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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 11

 ヒカミ村に戻った頃には、すでに夜明け近くだった。

 ひとまず狼たちと共にいたリーンに会いに行くと、つまらなそうな表情で迎えられた。


「なんだ、怪我ひとつなかったの?」

「酷いセリフね、シロちゃん」

「ん? なんか元気ないね、リルナ」

「なんでもない」


 何か言いたそうなホワイトドラゴンだったが、その前にリルナが魔法陣を解除する。すっかりとその姿は消えてしまった。


「なんじゃ、また上に乗りたかったのぅ」

「ごめんね」


 狼たちは、リーンの姿がなくなると、それぞれ森の奥へと帰っていった。言葉が通じなくとも、その様子で理解できたのだろう。動物、とはいえ知力はそこそこ高いようだ。

 最後に残ったリーダーがジッとリルナの瞳を見つめた。


「な、なに?」


 もちろん、言葉は通じない。狼も人間の言葉を発する事はなく、ただ自分の体をリルナの足へと擦るようにして、周囲をまわる。


「な、なな、なに? なに?」

「マーキングでもされてるようじゃの」

「気に入られたんやないの?」


 真相はわからない。

 だが、嫌われた訳ではないので、リルナは素直にその場に立ち尽くした。

 リルナの周囲を回り終えると、リーダーは一度だけこちらへ振り返り、そのまま森の奥へと帰っていった。


「一件落着やな」

「うむ」


 狼を見送った一同はヒカミ村の村長宅を訪れる。

 そのまま朝食を頂く事になり、食べながらの報告となった。


「バグベアーですか。村人が遭遇したら大変でした。それに村を襲われる心配もあった訳ですな。いやいや、ありがとうございます」


 報酬を上乗せすると村長は言ったが、リルナ達は丁寧に断る。依頼はあくまで狼退治。その原因を取り除いたに過ぎないので、上乗せはいらないという訳だ。


「何日もお世話になったしのぅ。これから村長夫人の料理が食べられないのが残念でならぬ」

「あらあら、メロディちゃんは嬉しい事いってくれるねぇ」


 まるで祖母と孫の様な関係に微笑ましくサクラは笑う。リルナもそれを見て笑うのだが、少しだけ表情が優れなかった。


「リルナさんは、どうかしましたか?」

「あ、いえ、なんでもないです」

「そうですか」


 えぇ、とリルナは頷き、朝食を食べ進めた。

 それから少しだけ仮眠をとった一同は、ヒカミ村を後にする。幾日かお世話になった事もあって、村人が見送ってくれた。


「またくるかのらの~!」


 メロディがブンブンと手を振って、お別れとなる。

 帰りはバイカラへは立ち寄らず、そのままハオガ山を越える事となった。警戒しながら行くも、今度はモンスターに出会う事なく山越えをし、無事にサヤマ城下街へと戻ってくる事が出来た。


「もう、クタクタじゃ」

「さすがのウチも連日の夜警には疲れた」

「わたしも~」


 門を潜った時には、そろそろ太陽が海へ沈む頃。一日の仕事を終えた男達が家路を辿る頃合だった。

 ようやく帰って来たと、大きくため息を吐いた一同は、冒険者の店『イフリートキッス』をトボトボと目指す。

 商業区でもある冒険者の店は、宵闇が迫ると同時に酒場は活気が溢れてくる事になる。イフリートキッスはその中でも特に顕著であるらしく、外まで喧騒が聞こえてきた。


「今は泥の様に眠りたい」

「賛成じゃ」

「そういえば、メロディはどうするの? お城に帰る?」

「城だとメイドがうるさい気がするからのぅ。今夜はリルナの部屋に泊めてもらえぬか?」

「わたしは良いけど。カーラさんの許可が出るかな?」


 とりあえず、と両開きの入り口を開ける。途端に漂いアルコールの香り。それに加えて冒険者達の話がワっと溢れてきた。


「お、冒険者のお帰りだ!」

「凱旋か! そりゃめでてー!」

「飲め! いいから飲め!」

「うっひょー、かわいい子じゃねーか!」


 そんな言葉を掻い潜りながらカウンターへと到達する。座る気力もないので、そのままカーラさんへ向けて手をあげた。


「ただいま戻りました」

「良かったよ、無事に帰ってきて。どうだった?」

「ちゃんと依頼を完遂できました。詳しい報告は……明日でいいですか?」

「リルナも姫様もクタクタみたいだね。サクラは?」

「ウチももう寝たい」

「旅人が情けないね~」


 その言葉に、サクラは肩を竦めた。勝手気ままに移動していた(訳アリながらも)旅とは違って、依頼をこなすのとでは、色々と違いはあるのだろう。特にリルナとメロディという存在があるからこそ、かもしれない。


「ほな」


 サクラはそのまま二階の自分の部屋へと戻っていった。


「カーラさん、今日はメロディも泊まっていいですか?」

「ん? もちろん構わないさ。ただ、いくらお姫様といえどお金は頂くよ。決まりだからね」

「いくらじゃ?」

「500ガメル」

「う、うむ。お皿洗い50日分か……」


 お姫様の葛藤も分からなくはない、とリルナは苦笑する。カーラさんは頭の上にはてなマークを浮かべるしかなかった。

 結局は、報酬からという事でメロディはリルナの部屋に泊まる事となった。部屋についた途端、二人は装備をガチャガチャと外し、下着姿となると、そのまま布団へと倒れこむ。


「おやすみなさい、メロディ」

「おやすみ、リルナ」


 冒険から帰ってきたばかりの二人は、すぐに夢の中へと旅立つのだった。


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