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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
幕間劇

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幕間劇 ~それぞれの敗戦処理~

 平原の中で、蛮族たちが各々好き勝手に座り込んでいる。特に中の良い物同士でグループを作っているが、中には落ち込んで肩を落としている者もいた。

 本来はそこに加わるべき者がいたのだが、戦闘で命を落とした。知能の低い蛮族にも、仲間を思いやる気持ちがあり、それを悼む心も充分にあった。それはコボルトやゴブリンといって弱い種族に多く見られており、弱いからこその心理なのかもしれない。


「イジョウ。オレ ツタエタ。ホカ イウ アルか?」


 そんな蛮族たちの前に立ち白狼丸が蛮族語で話す。語彙の少ない言語で、思った以上に伝えられないが、それでも先の戦争の敗戦は自分にあると伝え、出て行くのならば止めやしない、とコボルトやゴブリンに宣言した。

 そこで話を打ち切ったが、誰一人として出て行くそぶりは見せない。当たり前の話だが、やはり魔女の手下でいるほうが楽だった。ただそこにいるだけで食事が提供される。加えて他種族からも守ってもらえる可能性が高い。そんな高待遇な組織は蛮族社会において他にはない。魔女同士の戦いには参加しないといけないが、今後はその危険性も薄れてきている、という話だ。

 立ち上がり去っていく者はゼロ。

 そんな蛮族たちを見て、オーガである白狼丸は微妙な息をこぼした。嬉しいような、それでいて申し訳ないような、そんな複雑な息。できれば、自分の気持ちを吐露するような相手が欲しかったが、残念ながら人間種の使う共通語を解する者はいない。


「オレ イク。アト タノむ」


 近くにいたコボルトの神官にそう伝えると、白狼丸は魔女の迷宮へと戻った。


「ただいま戻ったでござる」


 魔女の部屋にて、白狼丸は共通語で声を出す。やはり語彙が豊富で、意思の疎通がしやすい共通語が、一番使いやすい気がした。もっとも、習得は困難であるのだが。白狼丸が覚えた共通語は少々古臭く、独特な地域なもの。サクラと同じくナマリのキツイ言葉になってしまったが、訂正するものがどこにもいなかった。


「……おかえり」


 そんな白狼丸を炎の魔女フーリュはベッドの中、布団をかぶりながら出迎えた。

 今回の戦争、提案したのはフーリュからだ。レナンシュを結界の小さな魔女ながらレベルの高い愚か者、と判断し、楽勝だと決め付けた本人である。敗戦の原因は、その思い込みであり、ひどく落ち込んでいた。


「ゴブリンとコボルトは、誰も抜けなかったでござる。また魔法を教えてあげて欲しいでござるよ」

「……ほんと?」

「拙者が嘘をつくと?」


 フーリュは首を横にふった。それでも、彼女の青い顔は回復しない。一歩間違えば、いや、相手が違っていれば自分は死んでいた。その恐怖と、部下を無為に失った自責が、彼女の心を締め付けていた。


「大丈夫でござる。誰もフーリュ殿の文句は行ってなかったでござるよ」

「ほんと?」

「拙者も嫌ってないでござる」

「……うん」

「それに、実際に指揮したのは拙者で、フーリュ殿に非はないでござるよ。負けたのは拙者が稚拙だったから。もっと慎重に動けば良かったでござるが……」


 功を焦ってしまったでござるよ、と白狼丸は苦笑した。


「……うん」


 そこでようやくフーリュは布団から顔を出した。髪はボサボサになってしまっているが、白狼丸は笑わない。彼女の顔を見て、おだやかに笑った。


「これからも、拙者をそばに置いてほしい」

「うん。おいで」


 白狼丸はベッドの前で膝をつくと、彼女の小さな胸に顔をうずめる。フーリュの背中に手をまわして、彼女のぬくもりを確かめた。


「あなたって、やっぱり変わり者ね」

「愛に種族も年齢も関係ないでござるよ」

「愛なんだ……」

「愛でござる」

「ふ~ん」

「うむ」

「ねぇ、白狼丸」

「なんでござるか?」

「角が痛い」


 オーガ種の特徴である角が、フーリュの小さな胸を刺激していた。その事実に、たいへんな労力を要しながら……白狼丸はようや魔女の胸から脱出したのだった。



 ~☆~



 星空の下。

 ワイワイガヤガヤと背中で賑やかさを聞きながら、リルナとメロディはお風呂に入っていた。魔石の温めるお湯につかりながら、あ~、ふぅ~、と幸せなため息をつく。いくら夏だからといっても、やっぱり冷たい川の水より熱いお湯のほうが幸せ度は高い。長くがんばった魔女戦争が終わったあと、ということもあってか、尚更にお風呂が気持ちよかった。


「レベルあがったね~、メロディ」

「うむ。あがるとは思わなかったのぅ」


 冒険者のレベルは宿の主人の匙加減。とはいうものの、まさか魔女同士の争いに参加したよ、という報告でレベルを上げてもらえるは思わなかった。


「経験、っていうことかな~」

「そうじゃのぅ。滅多にできない経験といえばそれまでじゃが、一応はがんばったしの。認められて損ではなかろう」

「あ~、確かにぃ」


 はふぅ、とつぶやいてふたりは湯船になっている木のふちに顎をのせた。かすかに聞こえる虫の声が、酒場の喧騒でかき消される。相変わらず男性冒険者に人気のイフリート・キッスは、最高潮に盛り上がっていた。


「しかし、妾は複雑じゃぞ」

「どうして?」

「負けたからのぅ。手も足も出なかった」


 あ~、とリルナはうなづく。後で聞いたメロディの戦闘は、イザーラの援護を受けても負け越しとなった。しかも奥の手でさえ引き出せなかったとあって、メロディはがっくりと肩を落としたようだ。


「まだまだルーキーというわけじゃ。歯がゆいのぅ」

「そうだねぇ……」


 はぁ~、とふたりは息を吐く。


「武器を強くしたところで、妾の剣は白狼丸には届かなかったじゃろう。逆に、母上の鎧があったからこそ、妾は死んでいない。複雑な気分じゃ。脱げば、また怒られるしな」


 メロディは苦笑する。両耳を負傷した経験は、自分よりも周囲に大きな影響を与えると思い知った。得にメイド長の静かな怒りが怖かったので、ある程度の実力がつくまではヴァルキリー装備におんぶに抱っこ、となりそうだ。


「あと、魔法の素質がゼロっていうのが悲しい真実じゃった」

「あはは、それは仕方ないよ。わたしだって、剣はぜんぜん触れてないじゃない?」

「それはそうなのじゃがな……妾だって手から炎、口から冷気、目からビームを出してみたいのじゃ」

「それじゃお姫様じゃなくて蛮族だよ……」


 いや蛮族にもそんな魔法使いいないよ、とリルナはつっこみを入れた。


「目とか口とか体を発動体にするとか危ないよ。目からビームとか、出してる間はずっと視界ゼロになっちゃう」

「あ、確かに」


 道理でみんな杖を持つわけじゃ、とメロディは納得した。


「むっ、お湯がぬるくなってきたか」

「そろそろ上がる?」

「いやいや、ここは妾が追加料金を払おう」


 湯船から身を乗り出し、地面に脱ぎ散らかした服からお金を取り出す。料金回収箱に硬貨を入れて、設置してあった箱から魔石を取り出した。


「というわけで、妾にやらせて」

「いいけど……だいじょうぶ?」


 問題ないわー! と、メロディは自身の魔力を意識する。あとはその魔力を魔石に流せば、火の魔石は自然と熱を発する仕組みだ。


「いくぞ、ぅぅぅうううりゃああああああああ!」


 本来ならそこまで気合のいる作業ではなく、一般人であっても基礎訓練を終わらせれば指先ひとつで完了する魔力通しだが、お姫様は全力全開で全身の魔力を練り上げて、魔石へと魔力を通した。


「あ、発動した。やったねメロディ、成功したよ!」

「ふっふっふ……ふ――」


 赤く灯る魔石を掲げ、メロディはそのまま湯船の中に沈んだ。


「ええええ!? メロディ!? メロディさん!?」

 魔力消費でゼロとなり、メロディは意識を失った。そのままお風呂の中に沈みゆく仲間を助け起こし、リルナは裸で抱き合うことになる。

「こりゃ本格的に魔法はダメみたいね……」


 と、呆れたところでお尻に熱いものが触れた。


「あっつ!?」


 どうやらメロディの落とした魔石の上に座ってしまったようで、お尻にちょっぴり火傷を負う。


「あ~ん、もう!」


 レベルはあがっても、いまいちカッコもつかなれば決まりもしない、なんとも言えないリルナなのだった。


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