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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その21 ~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~

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~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~ 4

 召喚術の中で無機物を陣から陣へと移動させるものは、送喚術とも呼ばれている。そもそも召喚獣との契約は果てしなく難しいので、訓練学校で教えられる最初の術でもあった。

 リルナが案内されたのは、トトリ城の中庭。穏やかに水が流れるその一角に大きくスペースが取ってあった。


「この大きさで間違いないですか? はみ出たりしたらタイヘンなことになりますから」


 スペースを管理するのはどうやら派遣されてきた大工さん達、らしい。神殿がある下に召喚術の魔法陣を描くのは不可能なので、まず召喚陣を描いてからその上に建築することになった。もちろんお城の中ということで衛視の人も立ち会っているのだが、基本的には大工さん達に任せるスタンスのようだ。


「これでも充分な大きさよ。まずはみ出ない、っつうか、はみ出さないようにするのが俺らの腕の見せ所だな」


 がはは、と大工さんのリーダーらしき男性が笑う。力仕事をこれでもかと表した体は、そんじょそこらの冒険者ルーキーでは敵わない肉体だった。もっとも、力仕事と戦闘は別であり、勝負したところで結果は見えているが。


「わかりましたっ。では、送喚陣を描いていきますね」


 スペースの中心に立ったリルナは、身体制御呪文『マキナ』を起動させる。同時に指先にペイントの魔法を起動させた。

 召喚士が極端に不人気となっている要因が、この魔法の二重起動だ。そもそも魔法を行使する上で体内を巡る魔力は陰と陽を繰り返している。つまり、光属性と闇属性を行ったり来たり。そんなプラス要素とマイナス要素をどちらかに偏らせて魔法は発動する。

 その行程を、リルナは二重で行っている。ひとつしか無い魔力ラインを二重にして、それぞれ別の回路に流しているのだ。


「妾には一生かかっても出来ん芸当じゃ」


 魔法の才能がマイナス側に片足を突っ込んでいるメロディは、リルナの魔法起動を見てつぶやいた。今の彼女は真似どころか、ひとつの魔法行使すら不可能なほどに魔力が無い。せいぜい指先を光らせた程度で魔力切れを起こし倒れてしまうだろう。


「お姫様はその代わり、剣の腕があるやないか。そっちの才能はあると思うで」

「サクラに言われれば嬉しいのじゃが……いまいち信用ならん」

「え、なんで?」

「いや、だってのぅ」

「ウチの言葉に信頼がない、っちゅうことか」

「うん」

「うん、って……ひどいなぁ」


 ケラケラとサクラとメロディが笑う中で、リルナはメロディのバスタードソードの鞘を使って地面に真円を描いていく。ペイントの魔法を指から鞘を発動体として移動させたのだ。これもまた魔法の応用でもある。

 魔法の発動体として良く利用されるのが杖だ。その先端に宝石を埋め込んだものや、その杖の材質自体が魔法を良く通すものであったりと、魔法使い用にカスタマイズされている。基本的にはどんな物でも発動体にすることができ、なんならその辺りに落ちている小石でもいい。

 魔力を火属性に変換し、発動体とした小石に送り込めば燃える石の完成だ。あとは投げつければ簡易ファイアーボールの完成だ。もっとも当てることができれば、の話だが。


「でーきたっ!」


 三重に描かれた円の中に神代文字が書き加えられていく。外側の円には召喚術を構成するための魔術的要素を書き連ね、二つ目の円には送喚する物の情報を書き、中心円には無機物を示す神代文字が記される。

 それらは白く光り、たとえ踏んだとしても消失はしない。消す方法はリルナ自身による魔術消去か、別の魔力をぶつけて対消失させる方法がある。


「もういいですよ~」

「あいよー。お前ら仕事の時間だ」


 リーダーの合図で大工の青年たちが元気に声をあげた。さっそく資材が運び込まれ、小さな神殿が建築されていく。魔法陣の上をドカドカと移動したり物を置いたりするが、光る線は消えることはない。


「おー、はじまっておるのぅ。うむうむ、良いことじゃ」


 手で日差しを作りながら現れたのはトトリ女王だった。相変わらずの褐色肌だが、謁見の間で会ったような露出の多いものではなく、真っ白な絹で作られたワンピースを着ていた。それはそれでコントラストになって綺麗なのだが、あまりのイメージの違いにリルナたちはギョっと女王を見てしまう。


「な、なんじゃなんじゃ? 妾が来てはダメじゃったのか?」

「あ~、いえ。別にいいんだけど――」

「トトリ女王よ。先ほどの格好と随分違うようじゃが、それが普段着とすると、アレはなんじゃったんじゃ?」

「そう、それっ!」


 メロディが言いたいことを的確に言ってくれたので、リルナは便乗する。てっきり普段から、あのような砂漠の女王っぷりを発揮しているのかと思ったが、違ったらしい。


「あ~、アレのぅ。あの服は女王の正装と決まっておってのぅ。恐ろしく恥ずかしいので、できれば着たくないのじゃ。なんじゃろうな、こう、淫靡じゃろアレ」


 淫靡、という言葉はリルナは良く分からなかったが、しかしなんとなく理解できたので、メロディ共々、うんうん、とうなづいた。


「正装やったら仕方がないな。仕方がない仕方がなーい」


 対してサクラはなぜか嬉しそうだった。もしかしたら、イヤイヤ着ていたという事実が、元爺の琴線に触れたのかもしれない。


「なぜそんな正装にしたんじゃ。恥ずかしいのならば王冠だけでも良いじゃろうに」

「簡単に変更できたら苦労はせんぞ、領主の姫よ。お主、母親が決めたルールを自分の代で簡単に変えられると思ったら大間違いじゃぞ」


 気をつけろよ、とトトリ女王は笑う。


「と、言いますと?」

「初代国王が決めたのじゃ。もしこの先、我が国に女王が誕生した際の正装はこれにする、とな。信じられるか? 自分の子孫に破廉恥なルールを押し付けるなんて、滅びてもおかしくはなかったぞ」


 しかし、実際に滅びはせず、トトリ国は健在だった。その領土のほとんどが砂漠という不毛の大地ゆえか、はたまた女王の手腕か、女王の美貌のお陰か。

 リルナにはその理由を推し量ることもできなかったが、難儀やな~、と嬉しそうに笑うサクラに同調して苦笑するしかない。


「なるほどのぅ。トトリ女王の心労、妾も忠告として受け止めるのじゃ」

「うむ。お主の母上も奇抜じゃしのぅ。気を付けておいたほうがよいぞ」

「確かに。アレじゃな、少年がメイドしておるのもそのせいか。ほとほと初代国王は変わった趣味というか倒錯しておるというか、そんな人物だったんじゃなぁ」

「ん?」

「ん?」


 トトリ女王が首を傾げたので、いまどこかおかしなこと言ったかな、とお姫様も首を傾げた。


「少年メイドは妾の趣味じゃぞ」

「前言撤回じゃ。この国、おかしい」

「え~! 少年は愛でるべきじゃろう! 特に美少年! かわいさと儚さ、それでいて弱弱しさよりも強さを感じさせる。そんな美少年がメイドじゃぞ! 完成されておる。それひとつで一種の芸術の完成形じゃ! 素晴らしいじゃろ」

「同意じゃが、強要はよろしくないぞ、トトリ女王よ!」

「強要はしておらぬ。志願じゃ! 自ら美少年たる存在であり、自らメイドになりたいと思った者のみを雇っておる!」

完璧パーフェクトじゃ!」

「で、あろう!」


 女王とお姫様は固く握手するのだった。


「……り、理解していいのかしら」

「いや、ウチに聞かれてもなぁ」


 トトリ女王とメローディア姫の言い分に、諸手をあげて賛同してよいのかどうか。平民であるリルア・ファーレンスは、首を傾げるばかりで結論を出せないのであった。


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