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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 8

 村長の家で少しだけ休憩したリルナ達は、村人の話を聞いて回る事にした。

 効率的に、という訳で手分けして聞き込みを行う。

 ある程度の話を聞いて、夕方頃に村長の家に戻り情報をまとめた。

 結果、分かった事は――


・狼達は西側の森からやってくる。

・時間は日が落ちてから。

・西側の畑が被害にあい、それは徐々に北上している。

・狼の数は把握できていないが、恐らく5匹ほどでやってくる。


 といった情報が集まった。


「見張るのは村の北側やな」


 村長宅で用意してもらった兎肉と野菜のスープを食べながらサクラは言った。

 夕飯のメニューはスープとパンとミルク。質素ながら量は充分にあり、村長の奥さんが作ったものだ。

 スープのベースはトマトペーストの様で、酸味のきいた味になっている。パンも出来たてでふんわりとした味わいだった。


「う~ん、美味しいのぅ」

「おばさん、料理上手だねっ」

「あはは。かわいい冒険者さんに褒められると嬉しいねぇ。いっぱい食べなよ」

「は~い」


 育ち盛りには仕事よりも料理らしい。

 サクラは肩を竦め、村長は苦笑するのだった。

 ひとまず食事に集中する事にして、村長宅で団欒となった。お腹が膨れたところで、サクラの指揮の元、見張りを開始する事となった。


「よろしくお願いします。くれぐれも気をつけて」


 村長と奥さんの見送りに手を振ってから、リルナ達は村の北側に向かった。昨日に被害になった畑を確認する。


「ここやな」

「ほんとだ」


 明らかに荒らされたあとが見て取れる。狙われたのは芋類だろうか。掘り返されて、作物が折り倒されてしまっていた。


「足跡が残っておるぞ」


 メロディは畑に残った足跡を発見する。4足歩行らしく、幾つもの足跡が付いており、およその数も推測するのは難しかった。だが、足跡から狼である確信は出来た。


「ほな、見張を開始するで」

「うむ」

「うんっ……ていうか、リーダーはサクラで良くない? 経験豊富だし」

「いやいや。戦闘関連しか経験はないよ。それに、ウチはあくまでリルナの前衛を引き受けただけや。リーダーはリルナで構わんよ」

「妾も問題ない。適材適所で良いのではないか?」

「う~ん、じゃぁ分かった」


 改めてリルナ達は手を打ち合わせ、パーティの結束を固めた。

 それから畑から離れ、民家の近くに身を潜める。時間ごとのローテーションで畑を見張る事にした。

 見張りの時は、静かに畑の全体を見渡す。もちろん夜が深くなっていくがそれでも星の明かりで真っ暗になってしまう事はない。何かしらが動けばすぐに分かるぐらいの明るさではある。

 時折吹く風で揺れる草木に驚きつつ、三人は見張りを続けた。


「来たぞ」


 メロディの声に、サクラは素早く立ち上がり、遅れてリルナが立つ。前衛であるサクラとメロディが武器を構え、畑へと静かに向かった。

 後衛のリルナは召喚術を起動させ、大精霊ウンディーネを召喚する。狼退治に適材ではないのだが、居ないよりマシ、という訳だ。


「ごめんね、ウンディーネ」

「いいえ。召喚で呼ばれるのは誉れですわ」


 昔は引っ張りだこだった大精霊達も、現役召喚士がリルナ一人だけとなった今は呼ばれる事を楽しみにしているらしい。

 ありがと、と声をかけてリルナは畑へと入った。


「グルル……」


 狼の低い唸り声。サクラとメロディが並ぶ前に三匹の狼が牙を剥いていた。今にも飛びかかってきそうな前傾姿勢に、メロディはロングソードを硬く握り締める。

 サクラはいつでも抜刀できる様に倭刀の柄に手を添えた。


「奥にまだおるな」

「ほんと?」


 リルナは目をこらす。しかし、すぐに森の闇が広がっており、狼の姿は確認できなかった。


「ど、どうするのじゃ?」


 メロディの声は少しだけうわずっていた。目の前に狼がいるのだ。いつ飛びかかってくるのか分からない距離。緊張するのは無理もない事だった。


「落ち着け、お姫様。無闇に剣を振るうのはアカンで」

「何故じゃ?」

「ウチらが引き受けた依頼は、狼の殲滅やあらへん。あくまで退治や」

「なるほど、心得た」


 退治。色々な意味が含まれるが、それほど強い言葉ではない。相手が蛮族や魔物、いわゆるモンスターの類であれば、殲滅が好ましいだろうが、狼はあくまで動物だ。

 一匹や二匹を殺しても影響はないだろうが、殲滅してしまっては生態系に影響が出るだろう。そうなってしまうのは村長も望んではいない。


「ん?」


 しばらくリルナ達と狼のジリジリとした睨み合いが続いていた時、森の奥からもう一匹の狼が歩いてきた。


「大きい……」


 どうやら群れのリーダーらしい。三匹の狼の前に立つと、静かにこちらを見つめてきた。


「な、なんじゃ?」


 戦闘態勢も取らない狼の様子にメロディは少しだけ剣を降ろした。それを見て、後ろの三匹の狼がくるりと踵を返す。


「あれ……帰っていく」


 リーダーのみが残った状態で、狼は姿を消した。

 そのリーダーもしばらくリルナ達を見た後、静かに森へと戻っていった。


「なんだったの?」

「不思議なものじゃ」


 狼が去った後も、夜明けまで見張りを続けたが、それ以上狼達が来る事はなかった。


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