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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 8

 すっかりとイケメンになってしまったイザーラ。

 スラリと優雅に伸びる手足は、ひょろりとしている訳ではない。しなやかさの中に確かな筋肉があり、よりスマートに彼の腕や脚を見せている。短髪だったはずの髪も肩口まで伸びており、金色は鮮やかに光を反射していた。無骨な顎もシャープになり、身長はすこし低くなってしまったが、それでも長身は長身。

 唯一、彼の変わらないところといえばエルフの特徴でもある尖った葉のような長い耳。

 そして――


「ウフフ、そんな見つめちゃイヤん」


 そのワザとらしい女性口調は変わっていなかった。


「むしろ美景になっただけに気持ち悪さを感じるのぅ……イザーラ、ちょっとお願いがあるのじゃが?」

「あら。なにかしらん、お姫様」


 こっちこっち、とメロディはイザーラの服をもって移動させる。その位置はリリアーナの隣。そこに立って腰に手をこう、というメロディの要求に応えるイザーラとリリアーナ。

 果たして、その効果はリルナだけでなくルルまでも感嘆な声をあげた。


「お~っ!」

「すばらしいですぅ」


 絶世の美男子と美女が立ち、ポーズを決めている。まるで寝物語に聞いた冒険譚に出てくる勇者とお姫様そのもの。ふたりが並ぶだけで神様もびっくりな美しさを発揮していた。


「宮廷画家! 宮廷画家はおらぬか!?」

「あ~……わかる。これは売れるよねっ」

「5ギルは取れるんじゃないかなぁ~」


 少女たちがキャッキャと盛り上がる中、大人なサクラとリリアーナ、そしてイザーラは苦笑する。ひとまず落ち着くまで、とサクラはコボルトに向かった。


「問題ないか~」

「×××××」


 サクラの言葉に対してコボルトが蛮族語で返答する。意味が分からなかったが、表情とブンブンと振られているしっぽでなんとなく要求は伝わった。


「ご飯か」

「ワン」


 それくらいの共通語は覚えたらしい。ワン、と返事して首を縦にふるコボルト。仕方ないなぁ、とサクラは肩をすくめてから、待っとれ、と小屋から出て行く。


「イザーラさん、と呼んでいいのでしょうか~?」

「あら、街一番の美人があたしの名前を覚えてくれるのかしら。光栄だわん」

「私も光栄ですぅ。できれば一晩を共にしたいですけどぉ、女性は抱けませんの?」

「申し訳ないわね。あたし、魂は完全に女なの。ベッドを共にするのは殿方だけって決めているわ。あたなはどっちともいけるのかしら?」

「はい~。心地よさ、気持ちよさ、ステキなこと、それは男女に差はありませんよ~。どちらも快楽に違いはありません。男性に抱かれる気持ち良さも女性を抱く気持ち良さも、甲乙つけがたいですぅ」

「好きなのねぇ~」

「はい~」


 肩をすくめるイザーラに対して、リリアーナはにこにこと笑った。そんな下ネタな会話さえ、美男と美女ならば絵になってしまうらしく、少女三人はキラキラとした目でふたりは見つめた。


「いやしかし、もったいないのぅ。イザーラは、このまま呪いを止めぬか? 今ならばその顔で富も名声も得たい放題じゃぞ」


 そういうお姫様に対してイザーラは首を横に振る。


「いくら美しくても嫌だわん。不細工な女と今の自分なら、あたしは間違いなく不細工な女を選ぶわよ」

「誰にもモテなくてもいいの?」


 リルナの質問に、イザーラは間髪なくうなづく。


「えぇ。醜悪な顔になろうと、ブスと石を投げられても、あたしはこの男の体が合っていないの。だから、女であれば何者でも構わない。たとえ男性に嫌われるような外見でもね」


 相当な覚悟があるようで、イザーラは問題ない、と言い切った。魔女の呪いまで受けている身だ。それこそ、まともな人生を歩めなくなる可能性もある。もっとも、イザーラに言わせれば、今までの人生もマトモでは無かった。彼は、彼女になるために地獄の道すらも歩く覚悟がすでにできあがっていたのだ。


「そっか。それがイザーラの幸せなんだね」

「そうね……はじめてシアワセを感じられるのかもしれないわね」


 イザーラは、すこし困ったような笑顔を浮かべて笑った。魂と心と体。それが合わないで生きてきたイザーラの苦労を、リルナは思うことすら困難だ。だけど、その不幸せだった状態がもうすぐ終わる。

 でも、それはレナンシュが無事だった後の話だ。魔女同士の争いに勝たなければ、イザーラの呪いは完成することはない。


「みんな、レナンシュだけじゃなくって、イザーラのためにも頑張ろうっ!」


 リルナの言葉に、メロディとルル、そしてリリアーナが元気に拳をふりあげて声を出す。


「なんや知らんけど、士気が高まったみたいやな。いいこっちゃ」


 と、サクラが戻ってきた。手には骨付きの肉。焼いてあるのか良いにおいが漂ってくる。サクラはそれをコボルトの前に置いた。


「待て、やで」

「ワン」


 コボルトは大人しく待つと、しっぽをブンブンと振る。すっかりと本物の犬扱いされているのだが、当の本人は気にしていないらしい。そもそも目が肉から離れていない。


「よし、食べや」

「×××!」


 さて、蛮族語でなんといったやら。喜び勇んで肉に食いつくコボルトに肩をすくめてから、サクラは一同に合流する。


「そのコボルトさんはどうしたの?」

「斥候や」

「セッコー?」


 偵察みたいなもんや、とサクラはリルナの質問に答える。


「今回の魔女同士の戦い……まぁ、小規模な戦争やな。それの始まりは、こいつを捕まえたところから始まったわけや」


 そういって、サクラは事の経緯を説明するのだった。


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