~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~ 11
バシン、とリルナの身体を衝撃がつらぬく。いや、それは逆だ。つらぬいたのではなく、内から弾け霧散した。
魔力拡散。
本来あるべきはずの流れから捻じ曲げられ、それに耐えられなくなった体内から決壊した。その原因は、召喚術。メリットの裏側に潜むデメリット。
「うぎっ!?」
砂漠という無と死の世界に拡散していく自分の魔力残滓を知覚して、リルナは理解した。
召喚獣の消滅。
それは、召喚で喚び出した存在が肉体を保てないほどのダメージを負ったことを示す。召喚術のデメリットの最大のものだ。
ふらりと揺れる身体を耐え切れもせず、リルナは砂漠の砂に頭から倒れた。受身を取ることもできない。熱せられた砂に落ちる。
「リルナ!?」
いち早く気づいたのはメロディ。慌てて駆け寄るとリルナを助け起こす。
「なにがあったのじゃ!?」
しかし、返事はない。魔力が枯渇したせいで意識を失った。体内に流れる魔力がゼロになると、人間は意識を保てない。死ぬまで走ることができないように、普段はリミッターが本能によってかけられている。しかし、予期せぬ原因によって魔力が失われた際に、意識は混濁し倒れてしまう。
「さ、サクラ! フラン様!」
メロディはすぐにサクラを呼ぶ。その時には、すでにサクラは周囲に警戒を飛ばしていた。もちろん、原因は魔力消失なので敵の姿はない。それとは逆にフランはすぐにリルナの状態に気づく。
「魔力消失ね。大丈夫、魔力を送るわ」
一時的に信者となっているリルナにフランは魔力を送る。すぐに苦悶の表情は和らぐが、それでも意識はすぐに戻らなかった。
「日陰に」
「わ、分かったのじゃ」
メロディはリルナを抱えると斜面になっている砂漠の窪地に移動した。すぐに水をウンディーネから出してもらおうと思ったが、大精霊の姿は消えていた。
「ど、どうなっておるのじゃ?」
「気絶したことで召喚術が途絶えたんやないか?」
警戒を終え、戻ってきたサクラ。それに納得しつつもメロディは水筒に入っていた水を一応とばかりにリルナにかけておいた。
「それ、なにか意味はあるかな」
「ね、念のためじゃ。いや、しかし熱にやられた訳ではないんじゃったな。あ~、どうしよ神様」
「落ち着きなさい。こういう時こそ良い言葉があるわ」
「なんじゃ?」
「祈りなさい。信じる者こそ救われる」
「なるほど!」
というわけでメロディは両手を組んで天に向かって祈りを捧げた。
「ちょっとちょっと、こっちこっち!」
「あ、そうじゃった。フランさま、どうかリルナを助けてやってくださいなのじゃ」
「うむ! 聞き届けよう!」
心なしか嬉しそうなフランにサクラは肩をすくめつつ、それでもと多少は心の中で祈りを捧げる。
しばらくして目を覚ましたリルナは、大きく息を吐いた。
「玲奈ちゃんが死んだみたい」
「な、なんと……え、大丈夫なのか?」
驚きオロオロとするメロディだが、リルナは大丈夫とうなづく。
「召喚された者が深いダメージを受けた場合、強制的に送喚される。その際に、召喚者の魔力が大量に失われるの。だから、ウンディーネを召喚してた魔法陣の維持もできなくなって、気絶しちゃった」
「どえらいリスクやな。どうりで廃れるわけや」
思わずリルナはサクラを見てしまうが、こればかりはどうしようもない。召喚術という便利な魔法は、それなりのリスクの上に成り立っている。もしデメリットが無いのなら、今頃はみんな使っているはずだ。
それでなくともみんなの記憶から召喚術という存在が消されている今。そのデメリットを超えてでもリルナは使い続けるしかない。
「とりあえず、もう一度玲奈ちゃんを召喚するわ」
神様からもらった魔力の質に違和感をおぼえながらもリルナはマキナとペイントの魔法を起動し、召喚術を描く。二重起動を解除し、今度は純粋な魔力の流れを手に集めると、空中に描いた魔法陣に魔力を送り込んだ。
召喚陣が起動し、天月玲奈が再び召喚される。
その第一声は、
「死んだ」
だった。
「生きてるのぉ」
「生きとるやん」
メロディとサクラのツッコミに動じることなく玲奈は自分が死ぬような目にあった状況を説明するのだった。




