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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その5 ~ダブルクエストみっしょん~

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~ダブルクエストみっしょん~ 3

 サヤマ城下街でサヤマ女王を見かけたらどうしたらいいか?

 正解は、遠巻きに見ていよう、だ。

 女王が街中を歩いているという事は、なにかしらの事件が待ち受けているのは間違いない。それはそれで面白おかしくカッコイイ事には違いない。

 ただし、それは見ている側の意見だ。

 巻き込まれる方はたまったもんじゃない。

 という訳で、女王を街中で見かけた場合は遠巻きに見つめる人が多い。

 現在のイフリートキッスも、まるでぽっかりと穴が空いた様に周囲に人が居なかった。


「やっほーぃ」


 元冒険者らしく、気楽な挨拶をしてサヤマ女王は店内へと入ってきて、当たり前かの様にリルナの隣に座った。


「ひぃ!」

「あ~、なによリルナちゃん。悲鳴をあげる事はないじゃない。ところでお隣の美少女は誰?」

「ウチか?」

「そう。ウチさん?」

「ウチの名前はサクラや。リルナちゃんのパーティメンバーやで」

「ほうほう」

「それで、お前さんは?」

「ちょっとそこの城の主を務めている名前だけの領主よ、サクラちゃん」

「ほうほう」


 サクラは大して驚きもせずジロジロと女王を見つめた。

 本日のサヤマ女王の姿は、軽装ながら武装済みだ。腰の剣は一目見ただけでもかなりの代物だというのが分かる。貴族は形ばかりの宝剣を身につけているが、サヤマ女王のそれは質素ながら本物の刀剣といえた。


「これはこれは強そうな領主やなぁ」

「これでも現役時代はレベル90まで行ったからね。尤も、目立ちすぎて政治に組み込まれ、このザマよ。笑うがいいわ、現役冒険者」

「笑えん冗談やな」


 サクラと女王が自分を挟んで対等に話しているので、リルナとしては気が気ではない。いつ『無礼者!』と怒られるか、ビクビクものだった。


「リルナちゃんはレベルあがった?」

「う……い、1のままです」

「あははは! まだ1なの? ちょっとノンビリしすぎじゃない? って、うわぁ!?」


 サヤマ女王が体を仰け反らせる。

 カウンターの中からカーラが護身用の剣を引き抜き、突いたからだ。


「どこの世界に客に向かって剣を突きつける冒険者の店があるのよ?」

「いつ客になったのかしら、女王様?」

「今よ、今。とりあえず、水」


 貧乏人か! というカーラのツッコミにも動じず、女王はニコリと笑った。カーラは肩を竦め、水の用意を厨房にいるハーベルクへと頼んだ。


「それで、何の用?」

「用があるのは、リルナちゃんよ。あ、いえ、この場合はリルナちゃんのパーティかな」

「わ、わたしたち?」

「そうそう。ピッタリだと思って」


 古今東西、冒険者に用事があるといえば依頼だ。

 それも女王からの依頼となると、とんでもない事案となる。それこそ政治に巻き込まれる程のものが多い。

 駆け出しの、それこそレベル1にはどう考えても荷が重い。

 そんな事もあってか、リルナは全力で首を横に振った。


「無理ですっ!」

「まぁ、そう慌てず。まだ依頼の内容も話してないし、そもそも依頼だなんて言ってない」

「個人的な用なん?」

「その通り」


 サヤマ女王はサクラの言葉に、パチンと指を鳴らした。


「おーい、入っておいで」


 女王は店の入口に向かって言う。

 その言葉に従って、一人の少女が入ってきた。

 特徴的な金色の長い髪に、少しばかり幼い顔立ち。しかし、その瞳は自信に満ち溢れていた。まだまだ小さい体にぴったりとフィットした鎧を着込んでおり、その背中には彼女の身長程はありそうな大きな剣が鞘に収められていた。

 いや、剣は大きくない。

彼女がまだ小さいせいで、大きく見えるだけだ。

 その姿を見たカーラはあんぐりと口を開けた。


「ヴァ、戦乙女ヴァルキュリアシリーズを……じょ、女王……!」

「いいのよ。私はもう冒険に出られないから」


 何の事か分からないリルナははてなマークを浮かべながら少女を見た。

 すると、少女もリルナを見た。

 そしてニヤリと笑う。


「そなたがリルナか?」

「え、えっと、そうだけど……君は?」

「おっと、申し送れた。わらわの名はメローディア・サヤマ。近しい者からはメロディと呼ばれておる」

「メローディア……サヤマ?」


 サヤマ。

 自分の隣に座っている女王の顔を見た。


「私の娘だ。どうだ、私に似ず可愛いだろ」

「こ、子供が居たんですか?」

「まぁ色々あってな。血は繋がっていないが、私の娘だ」


 ほえ~、とリルナは声をあげるしかなかった。

 つまり目の前にいる少女はお姫様な訳だ。道理で高貴なオーラを感じるとリルナは思った。


「よろしくのぅ」

「あ、よろしくお願いします、メローディア様」

「様はいらぬよ。敬語も。そして、できればメロディと呼んで欲しい」


 そう言われても、と曖昧に笑いながらリルナはメロディと握手した。年齢はリルナの方が上らしく、メロディの手はちっちゃかった。お人形さんみたい、と思ったが口にするには止めておいた。


「ウチはサクラや。リルナのパーティの前衛を任されとる。よろしゅうなメロディ」

「よろしく、サクラ」


 サクラは相変わらずの様で、特にビビった様子もなくメロディと握手を交わした。


「それで、用って何ですか?」


 リルナは女王に聞く。恐らくメロディ関連の依頼だろう、という予想はしながら。


「簡単なお願いだからそんな身構えないで。娘をリルナちゃんのパーティに入れておくれ、とそれだけの話」

「は?」

「あ、できれば友達にもなってくれない? ずっとお城で教育されてたせいで友達一人いないボッチなのよ、この娘。笑っちゃうでしょ」


 と言いながら女王は本当にゲラゲラと笑った。

 実の娘ではないにしても、だからこそといえるが、娘にする仕打ちとしては酷い。メロディも女王の顔をジロリと睨みあげた。

 そんな娘の視線も何のその、カウンターに置かれたグラスの中の水を一気に飲み干す。


「待て待て女王。メロディを冒険者にするっちゅうけど、素人を置いていかれると困るのはこっちなんやけど?」

「基礎は訓練済みよ。それに、普通の攻撃ぐらいなら大丈夫だと思うわ」

「どういう意味や?」

「ちょっと娘を斬ってごらんなさいな」

「えっ!?」


 驚いた声をあげたのはメロディだった。リルナは声すら出せなかった。


「ちょ、ちょっとお母様?」

「大丈夫だいじょうぶ。その装備、私が現役時代使ってたやつのリメイクだから」

「ほぅ、ほんならレベル90装備を試させてもらおか」


 サクラはカウンター席から飛び降りると、素早く倭刀を引き抜き、そのまま斬撃をメロディに向けた。

 その瞬間――

 まるで魔法の壁の様に青色と赤色の二重の障壁が現れ、サクラの刃を受け止めた。


「これは――!?」

「戦乙女のヴァルキュリア・メイルの特殊効果。オートガード。あらゆる攻撃から自動で身を守ってくれるわ。もちろん限界はあるけど」

「ウチの倭刀を停めるとは、相当なものやな」

「あわわわわわ」


 オートガードが発動したとはいえ、メロディは頭を抱えてガクガクと震えた。本気で刃を向けられれば誰だって恐い。それがほとんど見えない程の速さの刃となれば、しばらくはトラウマになりかねない。


「まぁ、剣の腕前は全然だけど。冒険者としての基礎は叩き込んだし、私が出した試験も合格したから大丈夫。安心して前衛を任せていいわ。レベル1の依頼だったらね」


 という訳で、とサヤマ女王はリルナとメロディに1ギル硬貨を手渡した。


「お友達料は1ギルね。はい、メロディもおこづかいの1ギル。それじゃぁ、ばっはは~い」


 ちょっと! と、娘含め皆が呼び止めたのを気にせず、サヤマ女王は店を出て行った。

 残された一同は、あんぐりとする者からため息を吐くものまで。

 リルナは思った。


「も、もう女王様と係わり合いたくない……」

「それには、妾も入っとるのかのぅ?」

「メロディは大丈夫と信じたい」

「母上より常識はあると自負しておる」

「だったら、大丈夫かなぁ」

「適応力が高くて助かる」


 リルナとメロディは、ほぅ、と息を吐くのだった。


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