~名前があると強いんだって~ 14
オアシスに落ちたサクラがようやく上がってきた頃には、すでに観衆の盛り上がりは納まっていた。ひとしきり称賛の拍手を浮け、ブレイク・マッシュは丁寧にお辞儀をしてから、投げ入れられたお金を回収していく。
「景気のいい話やなぁ、まったく」
はぁ、とため息をついてからサクラはキモノを脱ぐ。それなりの美少女がそれなりに裸になりつつ上がってくるとあって、男性陣の盛り上がりは再び向上していくのだが、やや気まずさも相まってみんなの心の中だけで最高潮だった。
「……えらい静かになったな」
その原因が自分にあるとは思わず、サクラはとぼとぼとリルナたちの元へと移動した。
「お疲れさま、サクラ。で、女の子代表で言わしてもらうけどさ」
「なんや」
「堂々と脱いでくるなっ!」
「……あぁ、それで!」
納得いったかのように、ポンと手を鳴らす。
残念ながらリルナとメロディと違って、サクラの肉体はそこそこ成長している段階で、呪いが体を蝕んでいる。つまるところ、ギリギリ大人といえる体なわけだ。少女のそれとは違って、純粋な男たちの劣情を誘っていることには間違いがなく、観衆がやけに静かになった理由もそこだった。
「サクラよ。お主、女であることを忘れておったな」
メロディがにやりと笑う。
その言葉通り、サクラは戦闘に集中するあまりに自分の性別が反転していることを失念した。そこまでさせたブレイク・マッシュも凄いが、そこまで集中できるサクラもまた凄い。忘我の境地は、簡単に至れる場所ではなかった。
「ま、久しぶりに本気だしたさかいなぁ。それでも、剣やのぅて徒手空拳。ウチがホンマの本気でやったら、どうなるか分からんで」
確かに、とリルナは思う。けれども、そんな機会は二度と訪れないんだろうな、とも思ったのでなにも言わずに肩だけすくめた。メロディも同じ思いだったのか、そうじゃのぅ、と相槌を打つ。
唯一、クリアだけがそんなサクラに楽しみだと伝える。
「サクラちゃんの本気の本気、見てみたいものですわ。もっとも、その時には誰か死んでそうな気がしますが」
「せやな」
サクラが本気で剣を抜く時は、そういう意味をもたらす。できればそんなことが無いようにしたいものだが、冒険者をやっている以上、いずれ訪れる未来かもしれない。
そんな風に雑談をしていると、お金を回収し終わったブレイク・マッシュが近づいてきた。いよいよ報酬をもらえる時。ちょっぴり緊張して、サクラよりもリルナがごくりと喉を鳴らしてしまった。
「さて、ウチの価値はどんなもんや?」
物を言えぬキノコは、言葉の変わりにお金を差し出した。全てガメル硬貨でジャラジャラとサクラの両手の上に降り注ぐ。
「おぉ~、ちょっと間って。数えるからな」
砂の上に硬貨を置いてサクラは値段を数える。ガメル硬貨といっても、刻まれている数字と分厚さによって値段は変わるのだ。1ガメル、10ガメル、50ガメル、100ガメル、500ガメルと五種類有り、500ガメルが一番分厚い。
「8000ガメルか……もう一声くれへん?」
ちょっぴり物足りないサクラは、人差し指を一本立てた。八千でもそこそこの稼ぎになるのだが、まだ納得いかないらしい。
「妾は1ガメルじゃぞ。贅沢な話じゃのぅ」
「ほんとほんとっ!」
メロディとリルナの抗議に賛同してか、マッシュも首を横に振る。彼なりの相場があるのかもしれない。
「う~む、仕方がない。自分で稼ぐか」
「え、どうやって?」
リルナの質問にサクラはニヤリと笑う。そして、リルナの干してあったスカートを取ると、腰側を折り畳んでベルトで縛り、簡易的な巾着袋にする。そして、上着を完全に脱ぎ捨てると下着一枚の状態で、観客に向かって歩き始めた。
「やぁやぁ、お前さんたち! ウチにもおひねり放ったって~なぁ。頼むわ~」
と、猫撫で声。おぉ~、とどよめく男性陣。
「結局ソレっ!?」
「娼婦で稼ぐんと、そう変わらぬぞ、サクラ」
「あ、結構もらえてますわよ、アレ」
元爺のしたたかなお金回収行為。
さすがのブレイク・マッシュも目を覆うのを忘れ、肩をすくめるのだった。




