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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 13

 罠。

 その基本は相手に気づかれないように設置するもの。良く観察しないと発見でいないように、巧妙に作動装置を隠すものだ。

 たとえば落とし穴。なにか掘り返したような跡が残っていたとすれば、誰がそこを踏むだろうか? 相手を警戒させず自然のままに落とすのが落とし穴であって、気づかれれば穴を掘った分だけ損になってしまう。

 それが罠の基本であり、基本ではあるが最終的なスキルの良し悪しもそこに依存する要素であった。

 だからこそルルはそれを逆手に取る。


「見せてしまいましょ~」


 翌日の昼間。

 蛮族の集団が潜んでいる森に到着したリルナたちはルルの指示に従って罠を仕掛けることにした。ちなみにリーンが輸送をしており、それなりに疲れるようで、今はグッスリと眠っている。文句を言いつつも人間に協力してくれるようだ。

 今回は人手も必要なのでダークカルテットの真奈、玲奈、桜花の三人も召喚している。こちらの三人は、運よく冒険の予定がなくしばらくは手伝ってくれるようだ。


「見せるってどういうこと?」


 それじゃ意味ないじゃない、とリルナ。見えている罠に引っかかるマヌケは、いくら知性が低いゴブリンといえども存在しないんじゃないか。コボルトじゃなく、犬でさえ避けて通る罠など意味がない。


「それが罠ですよ~」


 なぜか鼻歌まじりでルルは指示を出す。見えている罠、とルルが称したのは太いロープだった。

 あらかじめ蛮族が通るであろうルートは予想してある。彼らが移動するのは、目立たないような夜中の内。昼間に大移動しては、冒険者に討伐対象にされてしまうからだ。

 夜目が効く蛮族もいるのだが、ゴブリンやコボルトはその類ではない。せいぜい人間と同レベル。オーガもそれほど夜目が効くわけではない。

 だからこそ、夜中に移動しなければならない蛮族を罠にはめるのは容易だった。なにせ、自分から危険な時間帯に動いてくれるのだ。プラスして、森の中の星の光も届かない場所。罠を設置しない理由がない。

 木と木の間にロープを渡す。リルナの膝よりも少し低いところでロープを結ぶと、簡易的な足を引っ掛ける罠ができあがった。これがもっと細い糸のようなもので、ロープに鈴か音の鳴る木の板を取り付けていれば『鳴子』という罠になるのだが、ルルの狙いはそうではないらしい。


「これのどこが罠なの?」

「ふっふっふ~。ここにロープがあります。リルナちゃんは、どうしますか?」

「え、普通に飛び越えちゃうけど……」


 よいしょ、と頑張る必要もなく、リルナは大またでロープを越えた。その位置を、ルルは木の枝で丸く記しを付ける。


「はい、ではここに落とし穴を軽く掘ってください~。レナンシュさんは、彫った穴に尖った木をお願いします」


 足が沈む程度でいいよ~、とルル。


「え~っと、つまり?」

「ロープに気をとられている内に、次の一歩がホントの罠だよ~。っていう罠ぁ」

「え~……」


 そんなの引っかかるかな~、とリルナ。どうにも半信半疑なのは、なんというかショボイせいかもしれない。しかも、落とし穴という割にはそんな深くなく、足が沈む程度でいいとルルが言ったせいもあった。


「これで倒せるのかな~」

「あ、倒したらダメですよ~」

「え?」


 罠とは敵を倒すもの。そう思ってたリルナだったが、それを否定されてしまったので、思わずルルの顔を見てしまう。


「どうして? 倒さなきゃ意味ないんじゃないの?」

「ダンジョンとか遺跡の罠だったらそうです~。けど、これは戦争ですから~」


 戦争だったら、どうして倒したらいけないのだろうか? と、リルナは考えるが答えなんか瞬時に思い浮かばない。隣でスコップを持った桜花の顔を見てみるが、彼女も首を横に傾げた。


「降参~。答えはなぁに?」

「ひとりを助けるのに必要な人数は一人以上、ですから~。つまりぃ、ひとりを怪我させるだけで、ふたり減ります。仲間だもん、助けたいよね~」


 うふふ、とルルは笑った。

 なるほど~、とリルナと桜花は納得した。ついでにルルの笑顔が怖かったので、慌てて穴掘り作業を開始する。

 つまり、少ない労力でより多くの人数を削る罠、ということだ。穴が浅いのも、相手を殺すためではなく、あくまで怪我をさせる程度。それも中途半端な傷ではなく、割と重大なダメージに繋がる罠である。恐らく、足に穴は開いてしまうだろう。

 それだけで蛮族は死にはしない。だからこそ、余計に人数を裂いて助けなければならない。もちろん、普通の蛮族集団であれば放置される可能性が高い。だが、この集団はオーガによって指揮されており、魔女の手下となる。秩序だって動く集団だからこそ、怪我人を助ける可能性があるわけだ。


「ルルって時々こわいのよね……」

「そうなんだ……」


 と、桜花とこそこそ話をしつつ穴を掘る。適度に穴がほれたらレナンシュを呼んだ。


「はい。よっ……と」


 レナンシュの闇魔法で、穴の底から細い木が生える。枝の無い真っ直ぐな小さな木。それをリルナは倭刀で斜めに切断した。斜めに切り落としただけだが、全体重をかければ容易に足を貫く鋭さと硬さがあった。


「昔から武器にされていた硬い木。丈夫で長持ち」


 さすがは森の魔女。木の選別もバッチリだった。

 いくつかみんなで同じ罠を作り、後方へと下がる。同じ場所に仕掛けてもいいが、それでは芸がない、とルルは不気味に笑った。


「レナンシュちゃん。柔らかい木ってある?」

「う~ん……こんなの?」


 レナンシュが顕現させたのは緑色のスラリとした細い節のある木だった。引っ張るとその方向に曲がり、かなりのしなりを見せる。


「次、棘のあるイバラを、これに巻きつけてください~」

「うん、わかった」


 節のある木の根元からイバラがするすると生えてきて、幾重にも重なって巻きついていく。それを見ただけで、リルナは罠の種類が理解できた。


「痛そう……」

「ね~……」


 棘だらけの木ができあがれば、あとはそこにロープを引っ掛け、みんなで引っ張る。ギリギリと音を立てながらもしなる緑の木は、完全に地面に寝そべるような形になった。ロープを近くの木に固定すると、間を葉っぱや土で隠す。あとは、ある程度の衝撃で外れるようにロープを木のギリギリにセットしておけば完成だ。


「天然スパイクやな」


 サクラも満足な出来栄え。これもいくつか仕掛けておく。棘だらけになってしまうだろうが、やはり命までは落とさない。的確な嫌がらせだ。

 二種類の罠を仕掛け終わったところでイザーラが森の奥から戻ってきた。集団の監視を頼んでいたのだが、どうやら動きは無かったらしい。


「おつかれさま、イザーラ。大丈夫だった?」

「大丈夫よ、ありがとうリルナちゃん。いい子ね、キスしてあげましょうか?」

「いらないよっ」


 あら残念、と冗談を交わしながら森の外まで移動する。ここまで来れば見回りの蛮族と出くわすこともないだろう。加えて、ホワイトドラゴンがノンキに昼寝をしている。よほどのモンスターであっても近づかない安全地帯になっていた。


「こっちも罠を仕掛けておいたわよん」

「イザーラも? どんな罠?」

「トラバサミ」

「それはまぁ……普通に痛そうだ」


 動物を狩る定番のアイテムではあるが、蛮族にだって効く。言ってしまえば、人間も誤って踏んでしまえばとんでもないことにある罠だ。下手をすれば足を切断することになってしまう。

 ともかくとして、罠を無事に仕掛け終わったので、リーンを起こして魔女の迷宮へと戻った。結果は明日になってみないと分からない。全て不発に終わった可能性もあるし、上手くいっていれば相手の人数を削ることができる。


「帰ってくれればいいんだけどなぁ」


 リルナは、できれば戦争を回避する方向になればいい、と思った。


「どうしてじゃ?」


 そのつぶやきを聞いていたメロディが素直に聞く。いま、蛮族が帰ったとしてもいずれまた襲ってくるだろう。相手の魔女の狙いはレナンシュの魔力なのだ。それがゼロにならない限り、狙わない理由が存在しない。


「なんでだろ? 無意味だからかな」

「無意味か。そうじゃな。妾たちはひとつも負ける気がせぬ。しかし、それは相手も同じかもしれぬぞ」

「相手も?」

「そうじゃ。無駄な争いなく、レナンシュの魔力を差し出せば良い。そうすれば、簡単に事は済む。誰も傷つく必要がない、とな」


 メロディは肩をすくめた。

 そんな上手い話は、この世には転がっていない。人間の世界にも、蛮族にも、モンスターにも、神様の世界にも、タダで転がっている良い話なんてものは無い。


「売られたケンカや」


 サクラが言う。


「売られたからには、キッチリ買ったらんとアカン。せやないと、いつまで経ってもダラダラ続くからな。ま、その結果はウチの主に聞いてみぃひんと分からんけどな」

「そっか」


 戦い、戦争、争い。

 そうである限り、終わりを迎えなければならない。中途半端なまま、決着をつけない、そういうわけにはいかない。

 だからこそ、キッチリと結末を迎える。

 それは明日に決まる。もし、蛮族が罠にかかって逃げ帰るのならば、それはそれでいい。そういう結末を迎えた、ということだ。無駄にこちらからケンカを売る必要はない。こっちは、そういう意思を見せるだけでいいのだ。

 慈悲と捉えるか、馬鹿にされた、と捉えるのかは相手の魔女次第だ。またも襲ってくるのならば、迎え撃つ。ただし、次は無いだろう。サクラの考えは、そういう意味だった。

 明日。

 蛮族が襲来するのならば。

 それ相応に、決着をつける。


「……」


 どこか、ふわふわとする気持ち。それがなんなのか、いまいち分からなくて。リルナはちょっとだけ不安になる小さな胸をおさえるのだった。


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