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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その6 ~シューキュ遠征と炎の契約~

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~シューキュ遠征と炎の契約~  2

 サッチュ・リボンフィールド。

 少しばかり紫がかった短い髪は少しばかりザンバラだ。女の子としてどうかとは思うが、少し荒れている方が似合っているという稀有な状態だ。そんな彼女の頭にはひょっこりと耳が生えている。それは丸みがかったタヌキの耳。紫の髪を掻き分ける様に黒く丸い耳が頭に生えていた。

 彼女は獣耳種と呼ばれる種族だった。主にウサギやネコ等の動物の耳をと尻尾を持っている種族で、昔は蛮族の一種ではあった。今では人間と共に生活をする様になったが、差別的な意見はまだまだ残っている。また獣の耳を持ってはいるが聴力は人間と然程変わらない。

 被差別者だからなのか、はたまた生まれ付きか。サッチュの眼は、どうみても世間を斜めに見ていると言わんばかりの三白眼。ともすれば、眠たそうとも思えるが、どうもみても馬鹿にされている様な印象を受ける。世渡りを苦労しそうな感じの表情をしていた。

 ただし、そんな表情と性格が一致しているので問題は無い様だ。

 彼女は世間を斜めに見ているし、大抵の存在を馬鹿にしている。それはパーティメンバーであろうとなかろうと、関係はない。

 かつて共にパーティを組んだリルナには充分に理解できている事だった。

 サッチュの職業は盗賊だ。

 盗賊、というと悪人とも思える職業だが、いわゆる山賊等の類とは違う。盗賊とは神官と同じくパーティに欠かせない部分を担う事が多い。

 その役目は、情報収集や罠の確認解除、鍵の開閉がある。高レベルの盗賊ともなれば戦闘での状況把握とオアーティメンバーへの指示といった役目までこなす、まさにサポーターの要といえる職業だ。

 冒険者の収入は依頼をこなす事だが、その他にも遺跡を探り宝物を見つけだし、それを売る事で生計を立てている者も居る。冒険者の名前の通り、冒険をしているのだ。

 遺跡では重要な物がある時こそ古代の罠が設置されている事が大抵で、それを解除するのが盗賊の役目という訳だ。下手をすればパーティが一瞬で全滅する罠がある事さえある。その為、盗賊はパーティに一人は欲しい職業と言われているのだ。

 ちなみに、サヤマ城下街に冒険者が多い理由は、サヤマ女王が冒険者だったという事もあるが、サヤマ城周辺は未知の遺跡が多く発見されるからだったりする。


「あむあむ、あむあむ」


 そんなサッチュは一階の食堂にて、リルナ、サクラ、メロディと共に朝ごはんのベーコンエッグを無表情で食べていた。


「まぁ、リルナの元パーティっちゅうのは分かった。で、何の用できたん?」


 焼きたてコッペパンを食べながらサクラ。聞いたのはサッチュにではなくリルナの方だ。


「わたしに聞かれても分かんない。サッチュが朝、布団に潜り込んできたんだから」


 リルナは卵サンドを食べながらサッチュを見る。相変わらず、あむあむと食べ続けていて、答える気は無さそうだ。


「変な人じゃのぅ」


 メロディの朝ごはんもサンドイッチだ。ただし、挟んであるのはレタスとチーズとハム。リルナの物より100ガメルほど高い。


「お姫様も変人だよね」


 悪口には反応するのか、ベーコンエッグを飲み込むとメロディに向かって、ニヤリと笑いながらサッチュは言った。


「うわ、しゃべった!? というか、酷い事を言うのぅ……」

「先に酷い事を言ったのはお姫様」

「むぅ、確かに。すまんかった、謝る」

「よろしい」

「……むぅ~、リルナ~」


 何だから悔しくなったお姫様はリルナに助けを求めた。


「こらサッチュ。これでもお姫様なんだからね」


 何気にリルナも酷い事を言っているのだが、本人とメロディが気づいていないので、スルーされた。


「いやいや、私の方が年上だし」

「サッチュって何歳なの?」

「13歳。リルナっちよりも年上。ひざまずきなさい」


 サッチュの命令に、嫌だ、とリルナとメロディは拒否した。

「そっちのサムライは何歳?」

「212歳や。ひざまずきや、サっちん」

「はは~」


 サッチュはテーブルに平伏した。もちろん、すぐに顔をあげてベーコンエッグの半分を食べ始める。


「リルナ。良くパーティ組んでたのぉ……」

「わたしもそう思う」


 二人が少しばかりため息を吐いたところで、カーラがやってきた。


「いつの間にかパーティメンバーが増えてるじゃないか。その娘は盗賊かい?」

「そう。これがカード」


 サッチュはオキュペイションカードをカーラに見せた。


「盗賊でレベル3か。で、所属は盗賊ギルドね。仕事かい?」

「うん」

「盗賊ギルド?」


 メロディが疑問の声をあげた。その質問に、カーラが端的に答える。


「冒険者じゃなくて、盗賊だけが寄り合って作られた組織さ。いわゆる情報を扱ったり、街の治安を安定させる為、裏から暗躍したりと、まぁ使い方を誤らなければ優良な連中さ」

「ほう、そうなのか。この街にもあるのかの?」


 サッチュは首を横に振る。


「この街には溶け込めない。冒険者が多いし」


 ふ~ん、と分かった様な分からない様な曖昧な返事をメロディと共にリルナも行う。盗賊ギルドの存在は知っていたが、具体的な事は知らなかった。


「あれ、カーラさんはどうしてサッチュが盗賊ギルド所属って分かったの?」

「バッチさ。ほれ」


 サッチュの服には星の形をしたピンバッチが付けられていた。冒険者の宿と同じ様に、盗賊ギルドが表立った仕事をする際に所属を明らかにする為に付けるピンバッチだった。

 もちろん普段はしていない。表に出る時だけ、である。


「それで。どんな仕事で来たんだい?」


 カーラの言葉に、サッチュは残りのベーコンエッグを全て飲み込み、バッグから一枚の紙を取り出した。

 それをペラリとめくり、淡々と説明する。


「リルナ・ファーレンス及びそのパーティメンバーへ。すぐにサヤマ城に来る事。来なかったらぶっ飛ばす。サヤマ女王より。だってさ」


 サヤマ城辺りで何かを察したリルナの首根っこをカーラはむんずと捕まえて逃走を阻止した。


「嫌だー! もう何で私ばっかり!?」

「母上に気に入られたのぅ、リルナ」

「女王からの直接の依頼や。報酬は期待できそうやな」


 パーティリーダー以外は余裕の表情で食事を続ける。

 何とも凸凹なパーティに、サッチュは無表情で、はっははははは、と笑うのだった。


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