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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 11

 蛮族の集団。

 そんな目立つ存在がノンキに街道を歩いてくるわけがない。なにせ蛮族は人間を襲う。中には人間を喰う種族もいて、大きな壁のない村や集落では畏怖されていた。

 モンスターと違って、蛮族には知性がある者も多いので、無闇に村が襲われる心配はない。なにせ、そんなことをしたら退治される真っ先の候補。お金を稼ぎたい冒険者に追われる日々が始まるのだ。

 しかし、集団となれば話は別。たとえ村を襲う予定がなくとも危険視され、討伐対象となる。どこか襲われたり、なにか起こってからでは襲いのだ。そういう意味では、冒険者ギルドの設立は意味が多いにあったのかもしれない。そういった情報はいち早く国の中を駆け巡るべきであり、正確さが求められる。

 そういった事情があり、蛮族の集団は身を潜めるようにして森の中に潜伏していた。その数や種類は細かく把握できないが、すくなくとも五十は越える。もしかしたら百に届くかもしれない。


「ブレスは……使っちゃダメだよね」


 雨は降っていない。曇天の雲の近くでリルナはつぶやいた。龍種の持つスキルのひとつ、ブレス。特にホワイトドラゴンはあらゆる属性の炎を吐けるのだが、相手が森の中だと山火事の危険もある。


「自然に悪影響を与えるのはおススメしないね」

「なにホワイトドラゴンらしいこと言っちゃって」


 うりうり~、とリルナはリーンの頭をなでる。くすぐったいのか、リーンは頭をふるふると振ってリルナの手を拒絶した。

 もし、相手が目立つところにいたのなら、ホワイトドラゴンの姿を顕示させれば良い。なにせ、竜ではなく龍だ。それが魔女についているとなると、生半可な魔女ではおいそれと攻めることができない。いわゆる戦意喪失を狙うことができる。

 もっとも、それはサクラは期待しなかった。

 なにせ魔女には呪いがある。リーダーたるオーガは、その呪いに縛られている可能性があり、敗走を許されない呪いがかけられていることも有り得た。


「その場合、逃げたらどうなるの?」

「知らん。溶けて無くなるんやないか」


 あっけらかんとしたサクラにリルナは、うげ、と顔をしかめる。相手が蛮族であっても溶けていく様子は見たくないな~、と思った。


「可能なら攻撃を。ん~、イザーラはどう思う?」

「ムリね」

「リーン君は?」

「無理だね」


 決まりだ、とリルナが結論を出し、再び雲の中へと戻る。もうひとつ、攻撃方法を用意していたのだが、これはあまり現実的ではなかった。


「リーン君が真円に飛べたらなぁ~」

「そんなドラゴン、気持ち悪いよ」


 空を行くドラゴンであっても、さすがに完全なる円を描く軌道で飛べるわけではない。つまり、空中に巨大な魔法陣を描くには、やはりコンパスと同等の準備が必要だ。となれば、また地上からリーンをつながなくてはならず、バレる可能性が高い。


「資源の無駄遣いより、着実にいきましょ」

「そうだねっ」


 雲の上をちょっとだけ移動すると、リーンは再び雲の下へと降りる。そこから素早く地上へ着地した。その急降下にリルナは思わず叫びそうになるが、なんとか我慢する。


「あそこが冷たくなったじゃない」

「あはははは」


 イザーラの言葉にリーンが笑う。同意するのも恥ずかしいので、リルナはため息をついてごまかしておいた。


「じゃ、具体的な偵察に行って来るわね。リルナちゃんは無理しちゃダメよ」

「は~い」


 いってらっしゃい、とイザーラを見送る。さすがは森の民エルフだけあって、森の中でのイザーラの動きは静かだった。物音ひとつさせずに移動していくイザーラに感心しながら、リルナとリーンはゆっくりと移動していく。

 およその数は分かったが、種族の特定までできていない。オーガ種と同等な蛮族がいるとすれば、対策を練らなければならない。その有無だけでも持ち帰る必要があった。


「リーン君ひとりでも、勝てそうなのにね」

「さすがのボクも、囲まれたら逃げるからね? 人間に倒されるドラゴンの昔話って、いくらでも残ってるでしょ?」

「そういえばそっか」


 人間に倒せるのならば、蛮族にだって倒せる。ドラゴンも無敵ではない。傷をつければ血が出て、血を失い続ければ死ぬ。その事実は、冒険譚としても残っていた。

 しばらく歩いていくと、周囲からガサガサと聞こえてきた。どうやら何者かがこっちに向かってきているらしい。


「あ、え、ど、どうするっ?」

「どうしようか」


 あわあわと慌てるリルナに対してリーンは平常心。すぐに逃げるとしても、音を立ててしまえば気づかれる距離だ。リルナは迷った挙句、リーンの背中に隠れることにした。


「×、×××」


 蛮族語が聞こえてきたと同時に、何者かが木々の向こうから歩いてきた。リーンからは見えているだろうが、リルナは息を殺す。コボルトやゴブリン程度ならなんとかなるが、種族によってはリルナでは対応できない蛮族の可能性もあった。


「××、×……」


 そして、どうやら蛮族はホワイトドラゴンの存在に気づいたらしい。真っ白な体は、嫌でも目立つものだ。声からして驚いて立ち止まったのがリルナからも分かった。ちょっと笑いそうになったのを必死でこらえておく。


「×××」


 リーンの蛮族語。なにを言っているのかは理解できないが、リルナはなんとなく偉そうな物言いに感じられた。それが当たっているのか、蛮族が無闇に攻撃したり近寄ってくる様子はない。


「×××」


 再びリーンが話す。その返事はおずおずと返ってきた。それから一言二言と会話を交わし、蛮族の足音が遠のいていった。


「な、なんて言ったの?」

「汝ら、このような場所でなにをしておるのか。みたいな感じ。蛮族語を直訳すると、キサマ、ココ、ナニ、シテル。オレ、キブン、ワルイ。シヌ、イキル、エラベ」

「オレサマ、オマエ、マルカジリ?」

「それそれ」


 ケケケ、とリーンは笑う。


「それで蛮族はなんて言ってたの?」

「もうすぐ移動するから、邪魔はしませんよ。できるだけ早く移動するから食べないでください。だってさ」

「うげ。余計なことしちゃった?」


 そうかも、とリーンは肩ではなく翼をすくめる。そうこうしている内に、また遭遇しては大変だ、と召喚士とホワイトドラゴンは後ろへと下がった。

 しばらく大人しくしていると、イザーラが戻ってくる。


「なんだか動きがあったわん。さっさと退散したほうがいいみたいよ」

「あ、はい」

「そうですね」

「どうしたの、ふたりとも?」


 な、なんでもないです~、とごまかしながら、リルナはリーンの背中に乗る。リーンも目を細めるばかりでなにも言わず、イザーラはハテナマークを頭の上に浮かべながら、リーンの背中へと乗った。

 ひとまず偵察任務は完了した。

 ここからどう動くのか、どう対処するのか。リルナは自分なりに考えながらレナンシュの迷宮へと帰るのだった。


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