! 良かったなメロディ」
女王は親指を立てる。それに返すかの様にメロディも親指を立てた。なんだこの親子、という暴言をリルナは飲み込んだが、サクラとサッチュが遠慮なく言うのだった。
「それで、何の用ですか?」
「うむ。実は重要な依頼がある。下手をすれば国同士の関係が危うくなる位の超重要任務だ」
「え……な、なな、なんでそんな任務を私達が?」
まぁ最後まで聞け、とサヤマ女王は苦笑する。
「でも……!」
本来、国からの依頼はどんな内容であろうと高レベルのパーティが請け負うものだ。それには、いわゆる『名声』が絡んでくる。名声……すなわち、有名度だ。
どんな依頼であろうと、国の依頼をこなしたと成れば自動的に名声は上がる。もちろん、失敗すれば大幅に下がる。失敗した時のリスクを考えれば、ルーキー達に任せるはずがない。
加えて、不当に名声が上がるのも防がなければならない。
いわゆる『名前の一人歩き』だ。
実力が伴わないまま有名になってしまった場合、そのパーティは崩壊する。それはジンクスでも何でもなく、昔から言われている冒険者の常識だ。
高レベルで実力があり、初めて名声を手に入れる。
それが理想の形、という訳ではなく、それが当たり前の形という訳だ。
「お前達は、すでに充分なくらい不当に名声が上がっているのさ」
「う、うそ」
リルナの言葉に苦笑したのは、サヤマ女王とサクラだった。
「なぁ、リルナ。よう考えてみ。お前さんの職業は何や?」
「え? えっと……召喚士だけど?」
「他に召喚士はどこにおる?」
「いない……」
「そうやろ。じゃぁ、今度は仲間だ。新しく仲間になった前衛殿は誰や?」
「メロディ」
「妾じゃな」
えっへん、と無駄に小さな胸を張るお姫様は置いておいて、話は進む。
「メロディの職業は剣士やけど、もひとつ凄い職業みたいなんがあるやろ」
「お、お姫様……」
「正解や。あとは分かるな。ウチもそうやけど、リルナも持っとる腰のニホントウ。今は倭刀と言うんやったな。パーティに二人も倭刀を持っとるヤツがおる。1アウトどころか3アウトのチェンジやよ」
どうしてアウトが3つになるとチェンジになるのかリルナにはサッパリ分からなかったが、言いたい事は良く分かった。
「もうわたし達って有名なのね……」
「今頃気づいたのリルナっち。女王と顔見知りの時点で、気づくべきなのに」
サッチュのトドメで、リルナはがっくりと肩を落とした。
「まぁ、そう落ち込むな。お前さん達は良いパーティだよ。凸凹でな」
「慰めになってないっ!」
サヤマ女王に思わずツッコミを入れてしまい、慌てて口を抑えるが、兵士が飛んでくる様子は無かった。
「城の中でもかしこまらずに自由でいい。私も冒険者だったし、そんな関係の方が楽じゃないか。普通に話せばいいさ」
女王はにこやかに笑うと玉座にあぐらをかいた。
「さて、依頼の内容だ。超重要任務だから、聞き漏らすなよ」
「は、はい」
リルナは少しばかり深呼吸して、女王の言葉に耳を傾けた。
「とある人物をシューキュの群島国『カーゴ』まで護衛して欲しい。これはカーゴ国王ガーラント・ボルドーグからの依頼だ」
「か、カーゴ国王!?」
リルナは思わず声をあげる。
今、目の前にしているサヤマ女王は、いわゆる国の女王ではない。ヒューゴ国のタキグン地方を治める領主だ。城を与えられ『サー』の称号があるので女王と呼ばれているに過ぎない。
だが、この依頼主は本物の国王だ。
群島国カーゴを治める、本物の国王である。さっきの様に暴言を吐いた時点で牢屋にブチ込まれてもおかしくはない相手だ。
「ムリです!」
「ダメだ」
「なんで!?」
「まぁ、簡単に言うとお前達が女性だけのパーティだからだ」
「そ、それならイフリート・キッスに他にも女性だけのパーティがいますよ」
「それでもいいんだが、ちょっと条件が弱い。もう一つの条件を加えると、私の娘がパーティに居るからだ」
「妾?」
「うん。これは安全策でもあるな。こんな私だが、国民は守らなければならない。というか、何かあると大変だからな。この依頼は、リルナ、あんた達のパーティが一番適任なのさ」
「サッパリ分かりません!」
「あっはっは! 気にするな、向こうへ行けば分かる。あぁ、そうそう。カーゴ国王も言葉遣いとか全然気にしない人だから、遠慮なく罵ってやるといい」
「王様を罵るとかムリっ!」
「私には言えるのに?」
「うぅ」
「リルナはメンタルが弱いなぁ。ほれ、サクラ。代わりに今回のリーダーでも務めろ。今回はあんたが適任だ。これが今回の依頼内容と詳細とか色々。まぁ面倒だが目を通しておいて」
「そうなんか。まぁ、ええやろ。謹んで頂戴するで」
サクラは女王から封筒を受け取る。
「よし、後は頼んだぞ、お前ら。失敗したら、色んな人に怒られるから、まぁ頑張れ」
「えぇ!?」
というリルナ以外は、全員がハイと答えた。
そんな様子に玉座の上でサヤマ女王はゲラゲラと笑うのだった。




