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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その21 ~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~

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~あぁ新米女神さまの冒険みたいな~ 1

 キキン島の隣にあるユゴチーク島。

 島の北東にある砂の王国『トトリ』の名も無きオアシスにおいて、リルナとメロディ、そして大金を手にしてホクホク顔のサクラは、そのままテントで一晩を過ごした。

 というのも、砂漠の只中にあるオアシスに資材を持ち込むのは難しいらしく、建物は乏しい。宿泊できる宿はいっぱいで、冒険者の宿など存在するわけもなく、簡易テントで一晩過ごすことになった。

 ちなみに同行者のクリア・ルージュも一緒のテントに泊まっている。彼女も簡易テントを持っているらしいが、メロディ大好き、という宣言のもと、お姫様を抱き枕にしてしまった。

 そんな一夜が明けるころ、なぜかメロディではなく自分がクリアに抱き枕にされていたのにビックリしながらも、起き出したリルナはテントからもぞもぞと這い出した。


「ん~……朝だ」


 空はまだ瑠璃色。正確には朝の一歩手前だが、そろそろ太陽が顔をのぞかせてもおかしくはない。砂漠の熱もさすがに夜の間に冷やされたのか、涼しい風が髪を撫でていった。


「あ~、朝から元気だね」


 オアシスの水で顔を洗おうと移動すると、そこにはテントには無かったお姫様の姿。どうやらブレイク・マッシュに稽古を申し出たらしく、鞘付きのバスタードソードで戦っている。

 どう打ち込んでも二撃目の前にマッシュの拳がお姫様の顎にピタリと添えられる。そのたびに仕切り直していた。

 オアシスのそばに置かれたメロディの鎧を見てリルナは肩をすくめる。超貴重なマジックアイテムであるはずのヴァルキリー・メイル。それを無造作に置いて夢中で鍛錬できる様は、大物なのか、はたまたマヌケなのか。判断のしようがなかった。


「おはよ~、メロディ。マッシュさんもおはよう」

「うむ、おはようなのじゃ」


 メロディの挨拶の後にぺこりとマッシュはお辞儀をする。快活紳士らしい姿は、むしろモンスターにしておくのはもったいない。彼の前世は英雄であったのではないか、とも思えたリルナだが、それを確かめる術はない。

 ふたたび鍛錬に戻るお姫様とキノコを横目にリルナはオアシスの水で顔を洗う。水浴びもしたい気分だが、さすがに他の人もいるので遠慮しておいた。


「ふ~、サッパリした」


 ようやく目が覚めた、とリルナが大きく伸びをしていると、ぜぇぜぇはぁはぁ、と息を切らした呼吸音が聞こえてくる。

 なんだ、と思ってリルナが目を向けると、ひとりのメイドさんが息も耐える勢いで膝に手をついて呼吸をしていた。


「はぁはぁ、うあ、り、いうあ、あ、はぁはぁはぁはぁ、おへあい、ふあああ、い、た、はぁはぁはぁはぁ……」


 どうやらメイドさんはリルナに用事があったらしいのだが、その内容は呼吸が荒すぎて聞き取れない。


「ちょ、ちょっと落ち着いてっ。ほ、ほら、水のんで水ッ」


 リルナが立ち上がってメイドさんの体を支える。そこで気づいたのは、メイドさんの身長は結構低いということ。いつもサヤマ城で見かけるメイドさんは、みんなリルナよりの年齢も身長も上。しかし、目の前のメイドさんはリルナと同じくらいの身長だった。

 それに加えて――


「あれ、男の子……?」


 ちょっとした違和感をおぼえたリルナ。支えた感じや手の作り、そして肩幅に加えて全体的な骨格とフォルム。それらが同年代の少女のそれと少しばかり違ってみえる。

 それでも彼がミニスカートで白黒のゴシックなタイプのメイド服が似合うのは否定できない。美少女ならぬ美少年。そんな彼が口から唾液をこぼして息を整えている様は、ちょっとした加虐心を少女の心に植えつけようとするが、召喚士はそれを常識という名のバリアーで防いだ。


「お、落ち着いて。ほら、水は飲み放題だから」

「うあ、あい」


 少年メイドはそのまま膝をつくと、お尻を突き出すようなポーズでオアシスに顔を突っ込んだ。ごっくごっくと喉を鳴らして水を飲む様子は、よっぽど喉が渇いていたことを示す。恐らく砂漠を走って移動してきたのだろう。無謀にも思える行動だった。


「……」


 そんな少年メイドの姿を見ながらリルナはこっそりと後ろからミニスカートの中身を覗いてみる。


「……男の子でした」


 あるべきものを確認したあと、素早く彼の横にもどる。


「ぷはぁ!」


 ようやく顔をあげた彼は、がくがくと震える足をぺたりと地面に投げ出し、しばらくぜぇぜぇはぁはぁ、と息を整えた。


「だいじょうぶ?」

「……は、はい。ありがとうございました」

「それで……君は何者?」

「あっ、申し送れました。僕はトトリ女王からの命により冒険者リルア・ファーレンスさまにお城まで来てもらうように派遣されてきました」

「お城って……トトリ城?」

「はい、その通りです。どうか、女王陛下に会って頂けませんでしょうか?」


 よろしくお願いします、と少年メイドは頭を下げる。


「は、はぁ……え~っと、どういうこと?」


 もちろんリルナはトトリ女王と面識など無い。もしかしたらメロディの知り合いなのかな、と思ったけれど、もしそうならばリルナの元にではなくメロディに伝えているはずだ。それがサクラの場合でも同じ。


「どうしてわたしが……え、なにかしたっけ」


 トトリ女王に目を付けられる理由なんてどこにも無い。なにか悪いことでもしてしまったのだろうか、と不安になるリルナだが、少年メイドは首を横にふった。


「いえいえ、リルナさんたちに依頼があるそうです」

「依頼?」

「はい。冒険者に頼みたいことがある。それを伝えに行け、とトトリ女王に命令されました」


 しかも今すぐに、ということで砂漠を全力ダッシュしてオアシスまでやって来たそうだ。


「来ていただけます?」


 ちょっぴりウルウルと瞳を揺らす少年メイドの美少年さに、またリルナの中で悪い気持ちが首を持ち上げた。


「それ、断ったらどうなるの?」

「こ、困ります! 女王陛下になにをされるか分かったものじゃないですよぉ!」

「罰を受けちゃうんだ」

「はいぃ。なので、よろしくお願いします!」

「う~ん……どうしようっかな~」

「えええええええ!」


 リルナが悪いのか、それとも加虐心をあおる少年メイドの美少年っぷりが悪いのか。しばらく悪い顔をしつつもったいぶって少年で遊ぶリルナだったが、ちゃんと了承してトトリ城へと移動するのだった。


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