~ダブルクエストみっしょん~ 11
ヒカミ村に戻った頃には、すでに夜明け近くだった。
ひとまず狼たちと共にいたリーンに会いに行くと、つまらなそうな表情で迎えられた。
「なんだ、怪我ひとつなかったの?」
「酷いセリフね、シロちゃん」
「ん? なんか元気ないね、リルナ」
「なんでもない」
何か言いたそうなホワイトドラゴンだったが、その前にリルナが魔法陣を解除する。すっかりとその姿は消えてしまった。
「なんじゃ、また上に乗りたかったのぅ」
「ごめんね」
狼たちは、リーンの姿がなくなると、それぞれ森の奥へと帰っていった。言葉が通じなくとも、その様子で理解できたのだろう。動物、とはいえ知力はそこそこ高いようだ。
最後に残ったリーダーがジッとリルナの瞳を見つめた。
「な、なに?」
もちろん、言葉は通じない。狼も人間の言葉を発する事はなく、ただ自分の体をリルナの足へと擦るようにして、周囲をまわる。
「な、なな、なに? なに?」
「マーキングでもされてるようじゃの」
「気に入られたんやないの?」
真相はわからない。
だが、嫌われた訳ではないので、リルナは素直にその場に立ち尽くした。
リルナの周囲を回り終えると、リーダーは一度だけこちらへ振り返り、そのまま森の奥へと帰っていった。
「一件落着やな」
「うむ」
狼を見送った一同はヒカミ村の村長宅を訪れる。
そのまま朝食を頂く事になり、食べながらの報告となった。
「バグベアーですか。村人が遭遇したら大変でした。それに村を襲われる心配もあった訳ですな。いやいや、ありがとうございます」
報酬を上乗せすると村長は言ったが、リルナ達は丁寧に断る。依頼はあくまで狼退治。その原因を取り除いたに過ぎないので、上乗せはいらないという訳だ。
「何日もお世話になったしのぅ。これから村長夫人の料理が食べられないのが残念でならぬ」
「あらあら、メロディちゃんは嬉しい事いってくれるねぇ」
まるで祖母と孫の様な関係に微笑ましくサクラは笑う。リルナもそれを見て笑うのだが、少しだけ表情が優れなかった。
「リルナさんは、どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「そうですか」
えぇ、とリルナは頷き、朝食を食べ進めた。
それから少しだけ仮眠をとった一同は、ヒカミ村を後にする。幾日かお世話になった事もあって、村人が見送ってくれた。
「またくるかのらの~!」
メロディがブンブンと手を振って、お別れとなる。
帰りはバイカラへは立ち寄らず、そのままハオガ山を越える事となった。警戒しながら行くも、今度はモンスターに出会う事なく山越えをし、無事にサヤマ城下街へと戻ってくる事が出来た。
「もう、クタクタじゃ」
「さすがのウチも連日の夜警には疲れた」
「わたしも~」
門を潜った時には、そろそろ太陽が海へ沈む頃。一日の仕事を終えた男達が家路を辿る頃合だった。
ようやく帰って来たと、大きくため息を吐いた一同は、冒険者の店『イフリートキッス』をトボトボと目指す。
商業区でもある冒険者の店は、宵闇が迫ると同時に酒場は活気が溢れてくる事になる。イフリートキッスはその中でも特に顕著であるらしく、外まで喧騒が聞こえてきた。
「今は泥の様に眠りたい」
「賛成じゃ」
「そういえば、メロディはどうするの? お城に帰る?」
「城だとメイドがうるさい気がするからのぅ。今夜はリルナの部屋に泊めてもらえぬか?」
「わたしは良いけど。カーラさんの許可が出るかな?」
とりあえず、と両開きの入り口を開ける。途端に漂いアルコールの香り。それに加えて冒険者達の話がワっと溢れてきた。
「お、冒険者のお帰りだ!」
「凱旋か! そりゃめでてー!」
「飲め! いいから飲め!」
「うっひょー、かわいい子じゃねーか!」
そんな言葉を掻い潜りながらカウンターへと到達する。座る気力もないので、そのままカーラさんへ向けて手をあげた。
「ただいま戻りました」
「良かったよ、無事に帰ってきて。どうだった?」
「ちゃんと依頼を完遂できました。詳しい報告は……明日でいいですか?」
「リルナも姫様もクタクタみたいだね。サクラは?」
「ウチももう寝たい」
「旅人が情けないね~」
その言葉に、サクラは肩を竦めた。勝手気ままに移動していた(訳アリながらも)旅とは違って、依頼をこなすのとでは、色々と違いはあるのだろう。特にリルナとメロディという存在があるからこそ、かもしれない。
「ほな」
サクラはそのまま二階の自分の部屋へと戻っていった。
「カーラさん、今日はメロディも泊まっていいですか?」
「ん? もちろん構わないさ。ただ、いくらお姫様といえどお金は頂くよ。決まりだからね」
「いくらじゃ?」
「500ガメル」
「う、うむ。お皿洗い50日分か……」
お姫様の葛藤も分からなくはない、とリルナは苦笑する。カーラさんは頭の上にはてなマークを浮かべるしかなかった。
結局は、報酬からという事でメロディはリルナの部屋に泊まる事となった。部屋についた途端、二人は装備をガチャガチャと外し、下着姿となると、そのまま布団へと倒れこむ。
「おやすみなさい、メロディ」
「おやすみ、リルナ」
冒険から帰ってきたばかりの二人は、すぐに夢の中へと旅立つのだった。




