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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その20 ~名前があると強いんだって~

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~名前があると強いんだって~ 2

●サクラ(212歳)♀(♂)

 旅人:レベル91 剣士:レベル8

 心:凄く多い 技:凄く多い 体:多い

 装備:倭刀『クジカネサダ』 フリフリのエプロンドレス 赤いリボン ハートのぱんつ

 翌朝。

 宿に所属する先輩冒険者の方々と共に一階のアルコール漂うテーブル席にリルナとお泊りしたメロディが座ると、フリルたっぷりのエプロンドレスを装備したサクラが注文を取りに来た。


「……お、おはようございます」

「ずいぶんと可愛い趣味になったものじゃな、爺殿」

「……なにも言わんといて」


 いつも適当な紐で結わっているポニーテールも、真っ赤なリボンになっており、美人度が急激にかわいい度に変換されていた。げんなりとしたサクラの表情に対して、カウンター奥でカーラが正反対の満足そうな表情を浮かべていた。


「なにがあったの、スカイ先輩?」


 隣のテーブル席の先輩パーティのリーダーにリルナは質問する。


「カリーナ先輩と呼べっての。罰ゲームらしいよ? 調子に乗った罰として、いつものキモノを没収だって。お金ないから自分で買えないらしくて、カーラさんが用意したアレを着るしかないとか……」


 魔法使いにして前衛を務める変わり者は、先ほど入手した情報を教えてくれた。リルナたちから遠いテーブルに座っているエルフ女史がとても良い表情をしている。リボンとお化粧は、もしかしたら彼女の趣味なのかもしれない。

 そんなミニスカートでフリフリなサクラを見物しつつ、イフリート・キッスの面々は朝食を楽しんだ。そこから先は依頼の確認。掲示板に張り出された依頼書を確認し、先輩方は冒険に出発するパーティとお休み組に分かれる。


「いってきまーす」

「はいよ、気をつけて」


 あくびを噛み殺しつつ、冒険に出発するパーティを見送ったカーラは、いつも通りにあぶれてしまったリルナ組をみてため息をついた。


「またおまえらか」

「もっと、こう、手ごろな依頼はないのかのぅ」


 メロディは唇を尖らせるのもムリはない。掲示板に残った依頼は、リルナたちにはちょっと荷が重い依頼ばかりだ。かわいいフリフリのドレスを揺らしながらサクラが吟味しているが、結果は変わらないだろう。


「ウチひとりやったら……いや、しかし……うむぅ……」


 借金生活が続く限り、エプロンドレスがつづく。その地獄を終わらせるためにサクラは一刻も早くお金を手に入れたかったのだが、そのために命を落としたのでは意味がない。ましてや仲間を危険に陥れるわけにもいかず、掲示板の前でうなり続けるしかなかった。


「あきらめてギルドにいったらどうだい? それとも情報屋か。ここを抜けて娼館に行くのもオススメするぞ」

「サクラってどうなんじゃ? 男もイケちゃったりするのかのぅ」

「アホか! ウチは死んでも男に抱かれる趣味はないで!」


 うへへ、と笑うカーラとメロディに対してサクラは全力で否定した。朝っぱらからキツイ下ネタにリルナは苦笑するしかない。


「しゃぁない。ギルドに行くでリルナ、メロディ。あ、そうやカーラ、せめてベルトだけでも返してーな」


 エプロンドレスでは倭刀を装備できない。ずっと手に持っているわけにもいかないので、カーラはカウンター下からホレとサクラに手渡した。


「ついでにぱんつも返してぇな」

「ダメだ。見られる恥と羞恥心を取り戻してもらうぞ、お爺ちゃん」


 ぐぬぬ、とサクラはうつむく。


「ぱんつ?」

「今はどんなのじゃ?」


 気になったリルナとメロディはサクラのミニスカートをめくってみる。そこにはかわいらしいハートの絵が施された下着があらわになった。


「あ、かわいい」

「しかも良い生地じゃの」


 どれどれ、と前側も見ていると、そちらには赤いリボン。貴族のお姫様がはいているような、特注品の下着だった。


「なんでカーラさんはこんなの持ってたの?」

「趣味だ」

「……なるほど」


 胸元がガッツリあいたドレスを常時着ているカーラだが、堂々と言い切られたら仕方がない。むしろ女性冒険者への嫌がらせと罰ゲーム用に用意している気がして、苦笑するしかない。サクラみたいな存在にはこれ以上ない精神的ダメージだ。


「妾も欲しいのぅ。カーラよ、一着ほど譲ってくれまいか」

「おまえは持っているだろ、お姫様。それともなにか、あの女王は娘の下着には金をかけない性質なのか?」

「まったくその通りなのじゃがな。母上は下着にお金をかけてくれぬが、メイド長は色々と買ってくれるぞ。しかしのぅ」


 メロディはそこでため息をひとつ。


「なぜか肝心な部分に穴があいておったり、布面積が極めて小さかったりするものばかりじゃ。酷いものじゃと紐だけしかないのとかな。というわけで、妾はシンプルなものばかりじゃよ」

「今すぐ逃げてしまえ」


 カーラは呆れつつ、どうしてメロディが良く泊まりにくるのか理解できた。彼女からお金は取らないでいてあげようと心に誓う。変わりに爺の部屋代を値上げしようかとも考えたが、そこは公平を保つために却下しておいた。


「で、ウチはいつまでスカートをめくられたままなんじゃ?」

「あぁ、ごめんごめん」


 リルナとメロディはようやくスカートから手を離す。お店の外で通りがかった何人かの男がそそくさと立ち去っていった。そんな男にため息をつきつつ、サクラはギルドへ行くことを提案。リルナとメロディもそれに従った。

 商業区に建てられた冒険者ギルドはまだまだ新しい。夏の日差しを受けて多少は汚れているものの、まだまだ新築の気配を残している。

 ギルドの前には掲示板があり、普通の依頼書ではなく討伐依頼の紙が張られている。本日の仕事を求めるベテラン冒険者がそれらを吟味していた。


「討伐はどうなの、サクラ?」


 リルナの言葉にサクラは首を横にふった。


「アカン。ドラゴン退治といっしょで正面から戦って勝てるような相手やないわ。サンドワームとか、どうやってひとりで倒せっちゅうねん」

「サンドワームってどんなのじゃ?」


 遠くから内容を視認できたサクラの視力に驚きつつメロディは聞く。


「でっかい芋虫やな。口の大きさは3メートルはあってな、砂の中でジっと隠れて通りがかった獲物を丸呑みするモンスターや。なにせ丸呑みやから情報が残らへん。見つけるんも難しいし、見つけたところで巨大やろ。ひとりやったらどうしようもない」


 レベルも高く、今のリルナとメロディでは手に負えない。いくらヴァルキリー・メイルが強力なオートガードのスキルを発動したところで丸呑みにされてしまったら意味がない。待っているのは孤独な餓死かもしれず、メロディは思わず身震いした。

 討伐依頼はあきらめ、新しい依頼があるのに望みをかけつつギルドへと入る。窓の無いためランプの明かりが照らされるギルド内には、やっぱりカウンター上に座る銀髪少女がいたのだが――


「どうしたんだろ?」

「さぁ?」


 冒険者ギルドのスタッフ、シャララが眠そうな瞳をしっかりと開いたままべっちょりと横たわっていたのだった。


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