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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 9

 数日前、サクラがいつものようにフルイーチの森を訪れると、どうにも雰囲気が違った。というのも、フルイーチの森にいるポップンというゼリー状のレベル0モンスターがいない。いつもは鬱陶しいくらいにポヨンポヨンと体当たりを無謀にも慣行してくるのだが、その攻撃どころか、姿すら見えなかった。


「先客か……?」


 ポップンの恐ろしいところは、無限に湧き出る繁殖力。いったいどうやって増えているのかサッパリとわからないが、ポップンの生息地には大量のポップンがいるのが当たり前であり、一度足を踏み入れると、出て行かない限り付き纏われる、という習性があった。攻撃力がゼロなだけに冒険者の練習相手としては申し分ないのだが、一度見つかってしまうと永遠にポコポコと体当たりを食らわせられるので鬱陶しいことこの上ない。そういう意味では、精神的な攻撃を仕掛けているのかもしれなかった。

 そんなポップンの姿が見えないとなると、考えられるのはひとつ。サクラの直前に誰がか森に訪れた、ということだ。

 サクラは素早く気配を探ると、その方角へと移動する。盗賊ほど優れた隠密能力ではないが、それでも持ち前の経験と身体能力を活かして森の中を移動した。間違ってもポップンと遭遇するわけにもいかないので、慎重に移動していくと、やがてポコポコと音が聞こえる。


「ふむ」


 ひとつ小さくうなづくと、サクラは木の上へと移動した。できるだけ音を立てずに様子をうかがっていると、一匹のコボルトが移動してくる。


「×××」


 コボルトは蛮族語でなにか言いながらポップンを蹴っ飛ばした。もちろん、その程度でポップンは死なず、道を明けることもしない。ポコポコポコポコと永遠に体当たりを続ける。

 そんな様子をサクラは観察し、周囲に仲間がいないことを確認すると、木から飛び降りた。


「コボルトがこんなところでどうしたん? 迷子か?」

「×、×××!」


 コボルトは慌てて武器を抜く。腰に装備していたボロボロの短剣。包丁のほうが、まだ切れ味が上のような、刃こぼれとサビてしまっている短剣を構えて、がうがうと威嚇する声をあげる。


「共通語はしゃべれへんのか?」

「×××、××!」

「大丈夫やて。攻撃せーへん。ほれ、降伏や。ばんざーい。あ、お腹を見せて寝転んだらええんやっけ?」


 それは本物の犬の場合か、なんてノンキに笑っているとコボルトも緊張感が解けたのか、やがてダガーを下ろす。コボルト自身も敵意がないことを示すためか、サクラに合わせてバンザイをした。


「せやけど、コボルトがひとりで珍しいなぁ。どっかから逃げてきたんか?」


 蛮族の中でも最弱と言われる種族。強さがそのまま支配に繋がる蛮族の世界では、コボルトは基本的には奴隷的扱いを受けることが多い。なので、人間の街に逃げてくる者も多く、なぜか料理適性がある為にコックの職に就く者が大勢いた。

 そういうこともあってサクラは質問するが、やはり共通語が理解できないらしく、会話にならない。


「仕方ないな」


 放っておくわけにもいかず、サクラは倭刀をすこしだけ抜き、キンと鍔を鳴らして納刀する。倭刀……いや、サクラの持つタイワ刀〝クジカネサダ〟の持つ特殊能力である『魔断ち』が発動した結果だ。レナンシュの迷宮の入り口を隠す結界を破り、サクラとコボルトを迷宮に無理やり移動させたのだった。


「わ、わわわわん!?」

「まぁまぁ、落ち着いて。ほれ、これでも食べや」


 慌てふためいて周囲を見渡すコボルト。それに対してサクラは干し肉を手渡し、蛮族の肩をポンポンと叩いて落ち着かせる。しかし、コボルトが落ち着くどころか干し肉にかぶりついた。どうやら相当にお腹がすいていたらしく、硬いジャーキーを蛮族らしい喰い千切りで、あっという間に食べてしまった。


「×××××!」

「……今のは分かったで。おかわりやろ」


 ため息ひとつ。しゃーないなぁ、とサクラは干し肉を渡してから、コボルトの背中を押してレナンシュの元まで誘導したのだった。


「まぁ、その結果、戦争をおっぱじめるための斥候やっていうのが分かったんやけどなぁ。相当なハラペコで、敵地よりもご飯の美味しさに負けたっちゅうことや」


 すっかりと居ついてしもうた、とサクラは苦笑しながら肉を頬張るコボルトを指差した。


「でや。このコボルト君が言うには、あっちの魔女は蛮族を寄越して魔女の迷宮を攻略、破壊するつもりらしい。率いてくるんは魔女やのぅて、オーガ種らしいで」

「オーガって、あの角の生えた蛮族だっけ」


 リルナの質問にサクラはうなづく。蛮族の中でもかなりの上位に位置する種族であり、それこそ蛮族の支配する土地の長になる者も多い。非常に好戦的であり、頭に角が生えているのが特徴だった。


「ルルちゃん、調べて」

「は~い」


 ルルは鞄から森羅万象辞典を取り出し、オーガ種のページを開く。基本的な情報に加えて、ルルは読み上げていった。


「角は、個人差があるみたいです~。額に生えている者や、側頭部から生える者、変わった者は頭の頂点から生えている者までいるそうですよ~。蛮族ですので、レベルはまちまちだけど~、種族限界は100、つまり神様になれる蛮族です~」

「う~む、それは強いのぅ。最低レベルはどれほどなのじゃ?」


 メロディの質問にルルはもう一度ページを精査する。


「え~っとですね~……最低でも25から30ほど、らしいですよ~。強いです~」


 うげげ、とリルナ。メロディも同じ言葉を言いそうなほどに顔をしかめた。


「つまりや。絶対にお前さんたちは単体にならないこと。正面から戦っても敵の大将には勝てへんって思いや」

「で、でもさ。ということは、向こうの魔女は、そんなオーガよりも強いってこと?」

「そうなるな」


 なんでもないようにサクラは肩をすくめた。冒険者レベルでいうと、サクラのレベルは低い。しかし、実力はレベルより遥かに高く、オーガでもなんでも応対が可能だろう。だからこそ、余裕があるのかもしれないが、自分たちより強い蛮族を相手しないといけない、なんて思うとリルナとしては逃げ出したい気持ちがちょっぴりと心に浮かんできた。


「大丈夫やて。みんなを呼んだんは、ウチがその大将と一対一で戦うためや。さすがにウチも周囲から囲まれて袋叩きにされたら死んでしまうしな」

「つまりは囮とか、壁役かのぅ。妾は別に構わんが、ルルやリリアーナにそれが務まるのか?」

「ま、それも作戦があるんで、気にせんといて」


 覚悟は決まったか、とサクラはリルナに聞く。リルナは思わず周囲を見渡すが、どうやらリルナ意外はすでに覚悟の上だったらしい。適当にホイホイと着いてきた自分の考え無さにちょっぴり反省しつつ、右手の拳を握り締めた。


「が、がんばるっ!」

「よっしゃ!」


 頼むで、とサクラはリルナのお尻をパンと叩いた。


「ひゃう!?」


 思わず声を上げてしまうリルナをケラケラと笑ってから、サクラは最初の指令を出した。


「まずはリルナ。お前さんとイザーラの仕事や」

「え、いきなり……?」


 魔女同士の戦争。

 防戦にまわるこの戦いの最初の一手に自分が任命されて、リルナはすこしだけビックリしながらも、しっかりとサクラの言葉を聞くのだった。


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