~ノロイの魔女とノロイのサムライ~ 10
魔女レナンシュに魔女の住処から元の場所へと転移させてもらった三人は、深く息を吐いた。
フルイーチの森の開けた場所。
切り株の周りに立ったいた状態だった。
「なんだか夢みたいでした~」
ルルはそう言うが、サクラの腕には魔女の呪いの証でもある木が巻きついている。夢ではないと証明していた。
「ん~、ちゃんと召喚の繋がりも感じられるから大丈夫だよ」
リルナも夢ではなかったと、自分の召喚がひとつ増えた事を感じていられている。
「それで、サクラさんはどうするの?」
「ウチ?」
うんうん、とリルナは頷く。
魔女と契約したのだから、ずっと魔女の住処で生きていくのかと思ったが、そうではなかった様だ。
「魔女の住処は、人間のおる場所やないからな。彼女には立派な魔女に育ってもらわなあかんし、ウチみたいなんが追ったら邪魔やろ」
「そんなんで守れるの?」
「それは、この呪いが何とかするわ。それこそ、レナンシュの危険に合わせて呼び出される召喚獣みたいなもんやろ」
「まぁ、呪いの専門家がそういうなら……」
リルナはルルの顔を見た。
ルルは笑顔でうんうんと頷く。
「ねぇねぇ、サクラさん。良かったらわたしとパーティを組んでくれない?」
「パーティ?」
「えっと、仲間なかま。冒険者の仲良し組みたいな感じ。実は私、誰ともパーティを組めなくて」
リルナは召喚士という忘れられた職業ゆえに中々パーティが組めないという事をサクラに話した。
「忘れられた? 召喚士なんてウチが若い頃にはたくさんおったけどなぁ。旅を続けとる間に廃れてしもたんやろか?」
「わたしのパパが最後の召喚士って謂われてるの。キリアス・ファーレンスっていう名前なんだけど」
「ふ~ん……聞いた事あらへんなぁ。しかし、そうとうな年でリルナ嬢ちゃんを生んだんやなぁ。何歳やったん?」
「え? 確かママと同い年だから……生きてたら今年で37歳だけど?」
「ん? 待って待って。その口ぶりやから、パパさんはもう死んどるんやんな?」
「え~っと行方不明だって。見つかったのがこれ。パパがいつも使ってたスカーフだけ見つかったらしいわ」
リルナは手首に巻いている青い布を見せた。リボンの様に結っているが、元々はスカーフだったらしい。
「ママと半分にしたの。ママは髪を結うのに使ってる。私は手に巻く事にしたの」
「形見か。で、いつの話?」
「私が6歳の時だから、今から6年前ぐらい……だけど……」
リルナも良いながらおかしい事に気付いた。
つまり、たったの6年で召喚士の存在が人々から欠落しているのである。元から召喚士だった学校の先生なんかは覚えていた。
しかし、本当に世界に一人だけだったキリアス・ファーレンスが行方不明になっただけで、本当に召喚士という存在をみんなが忘れてしまうだろうか? 一般の人ならまだ分かる。だが、冒険者にも召喚士を知らないという者がたくさん……いや、ほぼ全てと言って良い程に忘れられている。
「ウチは覚えとった。召喚士という職業をちゃんと覚えとった。ルル嬢ちゃんは?」
「えっと、忘れてました。森羅万象辞典には載っていましたよ」
ふむ、とサクラは考える。
「時間の概念からウチは外れとるからな。そやから影響を受けへんだんかもしれへん。リルナ嬢ちゃんは覚えとったんやろ?」
「うん。パパの仕事だもん。世界一の召喚士って呼ばれてたって、ちゃんと覚えてる。だからこそ、私も召喚士になった」
自信を持って頷く。
だけど、不安になった。
たった6年で、みんなから忘れられた召喚士という存在。
世界に関わる様な、歴史を改竄できる様な事件に、自分の父親が巻き込まれた可能性がある。
そんな良い様のない不気味な感覚が、リルナを襲った。
「もしかして、魔女の呪いとか?」
ルルの言葉にサクラは首を横に振る。
「魔女の呪いは個人にかけられるものや。いくらリルナ嬢ちゃんのパパが呪われたからといって世界から召喚士ごと忘れられるなんて有り得へん。魔女の呪いの領域を超えとるで」
「それじゃ一体――!」
リルナの言葉に答えられる者はいなかった。
広場に静寂が訪れる。
「……分かった。リルナ嬢ちゃんのパーティに入るわ。新しい呪いのせいで、ちょっと動き辛いけど、前衛の真似事ぐらいできるやろ」
「……どうして?」
「ん? いやいや、ウチより過酷そうな運命を背負っとる人がおったら、思わず助けたくなるやん。それに、生活費を稼がなアカンやろ? なんせあと百年ぐらい生きやな呪いは解けへんねやし」
「……そっか」
少しばかりリルナは表情を明るくする。
何かとてもつもなく恐ろしい事実を知ってしまった気がするが、それを拭い去る様にして無理矢理に笑った。
「よろしく、サクラさん」
「サクラでええで。リルナ嬢ちゃん」
「分かった、サクラっ」
リルナを右手を差し出す。
それをサクラはがっちりと握った。
ひとまず、リルナはパーティ結成を喜ぶ事にした。何をするにも、何かを成し遂げるにも、仲間がいる。
頼りにする最初の仲間。
4つの呪いを見に受けて、平気で笑っていられる剣士。
元お爺ちゃんな彼女と共に。
リルナはにっこりと笑うのだった。




