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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その21 ~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~

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~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~ 9

 小神とは簡単に言ってしまえば、地域限定の神様。フランジェリア・エキツビック・ラ=トトリサバクことフランはトトリ砂漠における最大限の権限を持っていた。


「うわ、すごっ!」


 思わず感嘆な声を漏らしたリルナは砂の上でジャンプしてみる。普通なら砂に足を取られて力が逃げてしまうのだが、まるで固い地面のように砂は微動だにしなかった。


「ふっふっふ。あなた達の歩く部分の砂だけを固めることくらい、私にかかれば造作もないことよ!」


 あっはっはー、とご機嫌な神様に対してリルナ、メロディは盛大に拍手した。歩きやすくなるのは大歓迎。これならば体力の消費も抑えられて行動がしやすくなる。


「ついでに太陽もどうにかならんのか?」


 足元の感触を確かめながらサクラは天を指差す。相変わらず砂漠に照りつける熱光は容赦がない。チリチリと肌を焼く熱さも砂漠の問題点のひとつだ。


「あ~、さすがにそれは無理。私はあくまでトトリ砂漠の神様だから」


 管轄外ね、と肩をすくめるフラン。


「小神の力は大神の影響力を覆せるほど強くないわ。それができるんだったら、それこそ大神よね。ほら、あの神様たちってレベル100超えてるし」

「おまえさんのレベルは?」

「せいぜい20ぐらい?」

「「ひくっ!?」」


 思わず叫んでしまったリルナとメロディに対してフランは唇を尖らせる。


「仕方ないじゃないさ! そんな仕事ないしさ~」

「仕事ってなんじゃ?」

「砂漠の管理。めっちゃヒマだよ? だって生き物もほとんどいないしさ。実力が上がるような仕事なんて全然ないんだから」


 そう言われてしまっては、確かに、と納得するしかない。神様といえど経験を積まなければ結局はただの生き物。


「大神のみんなは地上で経験も積んでるし、いろいろと冒険してきてるからイイけど、小神はみんなこんなもんだよ。だから今回、私はめっちゃ燃えている! やっと大きな仕事ができたんだからね! がんばってね! めっちゃ期待してるから!」


 フランは両手の拳をにぎりしめてリルナたちを応援する。その勢いに押されてリルナは少々後退した。対してメロディはその場で質問する。


「フランさまが自分で倒すわけにはいかんのかのぅ?」

「神様が地上の生物に直接手を出すのはダメなの。魂のバランスが崩れるわ。あ~、このバランスっていうのは個別の在り方じゃなくて、総数の話ね。私たちが手を出しちゃうとね、消失しちゃうのよ」


 魂がね、とフランは恐ろしいことを言う。それは無かったこにされる、という意味だ。本来、死んだモノの魂は、どんな形であれ基本的には天界へと向かう。神様のもとへと送られ、転生したり天界に留まったりする。死後の扱いはそれこそ神によって委ねられていた。

 しかし、それが否定されるのが神様が手を出した魂となる。死後は愚か、その魂は消失し、存在の根源から無かったことになってしまう。それはたとえ神様であっても、やってはいけない。たとえ異界のモンスターであれ、神様は地上の生物に手を出してはいけないのだ。


「なるほどのぅ」

「そうなんだ。神様って大変なんだね」


 神様事情にリルナは考えを改めた。神様の住む世界は、どこか平和で、何事もなく大平であり、神様が優雅に幸せに生きていると思っていたが……どうやらそうれではないようだ。人間と同じく、神様にも生活があって、それなりに苦労しているらしい。


「ほな、行くで」


 会話が一段落したところでサクラを先頭にフランの案内で砂漠を進んでいく。神様がいっしょに居るからか、不思議なことに起伏のあるはずの砂漠がなだらかになっていった。足も取られることなくサクサクと進んでいく。

 進む方角はおよそ西。地図によると、そちらもまた空白地帯。そもそもオアシスがあること事態が奇跡に等しいので、砂漠に空白があるのは当たり前だった。

 足取りは軽いが、それでも照りつける太陽の暑さはどうしようもないので神殿で召喚陣を描き、ウンディーネを連れての行軍となった。歩いては休憩をするのを繰り返し、夜を越えて、翌日の昼ごろ。ようやく目的地が見えてきた。


「これは……」


 リルナは思わず絶句してしまう。

 砂漠の風景といえば、基本的には白に近い色で覆われている。それなのに、目の前に広がる砂漠は真っ黒だった。ある地点から、まるで世界が変わってしまったように黒い砂で境界線が引かれている。


「黒い砂か」


 サクラが近寄り砂を手に取ってみる。それは確かに砂であり、サラサラと手からこぼれ落ちていった。特に不審な点もなく、ただ色が黒く染まってしまっただけ。黒い雨でも降ったかのような状況だった。


「熱を持っとるけど、これは太陽の熱やな。掘った場所は冷たいし」


 表面の砂を掘り進めても奥のほうは黒いまま。砂の中はヒヤリと冷たい。


「この黒さって、やっぱり魔神だよね」

「そうじゃな。見覚えがある黒さじゃ」


 リルナとメロディも砂を手に取ってみる。その不気味な黒さは、何度か戦ったことのある不気味な姿の魔神を思い出させる色。呪いがこぼれたように砂が染まっていた。

 そんな冒険者とは違って神様は黒に染まった砂漠を見渡している。この黒に染まった砂漠は把握していたのだろう。問題は黒に染めた犯人の居場所だ。それを探るように目を細めている。


「どこにおるんか、分かるか?」

「……ジっと止まっているようね。あっちだわ」


 フランが黒い砂漠を指差し、踏み出した瞬間――バシィッと衝撃が神様の体を貫いた。まるで砂漠が彼女を拒絶するように、神様の小さな体を後方へとふっ飛ばす。


「ぐあ……」

「ふ、フラン様!?」


 リルナは慌てて駆けよろうとするが、足が砂に取られて転んでしまう。神の加護が失われたらしく、砂は元の柔らかさに戻っていた。


「ぶえっ。か、神様!?」

「あ、慌てなくて大丈夫……あいたたたたた」


 倒れていたフランだが、すぐに体を起こした。


「どうやら黒い砂漠は、異界になっているみたい。自分のフィールドを形成しているのかしらね。あいたたた……あ~、リルナちゃん大丈夫?」

「だいじょぶです」


 起き上がったリルナはぺっぺと砂を吐く。それでも口の中がイガイガするのでウンディーネの水をもらってうがいをした。


「さて、どないしよか?」

「作戦会議じゃな」

「ぺっぺっぺ……賛成」

「さて、どうするどうする?」


 冒険者と神様は、小さく輪になって、砂漠のど真ん中で会議を開くのだった。


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