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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 6

 相変わらず青空は見えないが、それでも雨は止んだらしい。またいつ降り出すか分からない中、リルナとメロディ、そしてルルは店主のカーラに挨拶を済ませ、店の前へと出た。水溜りに映る雲を見ているとすぐにサクラが戻ってくる。


「あ、リリアーナ」


 サクラの後ろに着いてきた有翼種の女性の姿を見て、リルナはすぐに彼女と判断した。いつもの娼婦の煌びやかな露出の激しい服ではなく、清楚な神官服。それでも街一番の娼婦たるリリアーナの美しさを微塵も損なうことなく発揮していた。それになにより、胸が大きい。神官服が歪に見えるほどに、隆起した彼女の乳房はどれだけ姿を変えようともリリアーナの証明になってしまっていた。


「相変わらず破壊力の高い神官じゃな」

「攻撃力が違いますね~」


 メロディとルルがリリアーナの美貌と肉体に感心する。リルナもそれに連なりたりものだが、先にサクラに聞いた。


「リリアーナも巻き込んじゃうの?」

「持てる限りの総力戦や。ちなみにサヤマ女王にも話を通したんやけど、断られた」


 あら珍しい、とリルナは驚く。

 冒険者から引き摺り下ろされて領主と成り果てたサヤマ女王。争い事なら喜んで参加しそうなものだが、理性が勝ってしまったようだ。


「難儀やなぁ。ウチも貴族になりたいもんや」

「絶対にロクな統治しないでしょ」

「まぁな」


 否定しなかったサクラに対して、眉間にシワを寄せて抗議したリルナ。そんな偽貴族を放っておいて、リリアーナに群がる少女の輪に加わった。といっても、ふたりだが。


「リリアーナもサクラに言われて手伝うの?」

「はい~、そうですね~。お金ももらいましたし~」

「いくら?」


 というリルナの疑問にリリアーナは、さぁ? と首を傾げた。


「お外に連れ出してもらえるコースはありますけど、時間が指定されてますからね~。仮に一日デートコースとなると~……500ギルくらいでしょうかぁ」


 ちなみにリルナたちが所属するイフリート・キッスの宿代が格安の一日500ガメル。つまり、千日分が一日で消えることになる。少女たちはおずおずとリリアーナから離れた。


「あ、あれ~? みなさん、汚くないですよ~。ほら、綺麗ですからね~」


 リリアーナは両手を広げるが、一日500ギルの女性に飛び込む勇気はなかった。彼女の肌に傷をつければ、それだけで100ギルぐらいは払わされそうな気がするリルナたちだった。


「ほれ、行くでお嬢さん方」


 サクラが移動し始めるので、慌てて付いていく。人通りの少ない中央通りに沿って、門を目指した。


「サクラ、そんなにお金もってたの?」


 ひとまずサクラに追いついたリルナが聞く。冒険者としてはそこそこ運の良いパーティだが、豪遊しているサクラにそんなお金があるとは思えなかった。


「アホか。リリアーナは休日。たまの休みに外へ連れ出すくらい、構わんやろ?」

「あ、ウソだったの!?」


 リルナはリリアーナを見るが、彼女は口元を神官服の袖で隠してクスクスと笑った。見事に騙された、とお姫様も学士見習いも肩をすくめたり落としたり。

 そんな風にキャッキャウフフと雑談しながらサヤマ城下街を出て街道を行く。雨が降った後なので水溜りはぬかるんだ場所を避けながら歩いていくと、やっぱり雨が降ってきた。


「降ってきたのぅ」


 手のひらで雨を受けながらメロディを空を見上げる。リリアーナは神官服のフードをかぶり、ルルは学士の帽子の位置を整えた。頭装備を持っていないリルナはマントを頭にかぶる。メロディはバックパックに入っている冒険者セットからタオルを出して頭に乗せた。


「サクラはなにか無いの?」

「雨に濡れたら、溶けるんか? それに、結果は同じやって」


 どうやら濡れてもきにしないらしい。リルナは肩をすくめ、それ以上の質問はやめておいた。シトシトと雨が降る中では会話も億劫なのか、その後は無言で足を進める。ようやくフルイーチの森に到着したころには、全員がずぶ濡れになっていた。


「ほらな、全員がべちょべちょや」


 カカカと笑うサクラに対して、リルナはマントを頭から下ろす。結局、マントが濡れきってしまえば、頭にも雨がしみこんでくるので、ボトボトに濡れてしまっていた。


「また水か……」


 どうして冒険中に自分は水に濡れてしまうのか……そんな呪いみたいな運命に腕を組んでいると、サクラが倭刀を手に取る。なにをするのかと思いきや、すこしだけ鞘から刃を見せるとすぐにチンと鞘にしまった。

 と、同時に周囲に変化が起きた。森の中にいたのだが、また別の森に移動していた。なにより雨が降っていたはずなのに、その気配が消える。水気を含まないカラッとした空気に変化した。


「な、なに?」


 思わず空を見上げたリルナは、あっ、と声をあげる。そこに空は無かった。変わりに黒く鏡面になっている石。以前に訪れた際に見た魔女の迷宮の不思議なタイルが天井に敷き詰められていた。


「ということは、ここは魔女の迷宮?」

「そうやで」


 以前は黒いタイルだけだった迷宮。

 それが、今では木々や草、苔が足元を覆う森になっていた。


「ここがウチらの砦。最終防衛ラインにして、魔女のテリトリー。魔女レナンシュ・ファイ・ウッドフィールドの森の迷宮や」


 鬱蒼と茂る木々が、天然の迷路を造り、そして罠をしかけている。

 随分と様変わりしてしまった迷宮に、リルナとルルは感嘆の声をあげるのだった。


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