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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 10

 狼たちに保存食である干し肉をあげてから、リルナ、サクラ、メロディの三人は森の奥深くへとやってきた。

 リーンは宣言した通り、森の浅い所で狼たちと一緒に待っている。幼い狼の子供が彼に懐いているのは、偉大なる王者なのか、それとも無知のなせる技なのか。リルナ達は知る由もない。


「朝を待ってからの方が良いのでは?」


 メロディの言葉は、サクラによって否定される。


「相手が活動しとる時に、わざわざ襲う必要はあらへん。ここは強襲として、夜襲にしとこう思う。巧いこといけば、戦闘ゼロで済むかもしれへんしな」

「なるほど~」


 サクラの言葉にリルナとメロディは頷く。

 狼のリーダーからおよその場所を聞き出した三人は、そこへ向かう事となった。


「あれか」


 サクラが立ち止まるのに合わせてメロディ、次いでリルナは立ち止まり、姿勢を低くして屈んだ。

 同時に先頭を行くサクラはランタンの火を消した。

 途端に辺りは闇に包まれる。さっきまで見えていた足元が見えない程の暗さに、リルナは思わず声をあげそうになるが、寸前で我慢した。

 空を見上げれば木々の隙間からかろうじて星が見える。それでも、周囲を照らすには不十分であり、森の中は闇と変わらない。

 それでも、少し待てば目が闇へと慣れてくる。さっきまで全く見えなかったが、自分の手や足元ぐらいは確認できるようになった。


「見えるか?」


 サクラの声に、進行方向であった茂みの奥を見る。

 そちらからは、チロチロと燃える松明の明かりが見えた。つまり、動物ではない何かが火を扱っているという事だ。


「うむ、見えた」

「こっちも」


 メロディとリルナが頷く。

 それを確認して、サクラはゆっくりと歩き始めた。


「ここからは慎重にいくで」


 幸いにして、リルナ達の装備は音が鳴らない。金属鎧は重量も重く、動く度にカシャカシャと音がなるので、こんな時にはお留守番のパターンも多い。メロディの装備しているヴァルキリーの鎧は、性能が良すぎるらしく、歩行や動きに関して一切として音を残さない造りになっていた。

 隠れながら松明の明かりへと近づく。そこはどうやら断層があるらしく、隆起した地面が三メートル程の壁になっていた。その一部分が洞窟になっており、その前に松明が設置され、周囲を照らしていた。

 わざわざ位置を示す為に松明を設置する必要はない。

 つまり、見張りがいる、という事だ。

 洞窟の入り口前には、一匹の蛮族が退屈そうに立っていた。


「バグベアーや」


 蛮族、亜人と呼ばれる魔物。その特徴としては、人間の様に二足歩行する存在があげられる。バグベアーはその中の一種であり、人間と熊の中間辺りの姿をしていた。毛むくじゃらの体に横に広がる様な特徴的な耳をしている。ディフォルメをしてぬいぐるみにすれば、もしかしたら可愛いのではないか、と思われるが、需要は怪しいところ。

 大きさは人間よりも少し小さい位だろうか。個体差はあるものの、人間より同等以上は存在しない。だが、その力は人間を遥かに超えており、鉤爪の攻撃には注意しなければならない。

 冒険者によるモンスターの分別では、レベル3に該当する。


「いけるか、メロディ?」

「わ、わからん。母上より強くないのは、確かじゃろ?」

「世の中に絶対はあらへんっていうが、それは確実に『絶対』やな」


 メロディは肩を竦めた。リルナとしては、苦笑するしかない。


「リルナ。後方は任せたで」

「うん」


 頷いたものの、リルナにできる事はない。後方を監視するくらいなものだ。


「見張りはウチがやる。メロディは後ろに付いてな」

「うむ」


 二人は茂みから木へ、木から茂みへと音なく移動していく。リルナはそれを後方から見ており、見張りが気づかないかドキドキしながら見守った。

 最前線まで近づいたサクラとメロディ。

 そこから飛び出す様に肉薄したサクラはバグベアーを一刀で斬り伏せた。バグベアーにしてみれば悲鳴をあげる暇もなかったのだろう。驚く表情のまま息絶えていた。


「……すごいのぅ、サクラ」

「見直したか、お姫様」

「うむ。母上とはまた違った強さじゃ」


 追いついてきたリルナと合流すると、入り口の松明を取り、洞窟の中へと進んでいく。天然の洞窟らしく、岩肌は剥き出しで、少々狭い。サクラ、メロディ、リルナの順番で洞窟を進んでいくと、徐々に通路が広くなってきた。

 それと共に別の明かりが見えてくる。どうやら、この先がバグベアーたちの寝床になっているらしい。

 慎重に、足音が立てずゆっくりと。そんな風に近づいていったところで、大きく広がる空間に出た。


「あっ」


 短い言葉。先頭を行くサクラだった。


「むっ」


 なんだ、とばかりにサクラの脇から顔を覗かせたメロディの言葉。


「え、なに?」


 状況が掴めないで疑問の声をあげたリルナの言葉を合図に、別の声があがった。


「×××××ー!」


 聞き取れない言葉。その大声は、蛮族の言葉だった。

 どうやら鉢合わせしてしまったらしい。

 真っ先に動いたのはサクラだ。声をあげたバグベアーの腹に思い切り蹴りを叩き込む。サクラの体はまだ通路側にあり、抜刀するスペースはギリギリあるかないか、ぐらいだった。それを証明するかの様に、メロディは背中のロングソードを引き抜こうとするが、スペースが取れていない。

 雪崩れ込む様にして広い空間に出たサクラは倭刀に手を添えた。


「我流抜刀四十八手、二十二乃太刀『立ちかなえ』!」


 刃が煌き、倒れ伏せているバグベアーの脳天から股下までが真っ二つとなった。その時にはすでに刃は鞘へと収められている。彼女の刀には、血の一滴も付いていない。それほどの早業だった。

 眠っていたバグベアーが次々に起きだす。その数は十匹を優に超える勢いだった。


「大家族やな。これはちと骨が折れるな」


 その大多数はサクラを見ていた。一撃の元で仲間を葬り去ったのだ。サクラを最大の敵と認識したのだろう。


「うわぁ、こっちに来たぞ!」

「えぇ~!」


 そんな中、通路近くのリルナとメロディにも一匹のバグベアーが襲い掛かってきた。蛮族からすればリルナ達が襲い掛かってきた訳で、迎撃にきたのだろうが、少女たちには襲い掛かってきたという感覚の方が強い。


「え、援護を頼むぞ」

「わかった」


 果敢にもメロディはロングソードを構えて前へと出る。振り下ろした刀身は、バグベアーの爪によって弾かれた。十歳の体では、それだけでも強い衝撃となり、体がブレる。その隙を狙って、バグベアーの襲爪がメロディへと迫る。

 しかし、オートガードが発動し、爪はメロディに届く事はなかった。


「し、死亡回数1じゃな」


 冷静にそれを見届けながら、バックステップ。リルナの元まで下がった。

 リルナは魔法陣を完成させ、魔女レナンシュを召喚する。


「呼んだ?」

「うん、お願いレナちゃん。また力を貸して」

「――わかった」


 周囲を確認したレナンシュは状況は把握したのだろう。メロディへと迫るバグベアーの足元に、蔦を発生させた。絡まる様に伸びる蔦。バグベアーの体を地面へと縫いつけた。


「グルァアアアア!」


 バグベアーが吼えた。

 その声にメロディの足が止まってしまった。その間にバグベアーは蔦を引きちぎる。レベル1の魔女の力では、バグベアーの体を押さえつけるのは無理の様だ。


「れ、レナちゃん、他に何かない?」

「え、え~っと……攻撃に使える魔法はまだ覚えてない……」

「い、いますぐレベルアップの御予定は!?」

「……無理。帰っていい?」

「帰らないで!? えっと、とにかくメロディの援護して。止められなくてもいいから」


 その間にリルナはもう一つ魔法陣を描く。


「召喚『ハーくん』!」


 喚び出されたのはコボルトのコック、ハーベルク・リキッドリア13世だ。


「どうした、リルナ」

「ハーくん、前衛お願い!」

「は?」


 背中を押されたハーベルクはメロディの横へと並ぶ。そして、目の前の敵に気づいた瞬間、メロディの背中にぴったりとくっ付いた。


「なにやってるの、ハーくん!?」

「むりむりむり! コボルトが勝てる相手じゃない!」

「意気地なし!」

「勇気の問題じゃない! 自然摂理の問題だ!」

「お主、妾の背に付いておれ」


 攻撃は出来ないながらも、メロディへは攻撃が届かない。レナンシュの蔦でほんの少しの時間だけできる隙を突いて、バグベアーになんとかダメージを与えていく。


「あとは、ウンディーネしか……」


 水の大精霊を喚んだところで、出来るのは水を出すだけ。それでも、とリルナは魔法陣を完成させ、手早くウンディーネを召喚した。


「あらあら、これは大変」

「ウンディーネ、なんとか出来ない?」

「出来るわ」

「出来るの!?」

「えぇ。その為の大精霊です」


 にっこりと笑ったウンディーネはレナンシュの帽子の上に降り立った。


「あなた、木の魔女ね?」

「うん。水の大精霊?」

「ウンディーネです。初めまして。あなたは五行相生ごぎょうそうじょうはご存知?」

「自然の摂理。知っている。あなたの水の力があれば、いけるかも?」

「水生木。水は木を育てるわ」


 ウンディーネが力をレナンシュへと向ける。青く光る力はそのまま彼女の体を青く光らせた。


「蔦よ」


 レナンシュは再びバグベアーの足元に蔦を発生させた。そのれは今までよりも本数が多く、太い。再びバグベアーが蔦を引き千切ろうとしたが、びくともせず、地面へと縫いとめられた。


「チャンスじゃ!」

「わ、わん!」


 メロディのロングソードはバグベアーの胸を貫き、ハーベルクのナイフは喉を掻っ切った。しばらく悶え苦しむバグベアーだったが、すぐに動かなくなる。


「や、やったのじゃ」

「良かった~」


 勝利の余韻に浸るより、疲れが勝ったのだろう。メロディとハーベルクはその場に座り込む。その頃には、すっかりとサクラがバグベアーを全滅させていた。


「すごい。何とかなっちゃった……」

「これが精霊の力よ、リルナちゃん」

「水生木?」

「自然の捉え方のひとつ。属性魔法の基礎でもあるわ。学校では習わなかった?」

「う、うん」

「勉強しておいた方がいいわよ。召喚士が最強たる理由でもあるんだから」

「さ、さいきょう?」


 初めて聞いた話にキョトンとするリルナ。

 そんなリルナに笑顔を向けて、大精霊ウンディーネはウィンクするのだった。


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