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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 9

 その後、同じ様な事が三日続いた。

 狼は畑まで来るものの、リルナ達に襲い掛かる事はしない。畑を荒らす様子もなく、ただただリーダーがやってきて睨み合いをし、狼が去っていく、という事を繰り返した。


「向かってこないけど、諦めた様子もない。一体、何がしたいんだろう?」


 村長宅で夕飯を食べながらリルナは言った。

 夕飯といっても、リルナ達にとっては昼食に近い形だ。なにせここ三日はずっと夜警をしている。昼夜が逆転してしまった状態だ。


「追い払っても来るんですかねぇ」


 村長も不思議な様子を見せている。今までこんな事は無かったし、聞いた事もないそうだ。狼に詳しい学者なら何か分かったかもしれないが、ピンポイントで狼を研究している学者なんて存在しない。ルルが持っている森羅万象辞典にも、それは載っていないだろう。


「しょうがないな。今日は切り札を使おか」

「切り札とはなんじゃ?」


 サクラの言葉にメロディが聞く。


「ジョーカーの事や」

「言葉の意味を聞いたのではない。ジョーカーの意味を聞いたのじゃ」

「それは後のお楽しみやな。頼むで、リルナ」

「私? ……という事は、召喚?」


 うむ、と頷いてサクラは食事へと戻る。


「まぁ、しょうがないか」


 リルナも頷いて食事に戻るが、メロディは首を傾げるばかりだった。

 食事を終え、いよいよ四日目の夜警となる。いつもの様に民家の影に隠れた一同は、静かに森の方角へと視線を向ける。

 いつも狼達がやって来るのは、もう少し後。

 闇が深まった時間帯だ。


「それでジョーカーとはなんじゃ?」

「リルナの召喚術や。ウチも会うのは初めてなんやけどな」


 サクラの言葉に頷き、リルナは魔方陣を空中へと描く。神代文字で複雑に彩られた魔方陣が一際輝いて召喚されたのは、ホワイトドラゴンだ。


「こんばんは、シロちゃん」

「ふあ~ぁ。どうしたの、こんな夜に? 良い子は寝てる時間だよ?」


 くわ~、と欠伸を噛み殺す様にしてホワイトドラゴンのリーン・シーロイド・スカイワーカーは口を開いた。


「ほ、ホワイトドラゴンじゃと……」


 そんなリーンと同じ位の口を開けて驚いたのはメロディだった。ドラゴンといえば、ほぼ伝説に近い生き物だ。神話時代から生きる者も多いので、会ってみれば伝説そのものであったりする。御伽話の寝物語に聞いたお姫様をさらったドラゴンもまだ世界のどこかで生きていたりするのだ。


「初めまして、ホワイトドラゴン殿。サクラと申します」

「へ~、リルナの仲間?」

「はい。前衛を務めさせて頂いております」


 いつもの方言はどこへやら。サクラはまるで王様に会うかの様にかしこまって言った。


「見た見た、リルナ? これが正しいボクへの態度だよ」

「そうなの? サクラもそんな頭さげなくてもいいよ~」

「いやいや。ホワイトドラゴンって言うたら、神クラスの龍やで。そこらのトカゲとは違う本物や」

「え~……」

「サクラが正しいよ。いやぁ、ボクの価値を分かってくれる人にやっと出会えた」


 リーンはにこやかに笑った。


「それで、その子は?」

「あ、お、えっと、め、メローディア・サヤマ・リッドルーンじゃ。いや、です。メロディと呼んで頂ければ恐悦至極? でございます?」

「あはは、そんなに緊張しなくても食べないよ。ボクはリーン・シーロイド・スカイワーカー。サクラもメロディもリーンって呼んでね」

「シロちゃんでいいと思うけど?」

「ボクの事をシロちゃんと言う奴は敵だ」

「なんで!?」


 一通り自己紹介が終わり、メロディが落ち着きを取り戻したところで本題となった。


「で、ボクを召喚したのはなんで?」


 リーンの質問に、サクラは答える。


「実は話して欲しい事がありまして」

「話?」

「はい。その相手は狼です」

「狼か~。いいよ」


 リーンは素直に頷いた。

 ドラゴンは、全ての動物の頂点に君臨する存在だ。加えて、彼らの知識は人間を軽く越えている。それがドラゴンキッズであろうと、変わらない。つまり、ドラゴンは全ての存在と会話をする事が出来る存在である。


「シロちゃん、そんな事が出来るんだ」

「そうそう。リルナはもう少し、というかもっともっとボクの凄さを理解するべきなんだよ」

「だって~」

「だって~じゃないよ……ん? どうしたのメロディ?」


 そんなシロちゃんの隣で、なにやらウズウズとしているメロディ。


「あ、あの、お願いがあるのじゃが……」

「なになに?」

「触っても良いかのぅ?」

「そんな事? いいよいいよ? 背中に乗る?」

「良いのか!?」


 どうぞどうぞ、とリーンは少しだけ屈んだ。メロディは少し遠慮気味にリーンの背中に乗る。彼女の鎧が鎧だけに、その姿は美しく栄える。


「まるで竜騎士やなぁ」

「さすがお姫様。シロちゃん、私も乗っていい?」

「ダメ」

「なんで!? わたし、召喚者!」


 と、少しだけ賑やかにしている内に、狼がやってきた。さすがに騒いでいたので、今日は初めからリーダーが先頭に立っている。

 そんな狼達に向かって、メロディを乗せたままのリーンが静かに歩み寄った。

 狼達は逃げる様子もなく、ただ静かに地に伏せた。


「す、すごいのじゃ」


 リーンの背中でメロディが思わず声をあげる。

 ホワイトドラゴンの姿に、狼達は平伏しているのだ。人間でもない動物が、自然と頭を下げる光景は、不思議な光景に思えた。


「×××××」


 リーンの口から人間には聞き取れない言葉が発せられる。その言葉が聞こえたのか、リーダー格の狼が立ち上がった。


「×××?」


 再びリーンの言葉。それに答えているのだろうか、リーダーがドラゴンと目を合わせる。狼達は鳴き声でもって意思疎通を行っているのだろうが、ホワイトドラゴン相手にはそうではないらしい。

 人間からみれば一方的にリーンが何かを話している様に見える。

 それでも会話が成立しているらしく、リーンは人間の言葉でリルナ達に告げた。


「どうやら森の奥に蛮族が居るみたい。で、食べ物を探し回る事が出来ないって。だから人間の畑を襲った。群れに子供もいるから仕方がなかった。ってさ」

「なるほど、そういう理由か」


 納得した様にサクラは頷く。


「××××……狼がお願いだって。蛮族を倒してくれってさ」

「シロちゃんに?」

「ボクは嫌だね。もう充分に働いたでしょ?」

「ケチ!」

「リルナがボクの偉大さに気付いたのなら、やってあげなくもないけど?」

「なんでそんな上から目線なのよ! 子供でしょ! ドラゴンキッズ!」

「ぶぅ~。残念、ボクは手伝いません。狼と一緒に待ってるよ」

「それはそれで狼もありがた迷惑なんじゃないかのぅ……」


 リーンの背中で、メロディは苦笑するのだった。

 ともかく、以上の事を村長に伝え、リルナ達は森の奥深くに居るという蛮族を倒しに向かうのだった。


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