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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 4

「で、ほんとに冒険者になるの、お姫様?」


 カーラさんの奢りでリンゴジュースを飲みながら、メロディはこっくりと頷く。


「うむ。いつも女王から寝物語として冒険譚を聞いておったのだ。わらわもそれに憧れ、冒険者となる事を決意した訳じゃよ」


 メロディの隣で、リルナはうんうんと頷いた。


「私もお母さんから冒険者だったお父さんの話をずっと聞いてて、冒険者になろうって決めたの。一緒だねっ」

「そなたもか。冒険者はいいのぅ。誰かの役に立ち、誰かの為に活躍する。そして報酬をもらいながら生き、祝杯を交わす。その楽しそうな物語を体験してみたいのだ」

「とは言ってもねぇ」


 きゃっきゃと盛り上がる少女冒険者を前にして、冒険者の店の主人であるカーラは頭を抱える。


「お姫様を危険に晒してよいものか……」

「妾はこの通り、大丈夫じゃよ。未熟ながらも剣の修行も女王につけてもらっておる。それに不本意ながら、防御力は折り紙つきのようじゃしのぅ」

「それはウチも保障するわ。お姫様にダメージを与えるには神様でも連れて来るしかないで」


 サクラの持つ倭刀ですらメロディに届かなかった。

 彼女の実力から言ってしまえば、戦乙女の鎧に到達できるのは神様ぐらいの実力が必要になってくる。


「まぁ、そうなんだけどねぇ……」


 カーラはいまいち納得できない感じで、依頼の書類をパラパラと捲っていく。

 冒険者の宿には、遠方から依頼が来る事もあり、それらは手紙で送られてくる。条件に合わない依頼は他の宿に回されたりするので、古い物もあったりした。

 そんな中でカーラは比較的新しい紙を選びぬいた。


「駆け出しの冒険者用の依頼ね。どうかしら?」


 カウンター席の三人の前に置かれた紙を、覗き込む。


「ここから北の、ハオガ山を越えた先にある『港町バイカラ』。そのバイカラの西にある村、『ヒカミ村』からの依頼よ」


 依頼主の名前は、ヒカミ村の村長だった。

 内容は酷く単純で、畑を荒らす狼退治の依頼だ。報酬は30ギル。泊まる場所は村長が提供するという事で、心配しなくていいそうだ。


「狼退治か。これやったら、ウチら初心者パーティにピッタリやな」

「そうなの?」

「そうなのか?」


 リルナとメロディの質問にサクラは頷く。


「相手はモンスターやのぅて、動物や。つまり、深追いせんでええねん。ただちょっと脅かしてやればしばらく近寄らん様になる可能性もあるからな。気をつけて闘えば大丈夫や」


 それに、とサクラはリルナをちらりと見た。


「どうしてもあかんかったら、最後の手段がある」

「殺しちゃうの?」


 リルナの言葉にサクラは首を振る。


「それも一つの手やけど、もっと効率的なもんや。便利やのぅ、召喚術は」


 サクラの言葉に、リルナは納得いったのか、ポンと手を打った。


「ほう、リルナは最後の手段を持っておるのか。必殺技や奥の手、秘儀や奥義には憧れるものよ」

「メロディは何かないの?」


 リルナはメロディの持つ剣を見た。


「これはただのロングソードじゃ。2ギルで売ってた。妾のおこづかいで買ったものじゃ」

「もっといいの買えなかった?」

「お皿洗いでもらえるのが10ガメル。妾はこれでも一生懸命に働いた」


 お姫様とはいえ、女王の教育はそれなりにしっかりしたものだったようだ。甘い様な厳しい様な、サヤマ女王の教育方針は謎を深めるばかりである。

 ちなみに2ギルは2000ガメル。お姫様は皿洗いを200回行ったという事で、単純に考えれば結構な努力でもある。そういう意味では、メロディが初めて勝ち得たロングソードは、それなりに意味はあるとも言えた。


「……なんか、ごめん」


 先日、パペットマスターの情報だけで唸る程のお金を貰ったリルナは謝った。しかも、250ギルの腕輪も買ってしまっている。


「なぜリルナが謝る?」

「いや、何となく……」

「気にする事はない。妾もはれて冒険者になったのだ。これからは自分でお金を稼いで良い武器と防具を買うぞ!」


 戦乙女装備より良い物っていくらだろうか?

 なんてツッコミをリルナは飲み込んでおいた。


「これでいい? 良かったらサインしてくれる?」


 カーラの言葉に、三人はそれぞれ紙にサインをする。本当はパーティ名があれば、代表者がそれを書くのだが、未だパーティ名も無いので、全員の名前を書く事となっている。


「よし。っと、じゃぁこれをヒカミ村の村長に渡してくれる?」


 カーラはリルナに紙を手渡す。


「それが依頼を引き受けた証ね。あ、そうだ、メロディにもこれを渡しとくわ。このピンバッチがイフリートキッスの証だから。せいぜいウチの名前に傷を付けない様に頑張ってね」

「分かりましたっ!」

「うむ、心得た」

「ほな、行こか」


 三者三様に頷き、カウンター席を立つ。

 少し心配そうなカーラの見送りを受けつつ、三人の少女はパーティとして初めての冒険に出るのだった。


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