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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その1 ~冒険者の店『イフリートキッス』~

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~冒険者の店『イフリートキッス』~ 3

「という事は、リルナちゃん。オキュペイションカードも失ったんじゃないだろうね」

「いえ、その……」


 言葉を濁したリルナの態度に、カーラは左手で額を抑え、髪を掻き揚げた。


「困ったレベル0が居たもんだ。さぁ、どうする?」

「どうしましょう」

「お金ないんだよね」

「え~っと、これならあるんですけど……」


 リルナは倭刀をカーラへ手渡した。受け取った瞬間にカーラは気付いたらしく、刹那に瞳が輝くが、すぐにそれを抑えた。

 引退したとはいえ彼女もまた冒険者。お宝を目の前にして、昔の感覚が甦ってしまったのだろう。


「世の中、無か有か。その二択にしたって、こいつはちょっと極端すぎないかい。これ一振りで一生ここに住めるわよ」

「いいんですか?」

「良く無いよ。引退したあたいにゃ価値がデカ過ぎる」


 カーラはカウンターの上にエールの入った瓶を置いた。そして、左手で倭刀の鞘を持ち、すぅ、と息を吸い込む。

 刹那。

 リルナが風と鞘抜きの音を感じた時、すでにエール瓶は斜めに斬れ、ズリ落ちるところだった。


「これぐらいしか出来ないわ。大道芸が精一杯かしら」

「……カーラさんってレベルいくつなんです?」

「53」


 軽く眩暈を覚える数字に、リルナはため息しか出てこなかった。


「片腕でも充分じゃないですか。どうやって剣を振ったんですか?」

「鞘が落ちる前に刃を引き抜いて、瓶を切って、鞘に収めてから、持つ。それだけさ」


 はっはっは、と笑いながらエールをグラスに注ぐ。そのまま彼女は喉を鳴らす様にして一気に煽った。


「ふぅ。久しぶりに良い武器を触ると気分がいいね。よぅし、こんな良い物を触らせてくれた、使わせてくれたリルナちゃんにお礼をしないとな」

「一緒にゴブリンを倒しに行ってくれるとか?」


 カーラが同行すればゴブリンの後ろにサイクロプスがいたって大丈夫そうだ。そうリルナは期待するが、答えはノーだった。


「あたいは店番をしないといけないのさ。ここの男共は寂しがり屋でさ。あたいがいなきゃ泣いちまうのさ」


 カーラの言葉に、カウンター席に座っていた男達が、へっへっへ、とだらしなく笑う。情けないヤツ、とリルナは思うが、そんなリルナよりレベルは上ばかり。ゴブリンに追われて荷物を全て失ったルーキーに、文句を言える筋合いはなかった。


「私の代わりに一人貸してやる。そうだな、リルナちゃんが私の店に依頼を出した事にすればいい。1ギルで請け負ってやるさ」

「1ギル! それでいいわ。もちろん後払いよね?」

「一日皿洗いの報酬でもいいけど、急いだ方がいいだろう。特別に後払いにしてやるさ」

「ありがと、カーラさん」

「お礼はまだ早いよ。リルナちゃんに貸し付けてやるのは――そうさね、こっちの問題も解決してしまおうか。ルル、ルル~!」


 カーラの呼び声に応えて、店の奥から一人の少女が出てきた。どうやら皿洗いの途中だったのか、深緑のローブを腕まくりしており、リルナと同じ年頃だと思わせる顔には、泡が付いていた。

 短く切り揃えた髪は黒。その髪の上には長方形の帽子が乗っていた。


「この娘はルル・リーフワークス。学士に成る為にアルバイト中さ」

「へ?」


 学士。いわゆるアカデミーで勉強する者に付けられる称号である。将来は政治職に就く者が多く、冒険者とは正反対の職業といえた。


「学士……見習い?」

「あ、はい。初めまして、ルルと申します~。えっと、新しいアルバイトの方ですか? 私にもようやく後輩が出来るんですねぇ~。先輩ですよ」


 どうやらルルはリルナを新しいアルバイトと勘違いしたようだ。少しゆっくりな喋り方に、ぽわんとした雰囲気。リルナの脳内でルルのあだ名が『おっとりさん』に成った。


「残念。リルナちゃんは冒険者です」

「あぁ、そうなんですか~。私と同い年くらいなのに、凄いですね」


 そこでリルナも自己紹介する。どうやら同じ12歳同士らしく、色々と経験の差が激しそうだ。もちろん、リルナの方が苦労している、という意味で。


「という訳で、ルル。リルナちゃんに協力してゴブリンを倒してこい。報酬は1ギルだ」

「ふぇ!?」


 そりゃ驚くだろう。リルナは口にする事なく頷いた。


「わ、私はアルバイトですよ? 冒険者の店でお皿を洗う人です。剣を振った事もないんですよ」

「そ、そうよ。危ないわ。学士見習いが一人増えたところで、何にもならないわよ!」


 ルルに合わせる様にしてリルナも抗議の声をあげた。


「大丈夫だいじょうぶ。何とかなるって」

「その台詞、カーラさんが言っちゃダメだと思う!」

 

カウンターから身を乗り出す様にしてリルナは抗議した。


「あはははは! いやぁ、若いっていいわね。ここしばらく私に文句言うヤツなんて居なかったからちょっと嬉しいわ。大丈夫よ、戦闘になったら半分はルルの方に向かうでしょ? その間にリルナちゃんがやっつければ余裕で間に合うって」

「どうやって?」

「その倭刀で」

「私、召喚士なんですけど!」

「は?」


 どうやらカーラはすっかりとリルナの事を前衛職だと思い込んでいたらしい。尤も、それは倭刀を持っていたリルナのせいでもある。本来、後衛職である魔法系統の職業が持つ物といえばせいぜい杖ぐらいなものだ。変り種として、盗賊系統職が後衛で弓を持つパターンもあるが、それは例外。冒険者といえど武器を持たない者も多い。


「召喚士とは珍しいわ」


 カーラは、あははははは、と高笑いをあげて不満げなリルナと不安げなルルを見るのだった。



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