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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 10

 バサリ、とホワイトドラゴンの翼が空気を打つ。どんよりと重い雲の下、真っ白な姿はあまり目立たない。現在、雨は止んでいるが降っていれば尚更のこと、その姿を見る者がいないだろう。

 空を支配しているのは、人間種でも蛮族種でもない。

 龍種だけ。

 人間や蛮族には、空を見上げる習慣など無かった。それこそモンスターを警戒する時だけの動作だ。

 ホワイトドラゴンの子供、リーンはグンと加速すると一気に上昇する。灰色の雲を越えると、ようやくその速度を落とし、上空に停止する。


「リルナ、落ちてない?」

「ひどいっ!」


 背中の人間を気にすることなく上昇したリーンはケケケと意地悪く笑う。落とすつもりは微塵もないのに、自分を召喚した主をからかいたくなった。というのも、リルナを抱きかかえるようにしてイザーラが乗っているから、なのかもしれない。本人が女性に興味はない、と宣言していても、さすがに抱きしめられるような格好になってしまっては、リルナも頬に血液が集まってくるのが分かってしまった。

 そんな乙女心に嫉妬したのか、はたまた嘲笑したかったのか、リーンはふたりを乗せて雲の上まで飛び上がったのだった。


「あら、晴れてるわ。本当に雨って雲から降っていたのね」


 空を飛ぶドラゴンにしてみれば当たり前の話だけれど、イザーラにしてみれば情報だけの世界だ。実際に自分の目で雲から雨が降っているところは目にするけれど、雨雲の上にまで飛び上がったことは無い。なにより、太陽がまだまだ空の上にあるのが不思議だった。


「ねぇリーンちゃん。太陽まで行ったことある?」

「ボクはないけど、あそこには『日の神殿』があるらしいよ。神様も近くにいるみたい」


 へ~、とイザーラ。対してリルナは、神殿に反応した。


「ということは、日の大精霊は太陽にいるんだ」


 ちょっと寄り道しない? というリルナの言葉にリーンはムリムリ、と首を横に振る。


「月に行くのに三日も飛びっぱなしでかかるって聞いたことがあるよ。ボクは途中で眠っちゃうから、落ちて死んじゃうんじゃないかな」


 そういうと、リーンは大きくあくびをしてみせた。今日もいつもどおりホワイトドラゴンキッズは眠いらしい。


「ということは、月の大精霊も……」

「諦めて、ってことかしらねん」


 後ろでイザーラが肩をすくめたのが分かった。すこし身じろぎしたイザーラの腕にドキリとするが、リルナは慌ててサクラの指令を実行するべくリーンにお願いする。


「そ、それじゃぁリーン君。蛮族の群れを探すのを、お願いね」

「……ふあ~い」


 どこかやる気のないあくび混じりの返事と共に、リーンは雲の上を移動し始めた。初めて空を飛ぶイザーラはどこかおっかなびっくり。リルナも慣れているが、それでも落ちれば死が確実に待っている状態というのは、あまりノンキに思えなかった。

 サクラから命じられた最初の仕事。

 それは、こちらも斥候を出す、ということ。コボルトからのおよその情報はあるが、それでも明確な情報は得られなかった。まずコボルトがウソをついていない、という保障はない。拷問してもいいのだが、さすがにご飯を一緒に食べる仲になってしまったので、情がうつってしまったこと。加えて、実は蛮族語は語彙が少なく情報伝達にはあまり向いていない言語であった。上位蛮族、言ってしまえばヴァンパイアに並ぶ種族や、王、領主、支配者ともなる蛮族は総じて共通語を覚えている。もちろん、中には変わり者もいてエルフ語やドワーフ後、大陸で使われている言語も使いこなす〝暇人〟さえいる。

 すくない言葉では真なる意味での把握は不可能。よって、リルナとイザーラに与えられた任務が、敵の偵察だ。しかも空から偵察できる、という唯一無二の方法をレナンシュ陣営が持っている為に、利用しない訳がなかった。

 リーンが飛んでいくのは、およそ北東の方角。敵魔女はどうやら隣国『キュート』に迷宮を構えているらしく、そこから手下である蛮族の群れが移動しているらしい。


「そういえば、その魔女の名前は?」


 雲の上を行きながらリーンが聞く。もしかしたら知っているかも、とリーンは言うけれど、リルナとイザーラは首を横に振った。


「コボルト君は知らないんだって」

「あくまでオーガに仕えている、と言ってるらしいわ。健気よねぇ~ん」


 さすがのホワイトドラゴンも名前も知らぬ魔女の情報はさすがに引き出せないらしく、ふ~ん、と生返事。それよりも、とリルナはかじりついた。


「魔女の居場所とか情報とか知ってるの?」

「え、知ってるよ」


 それがなにか、というリーンにリルナはその体をバンバンと叩く。


「どうしてサクラに教えてあげないのさっ! リーン君のイジワルッ!」

「聞かれてないことを教えないよ。それに、呪いの剣士は、もう主を決めているじゃないか」

「ど、どういうこと?」

「今更、サクラを呪った魔女の居場所を教えたところで、サクラは動かないよ。もうすっかりと自分の場所を作っちゃったからね。老人は、死に場所を決めちゃうともうダメなのさ」

「死に場所……」


 リルナのつぶやきに、リーンは応えない。後ろにいるイザーラも、なにも言わなかった。それはなんとなく理解できた。サクラは、死に方を選んでいる。無様に寿命で死ぬことができず、だからとしって自殺はしない。醜くも二百年もさまよい続け、偶然にしてようやく見つけた死に場所。自分の死に方を見つけることができたので、あとはそれを待つのみだった。今更、他の死に方を提示したところで、彼は動きはしない。せいぜい、笑顔でありがとうと言ってくれる程度だ。


「……よくわかんない」

「リルナは子供だからね」

「わたしはもう大人だよっ!」

「ウソつけ。エールも飲めないくせに」

「あんな苦いもん、飲めるか!」

「だから子供だって言ってるんじゃないか!」


 わーわーぎゃーぎゃー、とリルナとリーンは空の上で口ゲンカ。それを後ろで聞きながらイザーラは苦笑する。

 なにせあのホワイトドラゴン様が、人間と対等に言葉で罵り合っているのだ。彼が本気になると、簡単にリルナなど言い負かすことができるだろう。それでも、彼は人間との、リルナとの会話を楽しんでいる。

 そんな真実に気づき、イザーラは苦笑した。それに気づいたリーンが、ちくりとイザーラを牽制する。


「エルフ族。なにか言ったら呪いを解除してやる」

「言いませんとも、ホワイトドラゴン様」


 ならいいや、とリーンは高度を下げた。雲の下へと出ると、雨は降っていなかったがどんよりとした雨雲は相変わらずだった。


「ちょっとリーン君。呪いも解除できるの?」

「未完成の状態だったらね。サクラのは無理だから」

「むぅ。じゃぁいいや」


 仕方がない、とリルナは納得して地上を眺めた。そこは森の上。地図を持ってきていないので、なんという森かは分からないが、見渡す限りの大きな森だった。そこまで鬱蒼としているわけではなく、木々の高さは低い。それらを眺めながら、リルナとイザーラは周囲を見渡した。

 森の民であってイザーラは目がいい。それには及ばないながらもリルナもそこそこ目が良く、盗賊才能は褒められるほどには、視力がよかった。

 そんなふたりとホワイトドラゴンの知恵と知識と予想をもって、蛮族の集団を探す。さすがに簡単には見つからなかったが、やがてリルナが発見した。


「リーン君、あそこ!」


 その指の先に、森の中でうごめく集団。イザーラが見れば、ちらりと蛮族らしき姿を確認できた。


「第一の目標達成だっ」


 上空にて。

 リルナは小さく両手をあげて喜ぶのだった。


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