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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その21 ~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~

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~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~ 7

 にっこりと笑った神様に、リルナは唖然とするしかなかった。

 神とは、そのままの意味で神様なのだ。おいそれと地上に顕現しないし、声もかけてくれる存在ではない。元人間であるとは言え、その存在は人間よりワンランク上の上位存在となり、人間の生活に密接に関係する。

 たとえば、季節が巡る原因となる。

 たとえば、雨が降る要素となる。

 たとえば、花が咲くために必要となる。

 たとえば、人が生きていく糧となる。

 それら全てが神様がいて、神様が司っているからこそ成り立っているものであり、それら神様の偉業や成し遂げたことや助けてくれたことを布教するのが神官の役目だ。

 信仰こそが神の力になる。信者が多い神は、それだけ影響力をもたらす。このトトリ王国が暑い国であるのは太陽神の信仰が篤いからだ。


「うそ……」


 リルナは思わずつぶやいてしまった。

 以前、とある事件で彼女は神様の姿を見た。冬を司る女神、優しさと夜と静かさを象徴とする神、ディアーナ・フリデッシュ。

 心配そうに自分の神官を見つめていた彼女の姿は半透明であり、完全な顕現ではなかった。その姿を見せることだけでも珍しいのだが、それが完全な姿となっているとなれば、まったく別の話になる。


「うそじゃないよ。私はちゃんと、こうして、地上に降り立ったんだからね!」


 えっへん、と神様は胸を張る。

 その声をキッカケにして動いたのはサクラだった。呼吸音はゼロ。気が付けば女神に対して刃を振るっていた。全てが終わってから剣士の踏み出した衝撃音が遅れてやってくる。まるで床を踏み抜く勢いの一歩と、空気ごと斬ってしまいそうな斬撃。


「なっ――!?」


 驚く声はサクラの物。一刀両断されているはずの女神は、果たして顕在であり、その人差し指と親指で倭刀の刃を挟んでいた。


「ごめんごめん。ちょっとフレンドリー過ぎたかしら。落ち着け老体よ。あなたの疑いは良く分かるけど、相手の力量も測れないわけもないでしょ?」

「……そ、そうやった」


 珍しくサクラは混乱していたようだ。それも当たり前かもしれない。なにせ神様が目の前にいて気さくに声をかけてくるのだ。そんなもの自分が幻術にかかっていると疑うしかない。だからこそサクラは斬りかかったのだが、その刃は簡単に止められてしまった。

 もう、こうなっては疑いようがない。


「かみさま……なのか?」


 メロディの言葉に、神はうなづく。


「私はこの砂漠を司る小神、フランジェリア・エキツビック・ラ=トトリサバク。フランって呼んでちょうだい」

「ふ、ふらんさま?」


 そうそう、とフランはにっこりと笑う。


「ほ、ほほほ、ほんとうに神さまなんですか?」

「え~っと、あなた名前は?」

「り、リルナ・ファーレンスです。こっちがメローディア・サヤマで、そっちがサクラです」

「分かった。じゃ、とっておきの証拠を見せるわね」


 ようやく台座から飛び降りた神さまはリルナの前に立つと、その手をぎゅっと握った。


「リルナ・ファーレンス。あなたに神の加護を与えます」


 ぽわん、とほのかに光るリルナの体。それと共に、なにか温かい感覚が体中をめぐった。それは魔力の流れに良く似ている。普段は陰と陽を繰り返して交流状態になっている魔力の流れがすこしだけ『陽』に偏った感覚があった。


「こ、これって……!」


 フランは同じようにメロディとサクラにも同じく手を握って簡素な儀式を行った。メロディの体は輝いたのだが、サクラにはそれが見られない。


「……サクラ」

「な、なんや」

「あなた偽名ね」

「……さすがに神さまはごまかされへんか」


 フランは肩をすくめた。それ以上は踏み込む気がないようだ。それよりも、とリルナとメロディに振り返る。


「ふたりともこれで私の神官になったわ。神から声が掛かると神官になれる、っていうでしょ? あれあれ」

「じゃ、じゃぁ神官魔法が使える?」

「もちろんよ!」


 おぉ~、とリルナとメロディ。

 リルナはさっそくと自分の中に流れる魔力の変換回路を構築する。神官魔法は『陽』オンリーの魔力で実行される魔法だ。陰部分を反転させ、蓄積魔力回路を起動。さらにその魔力を清流し、綺麗で滑らかな魔力を抽出する。


「神官魔法『ヒール・ライト』!」


 本来ならばそんなに気合いを入れて唱える魔法でもないのだが、さすがに興奮が抑えきれないのか、回復魔法を全力で起動させてみた。淡く光るリルナ自身の体。それは神の奇跡のみが許した回復という自然現象を越えた魔法。小さな効果ではあるが、リルナの披露が確実に回復したのは確かだった。


「で、できたー! ほんとに神さまだっ!」

「信じてもらえた?」

「うんうん!」


 思わず神さまにフレンドリーに接してしまうが、フランは怒る様子もなくにっこりと笑った。それを見ていたメロディも、妾も妾も、と魔法を実行する。


「あっ……め、メロディは、ちょ!」

「ヒール・ライトぉ……ぉぉぉぉぉ――」


 自信満々に回復魔法を起動させたメロディは、自らの体力を回復しながらその場でぶっ倒れた。


「えええええええ、なんでー!?」


 もちろん神さまは驚くが、リルナは慌ててメロディが倒れるのを支えた。


「え~っと、メロディはシャレにならないほど魔力が少ないんです。回復魔法なんて、もってのほか……」

「そ、そりゃ大変だ。よいしょ」


 フランはメロディの体に手を当てると魔力を送り込む。魔法なしでやってのけるのは、さすが神様、なのかもしれない。白目をむいていたお姫様はすぐに意識を取り戻したが、魔力を送りすぎたせいで鼻血が噴出した。


「お、お、おおおおおお……?」

「メローディアちゃん……こんな量も耐えられないって」


 思わず神様が目をそむける程、才能の欠片もないらしい。リルナは苦笑するしかなかった。

 ひとまずメロディが落ち着くまで、と間を持たせるためかサクラが質問する。


「ちょっと気になったんやけど……お前さんは小神と名乗ったけど、それってなんや?」

「神様は二種類に分けられるわ。影響力が大きく強大な力を持つ神は大神。太陽神とか風の神とか。それと比べて私みたいな地域限定やその場所しか司っていない力の弱い神様は小神。私はここトトリ王国の砂漠を司る神様よ。だから、私が与えた神官の力は、この砂漠限定。私の力はその他の地域にまで届かないからね」

「え~、残念」


 リルナは不満の声を漏らしたあと、ハッと気づいて口をおさえる。あまりに普通に話してくれるのでフランを神様としてじゃなく普通の人として扱ってしまう。怒られるんじゃないか、と思ったけど、神様は肝要らしい。


「それぐらいじゃ怒らないよ。怒りを司る蛮族神だったら、今頃は首が跳ねられているかも、だけど」


 ケラケラとフランは笑った。


「よ、良かった。あ、それで……フラン様は降臨したのは、どうして?」

「それよそれ」


 フランはメロディに手を差し伸べる。鼻血を抑えるために血まみれになっていたメロディの手だが、神様は躊躇なく握って彼女を立たせた。


「本当は女王に頼もうと思っていたんだけど、手順が省けたわ。あなた達、冒険者よね」

「そ、そうじゃが?」

「神様からの依頼を持ってきたわ!」


 そう言って、フランは勝気な表情を浮かべるのだった。


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