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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その20 ~名前があると強いんだって~

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~名前があると強いんだって~ 8

 乗り合い馬車から見える風景は他国とはぜんぜん違っていた。なにせ、遠くに見えるのは山や海、というのではなく砂。遠くに広がる砂漠の風景がゴトゴトと揺れる幌の中から見える。街道の周囲には植物があるのだが、それが段々とうすくなっていき、最後には白に近い砂だけになってしまう。


「すごいね~」

「すごいのぅ」


 砂漠を見るのが初めてだったリルナとメロディ幌から身を乗り出す勢いで風景を見渡す。白い砂は夏の光を照り返し、それがより暑さとなって返ってくるのだが、少女たちには関係ないようだ。


「元気やな~」

「ですわね」


 そんな召喚士とお姫様と対照的なのはサクラとクリア。元お爺ちゃんというだけあってサクラは基本的に移動中は寝ている。船では釣りに興じていたが、普段は面倒だと言い張ってなにもしない。

 クリアはその肌の白さゆえか、日差しの下に出るのを嫌がった。大きなツバの広い帽子も日傘も彼女の真っ白な肌の証明ではある。昼間はあまり活動的ではないが、夜になると元気になってメロディを抱きしめていた。


「若いですなぁ。年寄りに砂漠の熱は厳しいものですわい」


 いっしょに乗り合わせた商人のお爺ちゃんと一緒にサクラは苦笑する。彼の他にも冒険者らしき青年がいるのだが、こちらは無口。孤高のヒーローなのかもしれない。ソロの冒険者は非常に厳しく、生き残れるのはわずか。彼はそこそこの実力者なのかもしれないし、もしかしたら仲間と合流する途中なのかもしれない。なにせ、なにも語らないので想像するしかなかった。

 そんな幌の中のメンバーに加えて御者席の男性の組み合わせでトトリ国城下街を目指す。その道のりは二日ほど。夜には他の馬車や商人、通りがかった冒険者たちと野宿をしたり、途中の川で水浴びをしたりと、そこまで急ぐ旅路ではなかった。


「ほーい、お前さんら。もうすこしで城下街につくぞー」


 そんな御者の言葉にリルナとメロディは幌から顔を出す。そこには、雄大な砂漠を前にして立つ褐色の城がそびえ立っていた。


「おー!」

「すごい景色なのじゃ!」


 トトリ城下街は、砂漠の入り口にある大きな街だった。街道側には植物があるが、それ以外の三方はもう砂漠の中。城下街にも関わらず外壁がないのは、ひとえにモンスターや蛮族の少なさの証だろう。

 なにせ砂漠に生命は少ない。危険な土地には、危険なモンスターも存在するが、基本的には環境のほうが先に牙を剥く。だからこそ、トトリ国は砂漠という国を選んだのかもしれない。こんな土地は、誰も欲しがらないから。


「トトリ城下街へ、ようこそ」


 入り口らしきゲートには、一応とばかりに警備の兵士が立っている。だが、その装備は薄く、防御する気なんて更々感じられない。敵よりも太陽を優先した結果の装備にどうかと思うが、そんな彼は幌の中を検めようともしなかった。


「素通りなんだ……」


 ちょっと危険意識が低すぎるんじゃないか、とリルナは思う。これでは街に危険物を持ち込みたい放題だ。どんな事件が起こるかも分からないのに、この警備では頼りない。


「信頼があるんやろ。この乗り合い馬車と」


 サクラの言葉に、そうなの? とリルナは御者席の男性を見る。そんな彼は話が聞こえていたのか、ヒラヒラと手を振った。


「そうらしいのぅ。つまり、妾たちは安全じゃと認識された訳じゃな」


 見る目があるのじゃ、とメロディはご機嫌な様子で小さな胸を張った。

 ともかくとして、乗り合い馬車は街へと入ると、すぐに右に折れて停車する。馬車の振動が収まるとリルナたちは外へと降りた。


「まいどー」


 挨拶して休憩に入る男性に、ありがとう、と手を振ってから一同は本日の宿を探すことにした。


「パンプキンヘッドはここから遠いのかのぅ」

「ポテトからかぼちゃになってしまいましたわ……パンプキンではなくポテト……じゃなかった。キノコですキノコ。ブレイク・マッシュ」

「そう、そのマッシュキノコは遠いのか?」

「トトリ城下街から砂漠に入り、近くのオアシスに滞在しているそうですわ」

「た、滞在……」


 砂漠に歩くキノコの姿を想像するが、どう考えても砂地におぼれる姿しか想像できず、リルナは首をかしげた。


「明日の朝から砂漠に入りましょう。今日は宿ですわ。久しぶりにお風呂に入れるところがいいですわね」

「ウチはお金がないで」

「野宿する?」


 リルナの提案にサクラは、えぇ~、と抗議した。お金が無いくせに主張だけはするようだ。


「一部屋分は私が出しますわ。もちろん、メロディちゃんと相部屋で」

「あ、それなら安くできそうだねっ。じゃぁ、わたしとサクラで一部屋にするよ」


 それでいい、とサクラ。メロディは諦めたように肯定した。


「うふふ、うふふふふふふ。メロディちゃんと、お・ふ・ろ~♪」


 クリアはご機嫌な様子でちょっと良い宿を探す。まず見つけたのが『呼び笛の調べ亭』という妙な名前の宿。砂漠の街ということもあってか木造ではなく石造りの宿で、部屋は空いていた。


「それでは、明日の朝まで自由時間ということで」

「リルナ、サクラ。妾は今夜で大人になるやもしれぬ。明日の朝、妾を立派にむかえてくれ。じゃなかったら妾は死ぬ。クリアを殺して妾も死ぬ」

「いやーん、メロディちゃんに殺されるぅ~!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!」


 と、悲鳴を残してメロディはクリアにさらわれていった。バタン、と部屋の扉がしまって、殊更はっきりと鍵をしめるガチャンという音が廊下に響いた気がした。


「……神様にお祈りする方法をリリアーナに聞いとくんだった」

「夜と静寂を司るディアーナ・フリデッシュ神は寛大や。どんな方法でも耳を傾けてくれる。そう信じるしかあらへんな」


 というわけで、リルナとサクラは各々勝手な方法で祈りをささげるのだった。


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