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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その19 ~マジカルだいせんそー~

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~マジカルだいせんそー~ 5

 受け取った布の袋。その感触はあまり良くない。


「ん……?」


 かしゃり、と硬貨のすれる音はすくなく、手の上にあけてみるとコインが5枚だけ落ちてきた。


「5ギル……」


 なんですかこの安い値段は、とリルナはサクラを半眼で見る。その視線を真っ向から受け取った元爺は臆することなくルルにも布袋を手渡した。


「人手は多いほうがええ。ルルも手伝ってや」

「お~」


 と、ルルの袋からはジャラジャラと音がした。その音だけで値段の差がありありと感じられて、リルナは抗議の声をあげた。


「人間の価値は平等だっ!」

「身内割引でオマケしてや。ちなみに、お姫様の分がこれや」


 寝ているメロディの分をリルナに手渡す。受け取った音からして枚数は少なく、恐らくリルナと同じ5ギルだろう。


「これだけ少ないんだったら袋いらないよ」

「カッコくらいつけさせてや」


 はいはい、とリルナは肩をすくめる。


「よし、受け取ったな。付き合ってもらうで」

「いいよ。パーティのひとりが困ってるんだもん。なんでも手伝うよ?」

「娼館に借金こさえてきてもか?」

「帰れ」


 嘘やウソ、とサクラは苦笑する。


「まぁ、ウチの頼みっていうたら十中八九わかると思うけどな」

「……魔女関連?」


 正解や、とサクラはため息をこぼす。これで本当に娼館関連だったら呆れて追い返すところだが、その必要はなくなった。


「レナンシュになにかあったの?」


 森に住む魔女、レナンシュ・ファイ・ウッドフィールド。生まれたばかりだった魔女レナンシュは、不幸にもリルナやサクラに出会ってしまった。そこで退治されてもおかしくはなかったのだが、そこはサクラにとっての幸運。魔女の呪いを解くために、魔女と契約したのだった。

 サクラの体に刻まれている呪いは三つ。

 時間遡行の呪い。

 性別反転の呪い。

 肉体時間停止の呪い。

 それら三つの呪いは、それぞれ別の魔女によって与えられたもの。呪いを解かんともがくあまりに、玩具のようにもてあそばれた結果だった。それらはおよそ二百年前からの話。サクラ自身、自分の年齢はもう覚えていない。それほどまでには、世界をさまよっていた。

 サクラはべつに不老不死というわけではない。不老ではあるが、不死ではない。つまり、心臓が止まれば死ぬ。血を失えば死ぬ。首をはねられたら死ぬ。その他、諸々の理由で死ぬ。ただ寿命で死なないだけ。

 ならば何故、サクラは呪いを解こうとしているのか。

 それは、人間らしく死ぬため。普通に年を取り、老人になり、笑って死んでいくために、呪いを解きたい、とサクラは言う。

 どうしてそれを望むのか、という質問にサクラは答えなかった。その理由は定かではないのだが、その行幸が見えてきたのがレナンシュとの出会いである。まだ幼い魔女の子供。そんな彼女が一人前になれば、サクラの呪いは解呪できる。だからこそ、サクラはこの地に留まり、餓死しない程度には冒険者としてお金を稼いでいるのだった。

 宿に所属しているが、もっぱら娼館と魔女の迷宮に泊まり込んでいるが。


「レナンシュになにかあった訳やあらへん。簡単に言うと、レナンシュがケンカを売られたんや」

「誰に?」

「魔女に、や」


 どういうこと? と、リルナとルルは首をかしげた。


「魔女っちゅうのは、蛮族なんは知っとるな」


 蛮族とは、ニンゲンとエルフとドワーフ、そして獣耳種と有翼種以外の種族で、人型の者を指す場合が多い。ゴブリンといったモンスターと変わらない知性のものから、ダークニゲンやダークエルフ、ダークドワーフといった蛮族側についた人間種も存在する。魔女も、魔法に特化した蛮族として人間と敵対関係になる存在として認知されていた。


「魔女の敵は人間、と思われるかもしれんが、実は違ってな。魔女が人間を襲うのは力を付けるためなんや。魔法は使えば使うほどに魔力がアップする。経験を積めば積むほどレベルがあがるのと一緒。で、その理由は簡単や」


 サクラは人差し指で頬をかいた。どうしようもない事実に肩をすくめるように、その理由を語る。


「魔女の真なる敵は、同じ魔女なんや」

「……魔女同士で争ってるの?」


 リルナの質問にサクラはうなづく。


「そうや。それもメッチャ分かりやすい理由があるねん」

「縄張り争いとか?」

「別の魔女を取り込むことで魔女は劇的に魔力を増やす。単純に、その魔女の能力を自分の物にできるわけや」

「……そ、そんなことができるの?」

「できるんやろうなぁ」


 サクラは肩をすくめた。そのままメロディが寝ているベッドに腰かける。


「レベル1の魔女が、仮にレベル100の魔女を倒して取り込んだとしたら、レベルは101になる。コツコツと努力と根性で魔力を上げていくより、手っ取り早いやろ? そんな単純な話が、魔女の世界にあるわけや」

「それはうらやまし――じゃなくて、タイヘンな世界だ」


 思わずリルナがつぶやいてしまった言葉にサクラは苦笑した。その気持ちが充分に理解できる。言ってしまえば、簡単に強さが手に入るわけだ。魔力が欲しい戦士ならば、魔法使いを倒して取り込めば、魔法戦士の出来上がり。召喚士であるリルナが、神官を取り込めば回復魔法だって使えるようになる。

 もっとも、そんなことは神様が許さないだろうが。


「それでレナンシュが狙われちゃったのね」

「そうや。生まれたばかりの魔女や魔力の弱いもんは狙われへん。せやけど、レナンシュはウチやイザーラに呪いをかけた。イザーラの呪いはまだ完成してへんけどな。それでも経験値としては莫大や。レナンシュの力は一気に上がったことになる。リルナ、お前さんひとりやったら、もう勝てへんかもしれへんで」

「そ、そんな強くなってるの?」


 まぁタイマンやとリルナに分があるけどな、とサクラは苦笑する。


「そんなわけで、レナンシュもついに一人前の魔女の仲間入りや。つまり、狙われる側になった。そこで、リルナとメロディ、ついでにルルにもレナンシュの手先になってもらうで」

「私はついで~?」

「はっは。ルルには正面切っての戦闘やのぅて、裏方やな。手伝ってくれんか?」


 ルルは袋の中に詰まったギル硬貨をジャラジャラと鳴らせてオーケーと笑った。


「あとはお姫さんやけど――」

「妾も、もちろん引き受けるぞ。お金はいらぬが、それでも雇われる身じゃからのぅ。すこしはもらっておくか」

「起きてたんだ、メロディ」


 うむ、とお姫様は身を起こした。すでに精神力は回復したようで、スッキリとした顔をしている。


「よし、決まりや。頼むで、お嬢様方?」

「分かったっ!」

「任せるのじゃ!」

「はいです~」


 三者三様の返事をする少女たちの姿を見て、サクラはすこしだけ優しそうな笑顔を浮かべた。いつもの美人でカラカラとした笑顔ではなく、どこか老人が孫の成長を喜ぶ、そんな表情に思えたのだった。


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