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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 14

 良く分からない嫌な予感。

 なにか間違っているような気がするような、そんなことは杞憂に違いない、と思うような、そんな微妙な気持ちを抱えたまま、リルナは戦地へと赴いた。もちろんそこに魔女レナンシュの姿はある。だが、彼女の元の肉体は迷宮にいる。今は、召喚された魔力体……つまり、召喚獣として顕現していた。

 時間は夜。充分な休息の後に、戦地として選んだのは蛮族軍がいた森からすこし離れた平原である。そこに転がっていた岩を拠点として、ウッドゴーレムとマッドゴーレムが並んだ。

 数はウッドゴーレムのほうが多い。質より量、として選んだ結果、レナンシュはウッドゴーレムを量産していた。それを指揮するのはメロディの役目となり、ウッドチームとして平原に待機している。

 メロディの役目は一番槍。戦争開始の合図を送るのは、彼女の役目だった。

 もちろん一番危険な役割なのだが、メロディの装備しているヴァルキリー装備は、その危険性を限りなくゼロに近づけるほどの能力を有している。旧神話級の装備は、それひとつで一生の安泰を手に入れられる代物だ。むしろ、親子二代に渡ってお世話になっているので、一生以上の価値があると言えた。

 残念ながら、今夜は月明かりがある。闇となれば奇襲ができるのだが、整然と並ぶウッドゴーレムの列は容易く発見できるだろう。命無き生命体たちは、自分の役目を静かに待っていた。

「う~む、ひとりは寂しいのぅ」

 そんなゴーレムたちの戦闘で、メロディはちょこんと膝を抱えて座っていた。一番危険な場所にいるという危機感が無いのか、話し相手がいないので唇を尖らせている。ちなみに、ウッドゴーレムたちの指揮が夕方のうちに演説ごっこで上げておいた。夜の平原で声高々に演説するほど、メロディも馬鹿ではない。

 そんなウッドゴーレム部隊を正面に置いて、土で造られたマッドゴーレム部隊は左右に離れて展開していた。数はそんなに多くないがウッドゴーレムよりは丈夫で強いのがレナンシュ製のマッドゴーレム。左右それぞれルルとリリアーナが担当している。


「ルルちゃんとリリアーナ、大丈夫かな~」


 後方に控えるリルナはすこしだけ心配そうに、岩の上から左右を見渡した。見える範囲にウッドゴーレム部隊の姿はない。数が少ない上に世闇にまぎれていて、きっちり隠れている。蛮族からみれば、目の前のウッドゴーレム部隊に集中して、左右確認がおざなりであれば発見は遅れるだろう。

 戦闘職ではない彼女たちの役目はウッドゴーレムたちへの指示役だ。タイミングを見計らって挟撃をしかける必要があるので、左右に控えてもらっている。


「役目が終わったらこっちまで帰ってくる予定やし、大丈夫やろ」


 と、サクラはノンキに答える。サクラは岩の上に座っており、寝ているリーンにもたれかかっていた。その膝の上にはレナンシュが頭を乗せており、サクラは猫をあやすように撫でている。


「ノンキだなぁ……ところで、今日の夕方は何してたの?」


 そろそろ出発という時、リルナが大樹に呼びにいくとサクラとリリアーナとレナンシュがベッドの上で裸になっていた。普通に見たら、それはただの男女同士のアレな活動かと思うのだが、レナンシュがサクラとリリアーナに挟まれていた状態。あまりリリアーナのことを好いていなかったようにみえたレナンシュがリリアーナといっしょに裸になるとは思えず、リルナは聞いてみた。


「遺言やな」

「それって……覚悟を決めたみたいな?」

「いや、思い出づくり。最後に気持ちよくなろうって」

「聞くんじゃなかった!」


 がっくりと肩を落とすリルナ。まぁまぁ、と笑うサクラに魔女の帽子を目深くかぶりなおすレナンシュ。


「ウソやウソ。リリアーナに防御魔法をかけてもらっとった。より効果が出るように服に邪魔されんように裸になっとっただけやで」


 勘違いしなや、とサクラは笑う。


「冗談ジョーダン」


 と、膝まくら中のレナンシュも言う。

 なんだお前ら、とリルナは叫びたかったが辞めておいた。ぜはー、と息を吐くと睡眠中のリーンの背中に乗る。そこにいるのは、サクラやレナンシュだけでなく、最終防衛ラインとして薫風真奈や玲奈、桜花が控えているし、大精霊であるウンディーネ、サラディーナ、ノルミリームも召喚されていた。

 岩の上はちょっとしたアットホームな空間が広がっている。それはバックにリーンというホワイトドラゴンが控えているから、なのかもしれない。当の本人は戦争に参加するつもりはなく、あくまでそこに居るだけ、と言っているが。


「リーン君が焼き尽くしてくれればいいのに。紅蓮の炎でぼわ~っと」

「くかー」


 リーンは分かりやすく共通語で寝息をしゃべる。つまり、協力しませんよ、と言いたいようだ。


「まぁここまで手伝ってもらえたんや、天下の白龍様に。戦闘参加までは贅沢やって」

「そうなの、リーン君?」

「むにゃむにゃ。蛮族同士の争いも、人間同士の戦争も、ドラゴンは感知しない。世界の危機じゃないんだから。むにゃむにゃ」

「都合の良い寝言なんだからっ!」


 もう! と、リルナはホワイトドラゴンの背中を叩く。もちろんビクともしないので、はぁ~、とため息を吐くしかない。


「リルナ、サクラ、来ましたわ」


 と、真奈の声が小さく響く。遠くに見えるはたいまつの炎。それがちらほらと揺れて、いくつか見えた。蛮族の集団が来た証だ。

 真奈の声に、一瞬にしてサクラは身を起こし行動を開始した。岩の先端に立膝で座り、状況を確認する。


「お姫様は……気づいとるな」


 ウッドゴーレム部隊の先端で、小さく火花が散る。メロディの火打ち石の合図だ。チラリと弾けた火花の合図は二度。続いて、左右に分かれているマッドゴーレム部隊のルルとリリアーナの合図もあった。


「上出来や。誰も油断して寝転んでなかったな」


 その場の全員が、おまえ以外はな、とノンキにツッコミを入れるが、サクラはそれを無視した。

 静かな夜に緊張が支配する。

 ドキドキする胸とノドが乾いた感覚に、リルナはウンディーネを呼んで水を出してもらった。手のひらに流れ落ちる水で潤し、ついでに顔にぴしゃりとかける。

 緊張に手足がしびれるような感覚があり、ぶんぶんと振った。蛮族が来るまでは時間がまだある。それまでにはベストコンディションに持っていかなくてはならない。

 しかし、それを不安が邪魔をする。

 なにか忘れているような。なにか間違っているような、そんな感覚が緊張を後押しした。


「う~ん……」


 カリカリと頭をかく。落ち着きのないリルナに、まぁまぁ、と桜花が声をかけた。


「どうしたのリルナちゃん」

「う~ん、なんか気になるのよね。忘れてるような。なんかそんな気持ち悪い感じ」

「なにか?」

「うん、なにか」


 桜花はなんだろうね、と一緒に考えてくれる。もちろん、戦争開始直前にやるようなことではない。しかし、魔法使いであるリルナと桜花は後衛も後衛。みんなの補助が目的であるし、最終的には逃げる判断もする。得にリルナはすでに召喚術も行使しているので、やれることがほとんど無い。


「罠が成功したか、してないか、とか?」

「あ、それかな~。もし成功してたらさ、わたし達が来てることってバレバレだよね」


 まさか狩人の仕業、と思うはずがない。

 蛮族たちに仕掛けられた罠の存在は、こちらが対策を施した証明となる。


「だけど、それはコボルトを捕らえた時点でバレバレですわ」


 話を聞いていた真奈が加わる。斥候であるコボルトが帰ってこない時点でその疑いは濃厚になっているはずだ。今更気にすることじゃない。


「まぁまぁ、気にしないで戦うネ。だって、もう襲いヨ」


 玲奈の言葉に、確かに、とリルナはうなづく。なにか忘れていたり間違ったりしているとしても、もう敵軍は目の前だ。今更、訂正したり作戦を変える暇なんて無い。大事なのはレナンシュを守ること。そして、敵の大将であるオーガを倒すこと。それさえ出来れば、ゴブリンやコボルトの集団など、大したことはない。

 チロチロと遠くに見えていたたいまつの炎が近づいてくる。月明かりの下、玲奈の目にはすでに姿を捉えたらしい。ゴブリンだ、と報告する。

 そして、蛮族集団もこちらを認識したのだろう。にわかに騒ぎが大きくなり、やがて各々の武器を掲げたのが見えた。

 そしてメロディが動く。無言で立ち上がり、バスタードソードを引き抜いて走り出した。気合の雄たけびや号令はいらない。それが、ウッドゴーレムたちの合図となる。

 また動き出したウッドゴーレムに合わせてゴブリンも動く。各々の武器を持ち、平原へと走り始めた。こちらはギャギャギャと声をあげる。蛮族語でなにかを叫び、蛮族語で雄たけびをあげながらウッドゴーレムの集団へと突撃してくるのだった。

 数は、圧倒的にゴブリンが多い。しかし、その戦闘に人間がいたこと。その意外な存在にすくなくともゴブリンの一番槍を務めた者は思った。


「妾の勝利じゃな」


 その驚きが、ゴブリンの赤黒い肌を更に赤く染める。バスタードソードを振り下ろし、最初の犠牲者は蛮族側から出た。そんなメロディを追い越すようにウッドゴーレムが走り抜け、ゴブリンが過ぎ去っていく。一気に混戦となった――ように思えたが違った。


「なんじゃ?」


 ほのかに光る赤。それは炎ではない。魔力の光。


「……魔法じゃな」


 あぁそっか、とメロディは頭をかいた。すっかりと忘れていた。敵は蛮族で、その集団を構成するのはゴブリンとコボルトだ、と。そんなゴブリンが後方に位置して魔法の発動体を持っている。そこに灯る光は、確実に魔力の光。

 そうなると、導き出される答えはひとる。


「ゴブリン・ウィザードじゃな」


 ゴブリンの中でも魔法が使えるゴブリンを人間種はそう称していた。実質、ゴブリンと別種ではなく、ただ魔法を使うゴブリンというだけ。滅多に観測できる存在ではないので、すっかりと失念していた。

 そもそもゴブリンは蛮族でも下位に位置する存在で、いくらでも子供を生んで増えるという性質が種族の特性だ。だが、そんなゴブリンもそれを支配する者によっては存在を変える。その中でも分かりやすいのがゴブリン・ウィザードだ。支配者、つまり魔女によって魔法を教えられたゴブリン。後方から魔法支援を行う、レアな蛮族。

 使う魔法は自らの魔力を属性力に変える『七曜魔法』。赤の光は、すなわち炎の属性を表している。


「すまぬ。燃えてくれ」


 ゴブリン・ウィザードが魔法を放った。それは炎の弾丸となり、次々にウッドゴーレムを燃え上がらせる。そこはもちろん戦場のど真ん中なので、燃え上がったウッドゴーレムに混じってゴブリンもわっちゃわっちゃと慌てふためく。


「ようし、お主らは束の間のファイアーゴーレムじゃ! 短くも儚いその美しさ、特と妾に見せるが良い!」


 燃えたら燃えた、だった。

 メロディは割り切ってウッドゴーレムたちに突撃を命じる。このまま燃やされるのならば、相手を巻き込んだほうが得策だ。

 お陰で戦場は滅茶苦茶である。隊列や秩序なんてなく、燃え上がるウッドゴーレムたちはゴブリンを追いかけまわす、という状況になってしまった。


「あ~ぁ……どうするんじゃ、これ」


 妙に明るくなってしまった戦場のど真ん中で、メロディは肩をすくめるのだった。


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