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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その20 ~名前があると強いんだって~

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~名前があると強いんだって~ 7

 気持ちの良い夏の晴れた空。

 数日間の船の旅を終えて降り立った港にて、リルナは思い切り腕を空へと向けて伸びをした。


「ん~……!」


 別に船が窮屈だったわけではないが、それでも一日中揺れ続ける船に数日間も乗り続けるのはストレスのかかるもの。久しぶりの揺れない大地もありがたく、今までの鬱憤を空へと解き放った。


「よ、ようやくついたのぅ」


 晴れやかなリルナに対してメロディはちょっぴりげんなりとした顔で笑う。なにせその隣には永遠にクリア嬢がまとわり付いていたのだ。釣りに興じるヒマもなく、ふたりは永遠に客室内にこもりっきり。隙あらばメロディを舐める、という訳の分からない愛情表現のマッパーにお姫様はほとほと疲れきっていた。


「素晴らしい船旅でした。いつもこうであればいいのに」


 メロディとは違ってクリアの表情はホクホク。まるでとびっきり長い休日に思い切り羽を伸ばしてきたかのような表情だった。


「いやぁ、ついたなぁ。無料の船旅は良いもんやな」


 サクラも船から下りて腕を伸ばす。ノンキに釣りを楽しみ、釣れた魚で船乗りとさしみや干物を作ったりして時間をつぶしていた。


「無料じゃないやいっ」


 サクラの船代は無かったので、リルナが立て替えておいた。こんな時にパーティ共有財産があったら良かったのに、と思ったがまだ設立はしていない。お金の問題はシビア。縁の切れ目にもなるし、争いの種でもある。他人のお金を預かるには慎重にならざるを得なかった。


「わかっとるって。お金がもらえたら返すから」


 サクラは手をヒラヒラとさせてから適当に歩き始めた。


「も~っ!」


 リルナはひとつため息をついてから周囲を見渡す。

 現在地はユゴチーク島のトトリ国にあるサー・カイン港街。ユゴチーク島はリルナたちのいるキキン島から西にある島で、その中のトトリ国は砂漠の国として有名だった。国土のほとんど砂で覆われているという話だが、港に降り立った感想としてはいつも通り。遠くに見える砂浜程度であり、そこも海からのモンスターからの襲撃にそなえて壁が設置されている。

 もっとも、海モンスターも海蛮族も、わざわざ死にに街を襲うことも昨今では少ないが。せいぜい迷子の子供を海に引きずり込む程度だろう。


「サー・カインっていうぐらいだから、サヤマ女王と一緒かな」


 サヤマ城下街の正式名称はサー・サヤマ領・サヤマ城下街。サーとは国王や貴族から与えられる称号であり、名誉の名前だ。


「この街も英雄殿が作ったんじゃろうな」


 もしかしたら自分と同じ境遇の子供もいるんじゃないだろうか、とメロディは思ったがすぐにその考えを引っ込める。自分ほど稀有な存在はいない。冒険者から成り上がりサーの称号を与えられ領地まで手に入れた者の娘。しかし、そこに血の繋がりはない。

 腰に携えた雑種という名のバスタードソードが良く似合う冒険者などメローディア姫以上に存在しないだろう。


「クリアちゃん、そのマッシュポテトだっけ? そいつはどこにいるのっ?」

「マッシュポテトじゃなくて、ブレイク・マッシュですわリルナちゃん」

「あ、それそれ」


 ネームドモンスター、ブレイク・マッシュ。マッシュ部分を強く覚えていたリルナだが、いつの間にかキノコがポテトに変貌していた。


「歩くキノコだっけ」

「そうそう。土に埋まっている芋ではなくて、自立して歩くキノコですわ」


 クリアの説明に、リルナは改めて想像してみる。

 歩くキノコ。そんなモンスターがいるのは知っている。地域によってはお化けキノコと呼ばれていたり、ウォーキング・マッシュルーム、という名前もあったりする。キノコの軸部分から手と足が生えて、ウロウロと自立して歩くモンスターで口は無い。その明確な目的はもっかアカデミーでも謎とされているモンスターであり、人間や動物を見つけると襲い掛かってくる。ただ、やはりキノコはキノコ。その手も足も柔らかい。しかも、大きい種類であってもせいぜいが膝くらいの高さ。

 つまり、歩くキノコはとても弱いモンスターなのだ。


「本当にネームドモンスターなの?」

「あら、私が嘘を言うメリットなんてあるかしら?」

「メロディを好き放題にできる」

「……ありましたわね」


 自信満々に答えたもののこれは失敗だった、とクリアはようやくメロディから離れた。はふぅ、と息をはくお姫様の姿はちょっぴり可愛らしい。


「どうしてそんなにメロディが好きなの?」

「あら、リルナちゃんはこんなにも素晴らしい仲間を持っているのに気づいてないのですか? あの勇ましい姿は、さすがの私も心の宝石箱の予約席を蹴散らしてでも収めておきたい姿でした。右がダメなら左で。ではなく、右がダメなら左も壊してしまえ。あんな姿、普通の人間ではありません。特別ですわ。そして、なによりステキで美しくて羨ましくて耽美で情緒で狂おしくて、あぁ~!」


 もう我慢できない、とばかりにクリアは再びメロディに抱きつく。そのまま彼女を抱き上げると、頬をぴとっとくっ付けた。それが一番の愛情表現らしい。


「リルナちゃん、メロディちゃんを私にくれないかしら?」

「ダメ。ていうか、女王に殺されちゃうよ?」

「勝つ自信がありますわ」

「うぞっ!?」


 堂々とレベル90に勝つ宣言をしたところで、港から出る。サクラの手にはいつの間にか屋台で売られていた魚の串焼き。間にネギが挟んであり、鳥肉の代わりに魚が使われていた。港街ならではの地元料理なのかもしれない。


「それで、マッシュルームはどこにおるんや?」

「ですから、ブレイク・マッシュです。情報によるとトトリ城下街の近くだそうですわ」

「砂漠の移動?」

「いえ、国土のほとんどが砂漠というトトリ国ですが、そうではない部分もあります。幸いにして、サー・カイン港街からトトリ城下街までは砂漠ではありません。普通に街道がありますので乗り合い馬車でも見つけましょう」


 クリアの言葉に、リルナとメロディは素直に、はーい、と返事をする。サクラは焼き魚を食べるのに夢中だった。お金もないのにどうやって貰ったのかは分からないが、ちゃっかりしているサクラを先頭にして、一同はトトリ城下街を目指すのだった。


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