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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 20

 リルナの叫び声が枯れ果てるころ。地平線の向こう側から一日の始まりを告げる太陽が顔をのぞかせた。光が放射状にひろがって周囲を照らしはじめる。夜の黒から瑠璃色へと変化する空から、オレンジ色に染まった雲が流れていくのが見えた。


「美しいでござるな……まさに彼岸のようでござる」


 白狼丸が目を細めながら言った言葉に対して、サクラはカカカと笑った。


「もうちょっとで本物を見るところやったな」

「いや、実は拙者はすでに死んでいて、いま見ている景色こそが彼岸の風景やもしれぬ」

「そうなんやったら、ウチらは全員が死者か。どうや、ホワイトドラゴン様よ。ウチらは死んでいるか生きているか、判断してくれへんか?」

「間違いなく生きてるよ。たとえ世界が五分前から生まれたとしても、ボクたちは全員生きている」


 全知なる白龍の言葉には納得する以外に方法はない。ホワイトドラゴンの言葉すら受け入れられないのであれば、それはもう狂人の沙汰。手に負える範囲ではない。


「生きている者は見ることができぬ風景でござるから、仕方ないやもしれぬ。しかし、美しい」


 日の出は、すぐに終わる。完全に太陽が姿を見せてしまっては、オレンジの光も透明になり、雲は白色を取り戻した。見上げれば、どこまでも黒かったはずの空は青に染まっている。すっかりと『今日』が始まってしまったらしい。


「ねぇ~、まだ~」


 そんな中で、リルナがしょんぼりと声をあげた。恐怖はすっかり麻痺してしまって、世界を俯瞰で眺めるだけの存在と成り果てている。それにも飽きてきたところで、召喚士は声をあげた。


「この辺でござるよ!」

「この辺って……なにもないよ!」


 リーン越しに大声での会話。この辺りと言われて地上を見下ろすが、リルナの言うとおり本当に何も無かった。ただの草原。草しか生えておらず、獣道もない。木の一本も見当たらず、石も岩もない。本当に何もない地図にぽっかりとある空白地帯のような場所だった。

 白狼丸の案内でリーンはゆっくりと高度を下げる。もう少し向こう側へ、という白狼丸の的確なアドバイスに従って、リーンは着地した。


「ふぅ、着いたついた」

「……ちょっと疲れた」


 飛び降りたサクラに手を引かれ、レナンシュも着地する。白狼丸は飛び降りた。対してリルナはリーンに離してもらってようやく地面に足を付ける。


「あぁ、地上って素晴らしい」


 無事に生きて立っていることを、どこかの神様に感謝しておいた。太陽の方角を向いてキラキラした瞳で祈っているので、もしかしたら太陽神かもしれない。


「ところで、ここなんにも無いけど?」


 そんなお祈りを数秒で終わらせ、リルナはキョロキョロと周囲を観察する。しかし、それもお祈り程度の秒数で終わった。なにせ上空から見ていたとおり、本当になにも無い。観察するもなにも、その対象が無ければ観察しようがない。試しに魔力感知してみても、チャンネルを切り替えた視界には魔力の流れも見えなかった。なにかあるとすれば、地精霊ぐらいなものだろう。その他には、水の気配すらも見受けれられなかった。


「結界やな。迷宮があるんやろ?」


 サクラの言葉に白狼丸はうなづく。

 魔女の住処は、決まって世界の裏側に隠されている迷宮だ。並みの冒険者にも見つけられない協力な魔法による隠蔽。たとえレベルの低い魔女であっても、それだけは多種族の追随をゆるさない技術だ。


「本来なら、入り口にあたる部分は遠い向こう側でござる。現在地は、フーリュ殿の居住区である真上に相当する位置でござるよ」


 真上という表現があっているかどうかは分からぬが、と白狼丸は苦笑した。迷宮は地下に存在するわけではないが、ニュアンス的には合っているのでレナンシュも問題ないとうなづく。


「フーリュ殿! 拙者でござる! 中に入れて欲しい!」


 白狼丸はどこへ言うでもなく、そう叫んだ。しかし、変化はない。山もないので、彼の声はコダマもせずに霧散していった。


「あれ、おかしいでござるな……」


 もう一度叫ぶが、やはり変化はない。


「まぁ敵をつれて帰ってきたら、そりゃ出てこうへんわな。ましてやホワイトドラゴンがおるし」


 たとえ人間であっても、家の前に龍が尋ねてきたら、そりゃ出てこないよね。と、リルナは苦笑した。


「ボクは悪くない」


 器用にスネてみせるリーンを、まぁまぁ、とリルナはなぐさめた。


「リーン君、威厳ないもんねっ」

「それ、リルナだけだから。動物はみんなひれ伏してくれるよ」

「え、そうなの?」

「嘘だけど」


 ちょっとでも信じたリルナが面白かったのか、リーンはくつくつと笑う。そんなホワイトドラゴンがポカポカと殴る少女を唖然として見ていた白狼丸だが、気を取り直してサクラに進言した。


「居住区に直通で行くにはフーリュ殿の許可なしでは無理でござる。ここは入り口から迷宮を踏破するしか――」

「いや、それには及ばへん。ウチには、これがあるからな」


 サクラは腰にさしていた倭刀を鞘ごと引き抜く。


「タイワ刀でござるか」

「せや。お前さんにもさっき見せたやろ」


 そこで白狼丸は思い出した。戦闘中、彼が奥の手として繰り出した技を、サクラは無効化してみせた。それはサクラの固有スキルではなく、武器の力。

 倭刀という名前でしか現在は知られていない伝説級の武器。複製不可能ながら遺跡から大量に出ることもある反りのある剣の品質はバラバラだ。ただし悪くても伝説級は伝説級。品質が最下層であろうとも、そこらの鍛冶師がつくる最高傑作には劣らない。

 そんな倭刀の中でも上位に位置するのがサクラの持つ『クジカネサダ』。マジックアイテムのように付属するスキルは『魔力断ち』。

 すこしだけ刀身を見せるようにサクラは倭刀を抜く。キラリと刃が太陽の光を反射した瞬間に、鞘へと納刀した。キン、と短く鳴る音。


「うわっ、ととと」


 次の瞬間には、リルナたちは魔女の迷宮の中にいた。まるで瞬間移動を味わったかのように目を白黒とさせる白狼丸だったが、そこが見慣れた居住区だと分かると落ち着きを取り戻す。代わりに慌てたのはリルナだ。


「うわ、燃えてる! なにここ、熱い!?」


 居住区と呼ばれる部屋は、赤く光る物であふれていた。よくよく見れば、それは燃え盛る石炭に似ており、風を送って煌々と燃える姿に酷似している。部屋の気温は暑くない。だが、リルナが勘違いしたのも無理はなかった。まるで焚き火の中に放り込まれた錯覚をサクラも覚える。


「これは……道理でウチらが狙われるわけや」


 そんなサクラのキモノをレナンシュはぎゅっと握った。怖がるのも無理はない。レナンシュは木属性を司る魔女。それに対して、この部屋の主である魔女の属性は炎。木と火の関係は『木生火』となり、木属性の力は火属性においてパワーアップアイテムと変わらない。もしレナンシュが負けていれば、炎の魔女にとって良い燃料となったはずだ。

 居住区と呼ばれる部屋は、それなりに大きかった。レナンシュの迷宮では大きな樹の中が部屋になっていたのだが、ここでは違う。天井は高く煌々と白い光が照らしており、明るい。地面は黒のプレートで埋め尽くされているが、その上には赤く光る鉱石が並べられており、区分けされていた。

 それらはまるで川のようにも思える。水ではなく燃える火が流れるような川で分けられた部屋。各種の実験をしているのか、いろいろな物が置かれていたり、メインの机があったり、休憩に使っているであろう空間もあった。書物もいくらかあるようで、本棚からはみ出すほどに本も置いてある。

 そんな中で、サクラが近づいていったのはベッド。大きなベッドで、天蓋付き。赤く染めたシルクのカーテンが流れるようにヒラヒラとしている。布団は真っ白なのだが、枕は真っ赤。紅白に彩られたベッドは、どうにも落ち着かない気がしてサクラはちょっぴりため息をつく。

 そんなおめでたいベッドに呆れつつも、サクラは遠慮なく床に身体を投げ打ち、ベッドの下を覗き込む。そこに見えた茶色いなブーツを掴むと、遠慮なく引っ張り出した。


「ぎゃー! 見つかったー! もう終わりだ! 殺されるー!」


 ジタバタと手だけでもがく魔女は、必死でベッドの下に戻ろうとするが、サクラの手から逃れることはできず、その場で暴れるのみ。


「落ち着くでござる。命まで、取られないでござるよ」


 白狼丸が横から話すのだが混乱の極みで耳に届かない。


「あ~、このゴキブリみたいな魔女が、お前さんの主か?」

「う、うむ。混乱の最中みたいでござるが、これが我が主、フーリュ・ラムダ・ファイヤーワークス殿でござるよ」


 真っ黒なローブと真っ黒なとんがり帽子は魔女の共通アイテムらしい。レナンシュよりも慎重は高く、声も大きいフーリュの髪は、その属性が示すとおりに真っ赤だった。それを両側でみつあみにしていて、それがジタバタと跳ね回っている。サクラが足を持っているせいか、ローブも太ももまで捲れ上がってしまって、ぱんつが見えていた。


「白いんやな」


 赤い下着を想像していたサクラだが、以外な結果に満足そうだった。


「あいたっ!?」


 なぜかレナンシュがローキックを繰り出し、白狼丸はフーリュのローブを押さえる。そんな白狼丸の優しさが裏目に出たのか、ぎゃあぎゃあと叫んだフーリュはより一層と暴れた。


「そのまま押さえとき、白狼丸」

「仕方ないでござる。ごめん」


 とすん、と腰の上にのってお尻を手で押さえた。ジタバタと暴れる両足をサクラが脇に抱えると、腰を落とす。


「なんだか少女誘拐の実行現場に見える……」


 ぼそ、とつぶやくリルナに、サクラと白狼丸は全力で否定した。

 そんなこんなで暴れる魔女を取り押さえること数十秒。蛮族といえど魔法使い。すぐに体力が尽きてぐったりとフーリュは横たわった。


「もうダメだ……短い人生だった……」

「フーリュ殿。まだまだ先は長いでござるよ」

「白狼丸ぅ。お前だけが私の味方だよ。いっしょに死んで?」

「落ち着くでござるよ、ご主人。拙者がまだ生きているように、フーリュ殿の命も奪われないでござる」

「……え?」


 ようやく周囲が見えるようになったのか、フーリュは顔をあげた。魔女という種族特有の白い肌に大きな赤い瞳。すこし幼さの残る顔立ちだが、かわいいというより美人というべきだろうか。真っ赤な髪と合わさって活発に見えるフーリュだが、そのイメージを損なうことなく大きく飛び起きた。


「で、出たな、敵の魔女!」


 レナンシュを指差して慌てて白狼丸の後ろへと隠れる。それを見て、レナンシュも慌ててサクラの後ろへと隠れた。どちらの陣営も、ラスボスよりも手前の守護者のほうが強い、なんていう妙な組織だから仕方ないのかもしれない。


「まぁ、話はできるよーになったか。ウチはサクラ。こっちはウチの主人のレナンシュや」

「……よろしく」


 相変わらず目深にとんがり帽子をかぶったままレナンシュは頭を下げた。そんな声が聞こえたのか、おずおずとフーリュが顔をのぞかせる。


「ど、どうなってるの?」

「レナンシュ殿は、ご主人と同盟が組みたいのでござるよ」

「同盟……?」


 ようやく会話できるようになった、ということでサクラは息をつく。その場にどっかりと座るとレナンシュも横に座った。

 それに合わせて白狼丸も座る。なんだなんだ、とキョロキョロしてからフーリュも彼の隣に座った。


「わ、わたしも座ったほうがいい?」


 そんな光景を見て、すこし離れた場所でリルナも座る。リーンはいつものように、くわ、とあくびをした。


「フーリュ殿、やったな。ウチら木の魔女レナンシュ・ファイ・ウッドフィールドは、お前さんたちと同盟を組みたい。内容は簡潔や。お互いに不可侵であり、お互いの助けになること」


 サクラの言葉。それに対して、白狼丸はうなづいた。


「ちょ、ちょっと待って。話が飲み込めないから」


 わたわたと手を振るフーリュに、それもそうか、とサクラは苦笑する。そんな火の魔女に、白狼丸は戦争後の経緯を説明した。


「ほ、本当にいいのか、え~っと、レナンシュ? お前は私を取り込むと、もっと強くなるのだぞ? その絶好の機会を放棄するというのか」

「……うん。私はそんなに生き急いでいない。それに、強くなればなるほど狙われる確率があがる」


 フーリュの質問に対してレナンシュは肯定する。魔女の運命と生き方を否定するように、木の魔女はうなづいた。


「レナンシュは、魔法を極めたいとは思わないのか?」

「思う。思うけれど、それは他の魔女を取り込んでの方法では楽しくない」

「た、楽しくない、だと?」


 素っ頓狂な声をあげるフーリュ。それほどまでにレナンシュの発言は魔女として狂っていた。


「……そう、楽しくない。ゼロから学び、ゼロから受け入れるほうが楽しい。あなたは、フーリュはそう思わない?」


 レナンシュは部屋の中を見渡す。そこにたくさん転がっている本。それらはなにも魔法だけではない。薬草の本もあれば神様の教えをまとめた本だってあるし、英雄譚もあれば絵本もある。多種多様の本が転がっている居住区を見て、レナンシュは確信していた。

 フーリュもまた、知識を蓄えるのが好きなタイプだ、と。


「お、お前の言わんとしていることは分かった。だけど、それでは、その、遠回りじゃない?」

「……どうして、遠回りだといけないの?」

「早く成長してあらゆる魔法を覚えなければ、襲ってくる魔女に対処できないじゃないか」


 その言葉に、レナンシュはサクラを見る。

 その視線に気づき、フーリュは白狼丸を見た。


「……私にはサクラがいる。とても強いサクラがいる。だから、急ぐ必要はない。あなたの白狼丸にだって負けなかったわ」

「そ、そうかもしれないけどさ。でも、もしもサ、サクラが負けたらどうするのさ?」

「その時は、死ぬわ。だってサクラより強い相手だもの」


 即答したレナンシュ。

 フーリュは思わず言葉に詰まってしまった。


「……あなたが、フーリュが困ったときはサクラを貸してあげる。もしそこでサクラが死んでも私は恨まないわ。遅かれ速かれ、次は私の番だもの。でも、もしも私たちがピンチの時は白狼丸を貸して。でも、私はあなたの部下を殺さない。その約束はする」

「う、裏切るかもしれないわよ」

「……本当に裏切る相手は、そんなこと言わないわよ」

「うぐっ……うぅ~、白狼丸ぅ」

「拙者は同盟に賛成でござる。そもそも断ったら、拙者とフーリュ殿の命は無いでござるよ?」

「……それもそうか」


 相手の善意は、同盟が組まれるまで。もしもフーリュが同盟を組まなかったら、危険な相手を背後に置いておくわけがない。この場で殺され、レナンシュの糧となるだろう。

 同盟を受け入れて幸せに生きるか、同盟を拒んで殺されるか。そんなものは選択肢にならない。一択しか答えのない問題など、考える価値もなかった。


「分かった、分かったわよ! 同盟を組みます!」


 フーリュは唇を尖らせながらも立ち上がった。そんな彼女を見て、レナンシュも立ち上がる。


「木の魔女レナンシュ・ファイ・ウッドフィールドは、火の魔女と同盟を組むわ」

「火の魔女フーリュ・ラムダ・ファイヤーワークスは、木の魔女と同盟を組むわ」


 ふたりは歩みよるとお互いにローブの中から手を出した。身長はレナンシュのほうが低い。ちょっぴり見上げると、フーリュは難しい顔をしていた。まだまだ納得はできていないらしい。それでも同盟は組まれる。しっかりと握手を交し合った。


「リーン。第三者として同盟締結の証人になってくれんか?」

「うん、分かった」


 握手を交わす魔女に向かって、リーンはゆっくりと歩み寄る。レナンシュは慣れているが、フーリュはおっかなびっくりとホワイトドラゴンを見上げた。


「ふたりの魔女、レナンシュとフーリュが同盟を結んだことをここに証明する。ホワイトドラゴン、リーン・シーロイド・スカイワーカーが見届けた」

 握手を交わす魔女の手に、リーンは軽く手を添えた。

 文章も証明書もない、ただの口約束の同盟だ。しかし、ここにホワイトドラゴンが証人となることによって、正式なものとなる。なにせ全知の化身とも言われ、潔白の証明かのようなホワイトドラゴンが承認したのだ。これ以上ないほどの誓約書である。


「ふぅ。これで戦争終了やな」


 よかったよかった~、とサクラはバンザイした。そんなサクラの後ろにリルナは近づいて、ちょんちょんと肩を叩く。


「ん、なんや?」

「これ、なんでわたしもここに来たわけ? どう考えてもいらないんだけど」


 空の恐怖を味わう必要は本当にあったのか、とリルナは唇を尖らせた。


「あったで。うまいこといったから良かったけど、もしこじれて土壇場でレナンシュの首を跳ねられてみぃ。召喚体ってことがバレるやんか」

「あぁ、そうか。忘れてた」


 あはは、とリルナは苦笑する。

 実体にも思えるレナンシュとリーンだが、実際は召喚されている姿だ。もし、強大なダメージを受けても、リルナの魔力が大消費されるだけで死ぬことはない。実質、この場で危険を晒しているのはサクラとリルナの二名だけだった。


「せやから、こじれて修復するにはリルナの召喚術がいるやろ。そういうわけや」

「はーい、わかった。ん、待てよ……」


 じゃぁレナンシュはこっち来てから召喚すれば良かったんじゃないか。そんな考えに至るが、サクラに否定される。


「いや、白狼丸にも気づかせへん必要があるやん」

「そうだけどさぁ」

「まぁ、帰りは確実に背中に乗れるから安心しいな」

「むぅ……は~い」


 火の魔女と同じ、いまいち納得できないけれど、まぁ納得するしかないよな、なんて表情を浮かべて、リルナは息をつく。

 なんにしても、これで戦争は終わった。召喚獣のひとりでもあるレナンシュを守れたことには間違いないし、サクラの将来を守れたともいえる。それに加えて魔女同盟を締結したことによって、これからの憂いも解消できたのではないか。

 まだまだ自分の知らないことがいっぱいあるとリルナは思い知る。冒険者であるならば、それらの知識は重要だ。無知ゆえに命の危険に繋がることは多い。知識は、いくらあっても困らない。

 でも、その知識をうまく扱うことができるかどうか。

 それはサクラのような経験豊富な者ではないと扱いきれないのではないか。リルナはそう思うと同時に、自分の未経験な部分も多いと悟る。

 レベルが一桁であり、それは当たり前の話なのだが、身近な存在に経験者が多い分、すこしだけ焦るような気持ちが浮き出てくる。


「……がんばらないと」


 手首にまいた青いスカーフ。父親の形見であるそれは、なにも教えてくれない。それでも、忘れられた召喚士の中では世界一と謳われた父だ。

 おぼろげな背中を思い出しながら、リルナはこれからの冒険に思いをはせるのだった。


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